少女 知る
1週間が経った日の夜。
私は深夜に目が覚めた。
深夜2時。
私はなんだか変に目が冴えてしまいキッチンへと向かった。
お水でも飲もう。
そうドアを開けると聞こえたのは
「No! No!」
と叫ぶ声とダンッという一際大きな物音。
こんな大きな物音聞いたことない。
ギターを弾く音は微かに聞こえることはあったが大丈夫なのか。
私はセラの部屋に近づく。
微かに光が漏れている。
どうやらドアが半開きだったらしい。
だからやけに音が大きく聞こえたのか。
そう思いそっとドアの隙間から中を伺う。
そこでは机で頭を抱えているセラの姿。
手にはペンと机の周囲にはぐしゃぐしゃにされた紙が一面に落ちていた。
どうやら作詞をしているらしい。
彼女はまた何かを書き始め、少し考えた後にまた丸めて捨てた。
その鬼気迫る様子にたじろいで声をかけることは出来ずに私はそろりそろりと部屋へ戻った。
ドアを閉めてベッドに寝転んだ瞬間ふぅっと深く息をつく。
彼女も人間だったんだ。
我ながら不思議な感想が頭に浮かんだ。
私たちがテレビなどで見る彼女は完璧でまるで何もかもが余裕というような表情をしている。
私が見ている彼女はとても静かで何にも興味がないような表情をしている。
そして私が見た彼女は何度も何度も書きなぐっては長考し、捨て、時には激しい苛立ちのような仕草をし葛藤の表情をしている。
どれが本当の彼女なのだろうか。
もちろんその全てが彼女ではあるのだが。
知りたい。
脳裏にはさっきの彼女の姿。
明日話しかけてみよう。
そう思い私は眠りについた。
次の日の朝リビングに行くといつも通りセラがいた。
少し疲れた表情の彼女。
おはよう。そう声をかけようとした瞬間に
ピリリリとけたたましい着信音が鳴る。
どうやらセラの携帯のようだ。
「チッ。」
彼女は舌打ちをして電話を取り自室へ戻って行った。
少ししてから彼女の部屋からは怒鳴り声が聞こえ、喧嘩をしているのが伺えた。
電話を終えた彼女は少し不機嫌そうな顔で食べかけのコーヒーとサンドウィッチを持って部屋へ戻ってしまった。
あの様子じゃ声をかけたくてもかけられない。
夜にした決意も虚しく私もまたギターを手に取った。
「ねぇ。」
パソコンを打ち込んでいた私の肩を叩いてセラは話しかけてきた。
珍しい。
「IDiOMに行こう。」
彼女はそう言って洗面台へ行ってしまった。
まるで準備してと言うように。
一人で家にいる気はしなくて私も行く準備をする。
「準備できたよ。」
セラに声をかけるとOKという落ち着いた声が聞こえた。
数分後には綺麗に髪を巻いたセラが車のキーをクルクルさせながら現れた。
「ねぇ、どうしてIDiOMに?」
気になって車の中で私は聞いた。
「アイデアのため。」
短く彼女は答えた。
「そう、なんだ。」
話しかけるって決めたのに圧を感じてなかなか続かない。
そんなこんなでモヤモヤしているうちにIDiOMに着いてしまった。
カランコロンとセラがドアを開けるとこの間の店員さんがいた。
「セラ!あこの間の女の子も一緒なんだね!どうぞ。」
カウンターの2人がけに案内してくれた。が。
「私はいいわ。一人でいる。好きに食べて。」
そう言ってセラは1番奥の暗い席に一人で歩いていってしまった。
「あっ。」
「大丈夫だよ。多分そういう時期なのさ。」
そう言って私だけがカウンターへ案内された。
「この間は名前聞きそびれちゃったけどなんて言うの?俺はショウ。セラに日本語を教えたのも俺なんだぜ!」
「え!そうなんですね。私は楓と言います。」
「いい名前だな。」
そう言って手を差し出してきた。
多分握手なんだろう私も手を伸ばして握手をすると彼は満足気に笑った。
「今日は何にする?」
「あ、なんかオススメで……。」
セラのことが気になってしまい食べたいものが思いつかない私はそう言っていた。
セラは一人でいいのだろうか。
暗い席だからセラの表情は分からない。
