第27話「魔力のゆらめきと、新たな挑戦」
少しずつ、見える景色が変わってきました。
けれど、変わるのは自分だけじゃないようで……。
「じゃあ、見せてもらおうか」
カイルが取り出したのは、掌にすっぽりと収まるサイズの透明な魔石だった。
「これが、属性を判定するための魔石だよ。触れれば、その人に適した魔力の属性に反応する。基本的なものは七つ。火、水、風、土、光、闇、そして無属性。まれに複数に適性がある者もいるけど……君の場合は、ちょっと特殊かもしれない」
「特殊?」
「まあ、まずは触ってみてよ」
言われるまま、私はそっとその魔石に指先を添える。
瞬間――魔石がぱっと輝いた。
赤、青、緑、黄、紫、白、黒……全ての色が一瞬にして現れては、すぐに消えた。
「……えっ?」
私が思わず声を上げるのと同時に、カイルも眉をひそめた。
「やっぱりか」
「え、え、なに今の……? 全部光ったように見えたんだけど」
「正確には、“すべてに反応したが、どれにも定着しなかった”って状態だね。これは――適性がない、とは違う。むしろ、素質がありすぎて定まらない、そんなケースだ」
「そんなことあるの?」
「稀に、ね。魔力そのものは強いけど、どれにも偏ってないタイプ。ただ、稀少な反応だけど、扱いは難しい。これから訓練次第で、何かしらの属性に安定していく可能性もあるよ」
「そっか……でも、ちょっと安心した。なんか、魔法のこと、ちゃんと向き合ってみようって思えるようになってきたから」
私が笑うと、カイルはふっと目を細めた。
「いい顔になってきたね、ミュリエル」
「……ちょっと、その言い方」
「ん? どうかした?」
「年上の私をからかうなって言ってるの」
「でも、今の君、まるで新入生みたいに目を輝かせてるからさ」
「う……なんかムカつく……!」
「冗談だよ。まじめに褒めてる」
そう言いながら、彼は笑っていた。どこか柔らかく、けれどどこか影を持つその横顔に、私は少しだけ目を奪われた。
* * *
翌日。
通常授業の終わりに、教壇に立った教師が声を張り上げた。
「さて、来週から始まる“学院統一演習”について連絡がある」
教室内がざわつく。
学院統一演習――それは、全クラスが参加する学内イベントであり、魔法や学術、協働作業、さらには創造的な課題まで、幅広い分野での総合力が試される特別な期間だった。
教師は背後の黒板に棒で示しながら、演習の四つの分野について説明を始める。
「演習はクラス対抗で行う。対象は以下の四分野だ」
一、生活魔法応用課題――限られた素材を使って生活を便利にする魔法の応用実践(例:水の生成魔法を活かした炊飯装置の制作など)
二、学術討論試験――テーマに沿ってグループ討論を行い、論理的思考と発表力を評価(例:“都市と魔法の関係性”など)
三、共同課題『街づくり模擬計画』――仮想の村に必要なインフラ設計をチームで考え、発表する。創造力と協調性が求められる。
四、文化祭型展示演習――クラスで自由なテーマを設定し、来場者(教師陣)に向けて展示・発表を行う。
黒板に並ぶ文字を見つめながら、生徒たちの反応が飛び交う。
「うわ、筆記あるのか……終わった……」
「街づくりとか、建築の知識なんてないんだけど」
「討論って何を話せばいいの? 誰が仕切るの……?」
教師がそれを制しながら言葉を続けた。
「各クラスの得点は分野ごとに集計され、総合評価上位のクラスには、“特別研修”への参加資格が与えられる」
「特別研修!?」
「えっ、でもそれって、貴族クラスの生徒が受けるっていう、あの……?」
ざわつく空気の中、教師は頷く。
「その通り。君たち一般クラスから選ばれるのは稀だが、不可能ではない」
――その言葉が、生徒たちの目を変えた。
中には目を輝かせる子もいれば、不安そうに顔を伏せる子もいた。
「ミュリエル、すごいじゃん、魔法上達してきたし」
「え、いや……私は、ようやく初級魔法が安定したって程度で……」
「あーでも、フェリシアは火魔法上手いし、テオも反応速度速いから、あの二人は選抜候補かな?」
「そうだね、ノエルは筆記全部トップだし」
私は、そんなやりとりを静かに聞いていた。
確かに、最近は魔法が“使える”ようになってきた。でも、それはようやく“スタートラインに立てた”という程度で、特別視されるほどではない。
(私にできることは……あるのかな)
心のどこかで、そう自問する。
けれど、あのとき誓ったはずだ。
(私自身を、ちゃんと証明するって)
胸の奥にある、あの静かな火種は、まだ確かに燃えていた。
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