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第2話:兄妹同盟とすれちがう気持ち

読んでいただきありがとうございます!毎日19時に更新します♩

 王宮から戻った公爵家。


 わたしと兄は父の執務室になだれ込んだ。

「お父様!あの縁談、受けるおつもりですか!?」

「そんなことになったら、僕はソフィアと…!」

 口々に叫ぶわたしたちに、父は疲れた顔で首を横に振った。

「時間を稼ぐので、精一杯だった。…だが、どうする?アレクシス殿下とのことも、ソフィア王女とのこともわかる。だが、王命に等しいこの縁談を、一公爵家の都合で断れると、本気で思うのか?」


 父の言葉に、わたしたちは押し黙る。そうだ、これは、ただの恋愛問題ではないのだ。

「あの様子を見るに、国王陛下もこの問題を持て余しているのであろう。王族方が動いてくださっている可能性が高い。しばらく様子を見るしかないだろうな。」

「しばらく様子を見るって!その間に、ことが動いて身動き取れなくなったら、どうされるのですか?」

「そうしたら、僕はソフィアの元に行きます!家を出ます!」

「ずるいわ、お兄様!だったら私もアレクシス殿下と共に国を出ます!」

「そしたら、公爵家を継ぐ者がいなくなってしまうだろ?アンジェが継げばいいよ。」

「またその話ですの!?お兄様が継げば良いでしょう!?」

 段々と話がズレていき、兄妹ゲンカが再燃してきたところで、父が一喝した。

「うるさいぞ、お前達!とにかく、お前達が何かし出すと碌なことにならんのだから、余計なことはするな!」

 ……余計なことって!

 自分の一生がかかってるのに大人しく待ってられますかっての!


 ◇


 その夜、わたしは兄リヒルトの部屋の扉を叩いた。

「お兄様、入りますわよ」

「やあ、アンジェ。どうしたんだい、こんな夜更けに」

 いつもは陽気な兄も、さすがに憔悴した顔で、窓の外の月を見ていた。

「どうしたもこうしたもありませんわ!このままでは、私たち二人とも、望まぬ未来を強制されることになります!」

「…そうだね。僕は、ソフィアを諦めるくらいなら、本気で、この国を捨てるよ」

「アレクシス以外と結婚するなんて、私も死んでも嫌よ!」

 わたしたちは、お互いの顔を見合わせた。敵は、あまりにも大きい。国と、国との和平。そんなものを、わたしたち二人の恋心で、どうにかできるというのだろうか…


 いや、でも。

「…お兄様」

「…なんだい、アンジェ」

「二人で、足掻いてみませんこと?」

 わたしの言葉に、兄の瞳に、いつもの快活な光が戻ってくる。

「そうだね!一人じゃ無理でも、アンジェと僕が組めば、最強だ!なんたって、僕たちはクライネルト公爵家の…」

「最強タッグ、ですわね!」

 こうして、わたしと兄の、それぞれの幸せを勝ち取るための、秘密の同盟が結成された。


 ◇


 翌日、わたしはいてもたってもいられず、アレクシス殿下の元へと向かった。兄とタッグを組んだとはいえ、やはり彼の知恵と力が必要だ。

 しかし、王宮にある彼の執務室を訪ねても、近衛兵に「殿下は多忙につき、面会はご遠慮ください」と、門前払いされてしまう。


(なによ、恋人が一大事だっていうのに!)

「正面玄関がダメなら、裏口から行くまでよ!」

 わたしは、彼が率いる特殊部隊『月影の猟犬』の詰所へ忍び込むと、案の定、彼は山積みの資料と地図に囲まれ、まるで別人のように、鋭く、冷たい顔で部下たちに指示を飛ばしていた。


「アンジェーヌ…!?なぜ、ここに」

「お話がありますの、アレクシス殿下!」

 わたしが協力依頼を切り出そうとすると、彼はわたしの言葉を遮り、低い声で言った。

「アンジェを誰にも渡すつもりはない。そして、この縁談には裏がある。…今、その黒幕と魂胆を探っている最中だ」

 彼の瞳は、もはや恋人のものではなく、国の闇を狩る「猟犬」の頭領のそれだった。


 彼は、わたしの肩に手を置き、強い力で、しかし有無を言わさぬ口調で、釘をさす。

「俺がなんとかするから、余計なことは絶対せず、待っていてくれ」

 その言葉に、わたしの頭の中で、何かがプツンと切れた。

 待っていろ?余計なこと?

 なんなのよ、みんなして『余計なこと』って!

 バルトロとの戦いで、危険な「餌」の役目を、わたしは見事にやり遂げたはずだ。それなのに、あなたはまだ、わたしを「守られるだけの無力な存在」だと、そう言うの?

「は?余計なこと?わたし自身の未来のために、わたしが動くことが余計なことですか?」

「……そういう意味ではない」

「じゃあ、どういう意味です?」

「……君が動くと…心配なんだ…」

 は!?わたしが動くと、余計なことをしでかしそうで心配ってこと??

「前に、わたしは、立派に餌の役を行えたと自負していたのですけれども!?」

「もう君は!餌ではないと言っただろう!」

 何?餌の役じゃなくなったから、もう必要ないってことなの??


 もういいわ!彼がわたしを信じてくれないなら、わたしがわたしのやり方で、彼が必要とする以上の結果を出して見せる!

「わかりました!お忙しそうですものね!お邪魔しました!」

「待ってくれ!アンジェ!」


 ◇


 アレクシスの言葉を振り切り、王宮を飛び出したわたしは、すぐに公爵邸のリヒルトの元へと向かった。

「お兄様!今すぐ、アストリア王国へ行く準備を!」

「えっ!?どうしたんだい、アンジェ!?」

「王族が頼りにならないのなら、わたしたちでやるしかありませんわ!」

 わたしの瞳に燃える怒りの炎を見て、兄は一瞬呆気にとられた顔をしたが、すぐにニカリと笑った。

「いいね、それ!面白くなってきた!」


 こうして、怒れる公爵令嬢(元OL)は、冷徹王子の静止を振り切り、頼れる(?)兄と共に、敵地の渦中へと、自ら飛び込むことを決意したのだった。


 リヒルト兄様と共に、わたしは大胆不敵な計画を立てた。公爵家の権限を最大限に利用し、「婚約を前向きに検討するため」という、これ以上ないほど正当な名目で、アストリア王国への公式訪問を取り付けたのだ。

 最初は渋っていたアストリア王国の使者だったが、

「我が国の我が公爵家へと、婿に来ていただくのですもの。まずは、こちらから足を運んで、最大限の配慮を見せるのが筋ではないかと思いませんこと?」

 と、こちらはおたくらを尊重しますよアピールをして

「しかも、エリアス王子は、とても素敵な方と伺っております。早くお会いしてみたいという乙女心もわかっていただけませんか?」

 などと、可憐な少女ぶりっ子をしたらイチコロだった。


 もちろん、アレクシス殿下には相談もしていない。

 父と母は血相を変えて止めてきたが、「これもクライネルト家のためです」の一言で押し切った。

 しかも、もう、使者様からは承諾もらっちゃった後だしね!今更よ!

「…だから…余計なことはするなと言ったのに…」

 胃を押さえて言う父を見て、少し良心は咎めるが…

 ーーーでも、自分の未来は自分で切り拓いてやるわよ!


 こうして、わたしは自ら虎の穴へと乗り込むことにした。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます♩

次回から、アストリア王国で色々やります。


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