「セラとの生活はどう?」
目の前にはパスタが置かれていた。
美味しそうな小さいハンバーグが乗っていてここに来てすごいアメリカっぽいものが出てきたななんて思った。
「よく、わからないです……。」
「ま、だろうね!彼女はひとりが好きだからさ。」
「じゃあなんで私と一緒にいるですかね……。」
うーん。
と考え込むショウさん。
その間に私はパスタを一口食べた。
トマトの酸味とひき肉の旨味が口いっぱいに広がって美味しい。
「おいしい?」
ショウさんは笑って言った。
「はい!すごい美味しいです!」
「良かった。さすがうちのシェフだね。で、考えてはみたけどやっぱりわかんないね。」
「そうなんですか……。」
「俺たちもびっくりしたんだ。昔、それこそここで歌ってた時はもう少し人と喋るタイプではあったんだけどね。デビューしてからは関わらなくなってそこからは来てなかったから、急に来たと思ったら君を連れて帰るとか言うからさ。」
「本当に私も何が何だか……。たまたまハンバーガーショップで出会っただけなので……。」
「そうだったんだね。なにかセラと話したりした?あギターの話とか!」
「全然……少し弾いた時にギター貸してって言われたぐらいで。」
「なんか言ってた?」
「特には……USA製欲しいなって言ったらそのままでいいって言われてちょっと凹みました。」
「え〜どんなやつなの?」
こんなのです。
そう言いながら私は写真を出した。
「へぇーかっこいいねJapan?材質は?」
「メープルです。」
ふーんと言いながらショウさんは私のギターの写真を見る。
そしてニヤリとした。
「そりゃセラもそれでいいって言うだろうな!言葉足らずすぎるけど!」
「え?」
「メープルって楓の木だろ?それでJapanだったらまさに君を表してるじゃないか!」
「確かに忘れてた……。」
「なんだそりゃ!」
ショウさんは笑った。
「この子を買った理由ってそうだったんです。
色が好きだったのもあるけどメープル材の方がしっくりきたし自分ぽいなって思って。でも忘れてた……。」
「まぁ歴が長くなるとなるよねぇ。」
うんうんと頷きながらショウさんは言った。
チラリとセラの方を見ると手元に何かを書いているようだ。
「何してるんですかね……。アイデアのためって言ってたけど……。」
「うーん作詞してるんじゃないかな?うちに来てた時もよく作詞してたよ。手汚したくないからってサンドウィッチ食べながらさ。」
「サンドウィッチ家でも食べてました!」
「変わらないんだなぁ。」
「……もしかしたら行き詰まってるのかも。」
「そうなのかい?」
「言っていいのかわかんないんですけど、昨日の夜歌詞を書きなぐっては床に捨ててたし、朝も電話で喧嘩してたみたいで……。」
「ああそれはビンゴかも。自分の好きなものだけを書いて歌える訳では無いから。」
奥の席のセラを見つめながらショウさんは言った。
「ねぇ。出会ってまもない君に言うのはおかしいけれどセラを連れ出してくれないか?どこでもいいから。」
「え?」
「セラはもちろん天才だ。でも彼女には経験が足りないと思うんだ。だからどこでもいい、何かを経験させてあげて欲しい。」
「私にできますかね……。」
「出来なくてもしょうがない。だからお願いでしかないんだ。」
「が、頑張ってみます……。」
振り返ってセラを見る。
彼女はまだ一人で何かを書いている。
そこからまた1時間ほど雑談したあとセラが帰ろうと言ったため解散になった。
「次は歌ってけよ?」
私はセラの方を見た。
「楓の事だぞ?」
ショウさんの突然の言葉に衝撃を受けた。
「私?!」
「もちろんここに来たからには1回は歌ってかなきゃだぞ。次はギターも持ってな?」
ぱちんとウインクをして彼は言った。
帰り道私は考えた。
セラのこと。ショウさんに頼まれたこと。
残りの日にちで私はなにができるのだろうか。
あと二話ほどで終わります。




