少女 連れ出す
次の日の朝少しリラックスした表情のセラを見て勇気を出して声をかける。
「セラは出かけたりしないの?」
不思議そうな表情をしたセラ。
「ええ。行かないわね。人の目が嫌だから。」
「そっか……。」
確かに世界でも彼女の名前を知らない人はいないぐらいの人気アーティストだ。
ホイホイ外には出られないのだろう。
なんとか次の言葉をと思った時にはセラはまた自室に帰ってしまった。
作戦変更。
とりあえず行きたいところから絞ることにした。
うーん……。
行けそうなところだと自由の女神とか行きたいかも。せっかくのアメリカだし……。
でも自由の女神とかってすごい安易なのか?
でも他に何があるのか実は知らない!
あーと頭を抱える私はとりあえずテレビを付けた。
テレビは相変わらず何を言ってるのかはわからなかったけどそこには可愛らしいケーキと鮮やかな赤色の紅茶。
「アメリカン・ダイナー/アフタヌーンティー」
リラックスできそうなカフェだ。
そんなに自由の女神からも離れてないしここならいいかも。
あとは言い出せるかどうかだ。
なんたってあと5日しかない。
心臓がバクバクする。
落ち着けるために私はギターを弾き始める。
今作っている曲を口ずさみながら。
夜になりセラはまた料理を始めた。
なにか鼻歌を歌っていたが私はパソコンを開いて作業をしていたから何を歌っていたのかは分からなかった。
「はい。」
コトンとセラは私の前にお皿を置いてくれた。
「ありがとう。」
また黙ってご飯を食べ始める。
たが私はごくりと唾を飲み口を開く。
「あ、あのさセラ。」
「どうしたの?」
「明日、暇だったらでいいんだけど、出かけてみたくて……。」
うーん。とセラは手を顎に当てて考え始めた。
無理かも。そう思った。
やっぱり大丈夫。そう言おうとした瞬間だった。
「いいよ。ただ昼に少しだけでいい?」
「え、いいの?」
「うん。」
セラはふわりと笑った。
可愛い。
「どこに行きたいの?」
そう言われ私はスマホを差し出す。
「自由の女神像とカフェに行きたくて。」
「カフェ?」
「そう!ケーキと紅茶が美味しそうで……。」
「わかった。」
少し彼女の頬が緩んでいる気がするが気の所為かもしれない。
その後も少し会話をしてお互い部屋へ戻った。
次の日。いつも通りの朝を過ごし昼過ぎ。
セラは約束通り連れ出してくれた。
「なんで自由の女神像なの?」
運転しながらセラは不思議そうに言った。
「アメリカって言ったら自由の女神像かなって思って。」
「ふーん。」
また会話が終わりそう。まだ終わらせたくなかった。
「セラは日本でどこか行ったことある?」
「浅草?大きいお寺?みたいなのがあった。」
「浅草いいね!美味しいもの沢山あるし!」
「抹茶が美味しかった。」
セラはニコリとしながら言った。
もしかしたら実は甘いものが好きなのかもしれない
「セラはなんで日本語をしゃべれるようにしたの?」
気になってたことを聞いてみた。
「……日本が好きだから。」
「そうなの?」
「音楽も好き。三味線とか太鼓とか。」
「和楽器かぁ。日本にいてもあんまり聞かないんだよね。」
「楓は?」
「え?」
「なんでアメリカに来たの?」
「セラを見たから。」
「え?」
信号待ちでこっちを見たセラは困惑した顔をしていた。
「私、音楽を投稿してるんだけど全然上手くいかなくて、そしたらセラのオーディション番組の映像が流れてきたの。だから来たの。勉強?みたいな。」
言ってて恥ずかしくなってしまった。
「じゃあ私と出会ってラッキーだったね。」
「ほんとにそう!夢見たい!」
「嬉しい。」
落ち着いた声。でも少し嬉しさが滲んでいる。
昨日までとは全く違う雰囲気のまま港へ着いた。
「here。」
そう言って彼女はリストバンドを差し出した。
「これは?」
「クラウンまで上がれるチケット。」
「え?」
「せっかくだから取った。」
「ありがとうセラ!」
フェリーに乗ってリバティ島まで向かう。
「すご……。」
「私も久しぶりに来た。」
「足枷と鎖があるんだね……。」
初めて見る本物に興奮が止まらない。
そのままクラウンまであがる。
「すごい景色!」
「エンジョイしてる?」
「もちろん!」
運のいいことに人は少なく、セラがいることもバレていない。
機嫌の良さそうなセラに音楽について聞いてみようと思った。
「ねぇ、セラにとって音楽って何?」
驚いたような表情をしたセラは少し考えた後に外を見つめる。
「人生。」
ぽつりと言った。
「私は音楽の神に選ばれたの。だから音楽を続けなくてはならない。」
まるで自分に言い聞かせるようだ。
「小さい頃から音楽をしてきた。ピアノのコンクールを最年少で金賞を取ったときから母は音楽の神の子と私を呼んだ。大きくなってIDiOMで歌い始めたときもマスターやショウは私を絶賛した。勧められるままオーディションにでた私は簡単にスカウトされてここまで来た。私は間違いなく音楽の神の子。そして私はジャズもロックもなんでもこなす、自由の象徴。」
その言葉の中に少し悲しさが混じっているように感じるのは私の気の所為だろうか。
それに自由の象徴と言いながら自分で縛っていないか?
「この国は自由よ。音楽と同じでね。だから私はシンデレラのようにここまで来た。他の国じゃ出来ないわ。」
「苦しくないの?」
思わず本音が出てしまった。
「……ええ。これが私の進むべき道だから。」
それ以上追求なんて出来なかった。
「楓は?」
「え?」
「楓にとって音楽は?」
「私にとっての音楽は……好きなもの……かな?小さい頃から音楽が好きで、憧れで。でも上手くいかないや。覚悟がないからなのかな?ギターも上手くならないし、いいものも作れない。」
彼女との対比に泣きそうになった。
私はなんて惨めなんだろう。
「羨ましい。」
ぽつりとセラは呟いた。
「好きっていう気持ちは、大事。それに他はトライアンドエラーだから気にしない。」
じゃあセラは音楽が嫌なの?それは恐ろしくて聞けなかった。
「くしゅっ。」
少し冷えたのかくしゃみが出てしまった。
「降りようか。」
セラの言葉で私たちは戻った。
港に戻った私たちは次の目的地へ向かった。
「可愛い!」
外観を見て私は声を上げた。
「ふふふ。」
セラも笑っていた。
中に入りチョコケーキがいいだのアフタヌーンティーがいいだの話した。
傍から見たら同い年の友達同士だ。
「注文してくるよ。」
セラはそう言ってカウンターへ向かった。
優しそうな店主が何かを話してセラは笑っていた。
席にきたセラは楽しそうに話し始めた。
「店主がもしかしてって言ったの。内緒よって言ったら笑ってゆっくりしてってって言ったの。私に会ってはしゃがないアメリカ人は久しぶりよ。」
セラが今まで外に出なかった理由が何となく見えて少し切なくなった。
少ししてからアフタヌーンティーが運ばれてきた。
3段の豪華セットだ。
「私、実は甘いものが好きなの。」
セラは目を輝かせて言った。
「何となくわかったよ。」
「そうなの?楓は天才だね!」
口にタルトを運んだセラは美味しいと笑った。
その表情はトップシンガーではなくてただの少女だった。
そのまま今まで食べたスイーツの話とか海外の話とかをしてあっという間にアフタヌーンティーは無くなってしまった。
帰りの車の中でもお互い饒舌だった。
「もっと早くセラと話せばよかった。」
「私もそう思った。初めてよ。こんなに人と話したの。」
笑いながら帰って部屋へ戻った。
その日の夜のセラの部屋から大きい物音が聞こえてくることは無かった。
次の日から私たちの関係はガラッと変わった。
出かけることはなかったけどご飯は話しながら食べたしギターのコツも教わった。
「ここの速弾きは……。」
「メロディーどうだと思う?」
「夜ご飯何がいい?」
「パスタが食べたい!」
本当にもっと早く話しかければよかった。
残り2日になった夜、私はセラに音楽について聞いていた。
「どうやったらいいものが書けると思う?」
「難しいね。私も満足してないから。」
「セラでも?」
「もちろん。マネージャーとかクライアントに怒られることもあるよ。」
「そうなの?技術なんていくらでも持ってるのに?」
「技術なんて下地でしかないわ。それに下地や理論?みたいなものは楓も持ってる。あとは+αだけ。」
「そこがわかんないんだよね。流行りとか有名な人に聞いたりしてるけど……。」
「それじゃない?」
「え?」
「流行りなんて倣うものじゃなくて作り出すものよ?模倣なんてつまらないわ。今の流行りなんて昔のものにしなくちゃ。」
セラはギラギラした瞳で言った。
「確かに……。でも流行りなんて作れるのかな?」
「作れるのかじゃなくて作るの。たとえ見向きされなくてもいつか見られる時が来るわ。それに先生なんていない。むしろ疑っていかなくちゃダメよ。」
しっかりしたトーンで言う。
「セラはどうやって作ってるの?」
できる気しなくてつい聞いてしまう。
「私は得意なものを尖らせてるだけ、あとは頭の柔らかさ。MIXするの。アイデアを。だって音楽の世界は自由だから!楓の好きを形にすればいいの。」
「私の、好き。」
うんうんとセラは頷く。
「そうギターが好きで、ロックが好きだったらそれを尖らせればいい。飽きたら次のジャンルへ。それだけ。」
「守、破、離ってこと?」
首を傾げられる。
「なにそれ?」
「先生とかの言うことを守って、それを破って、自分のものを作るみたいな?」
「そう!それが分かるならできるよ。あとは経験。
これは私もそう。」
「経験かぁ。」
「人との関わりが大事ってマネージャーがいつも言ってる。私はそんなことないって言ってたけど違ったみたい。」
「そうなの?」
セラはふと下を向いた。
「私、友達とかあまりいた事なくて。ショウが初めての友達なくらい。学校もずっと音楽しかやってこなかった。だから熱い曲は作れても温かい曲は作れないの。今ぶつかってる壁はそこ。」
なんて返したらいいかわからなくて黙ってしまう。
「でも。楓とこの間でかけて友達ってこういうことか。ってわかった気がするの。ありがとう。」
私の目を見てセラは言った。
「私も、こんなに音楽の話とか聞けて嬉しい。それにそもそも泊めてくれて嬉しかった。」
なんか薄っぺらいことしか言えなくて申し訳なかった。
でもセラは嬉しそうに笑っていた。
「明後日で帰らなきゃいけないの寂しいな。」
「朝出るのよね?」
「そう。」
「私も寂しい。」
本当にセラは寂しそうな表情をしていた。
きっと私も。
「明日はIDiOMに行こう。」
セラは言った。
「賛成。」
私の声は思ったより寂しげだった。
駆け足ですが次で終わりです。




