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第25話「魔法が灯る瞬間」

魔法って本当に使えるの?

そう疑っていたミュリエルが、ついに“信じる一歩”を踏み出します。

いつも通り、ゆっくり読んでいってくださいね。

学院の裏手にある林の奥、ひっそりと佇む泉。

木漏れ日が水面に揺れて、空気は澄みきっていた。風がわずかに葉を揺らし、鳥の声がどこか遠くから聞こえてくる。


「ここなら、誰にも見られずに練習できると思ってさ」


先を歩いていた青年が、泉の縁に腰を下ろして私を振り返った。

私は少し距離を保ちつつ、静かにその隣に立った。


「……本当に、私に魔力なんてあるんでしょうか」


「あるよ。君の中にはちゃんと力がある。ただ、自分で蓋をしてるだけだ」


「自覚も兆しもありませんでした」


「それが“見ようとしてなかった”ってことなんだ。信じようともしなかったんじゃない?」


その言葉に、胸が少し痛んだ。

私はずっと、この世界を“現実”として受け入れきれずにいたのかもしれない。


「魔法って、不思議なものだよ。論理だけでは説明がつかない。でも、信じる気持ちがなければ絶対に動かない。魔法って、そういうものだから」


「……信じる力」


「君、ずっと“戻る場所”があるつもりで生きてたでしょ? だから、本気になれなかった。違う?」


まるで心を覗かれたようで、私は思わず言葉に詰まった。

青年はそれ以上追及せず、静かに泉を見つめる。


「どうする? 本気で向き合ってみる? 君の魔力と、この世界に」


私は深く息を吐き、泉の前に膝をついた。


「やってみます」


「初級魔法でいい。“水よ、呼び声に応えよ”って唱えるだけ」


私は目を閉じて、心を落ち着けてから呟いた。


「……水よ、呼び声に応えよ」


だが、水面はぴくりとも揺れない。風すら止まり、世界が静止したようだった。


「……何も、起きません」


「そりゃそうだ。今の君の声には、自信も、実感も、未来もなかったから」


私は唇を噛んだ。

この世界に来てから、何を得て、何を信じてきたのか。何度も自問して、結局何も見つけられなかった。


「……私は、前の世界では魔法なんて馬鹿にしてたんです。信じるどころか、そんなものあるわけないって思ってた」


「でも、今は?」


「今は……違います。そう思いたい。でも、うまく切り替えられない自分がいる」


「なら、試してみな。信じることを。まずは“魔法”を。それができたら、きっと何かが変わる」


私は拳を握った。

心の中の否定をひとつずつ静かに押し込めて、小さく深呼吸する。


「……水よ、呼び声に応えよ」


今度は、指先がふるりと震えた。

泉の水面がわずかに波打ち、光が反射して瞬く。


「っ……!」


「感じた?」


「……はい。確かに、何かが……」


胸の奥に灯ったような温もりは、紛れもなく私自身のものだった。

魔法という現象が、現実として“ある”と、身体が理解していた。


「やっと“本当の意味でこの世界にいる”って顔になったね」


彼の言葉に、私は少しだけ笑ってしまった。


「……あなたのおかげです。ありがとうございます」


「まだまだ序の口だよ?」


そう言って彼は、右手をそっと掲げた。

「《水よ、姿を変えて、刃となれ》」

その声に応えるように、水面が浮かび上がり、細いナイフのような形へと変化した。


「これは応用魔法。“水刃”。見るだけでイメージできるだろ?」


私は目を丸くした。


「すごい……まるで意志を持ってるみたい」


「魔法ってのは、自分の内側と、世界との対話なんだよ。ルールじゃなく、感覚で掴むんだ」


「……難しそうです」


「でも、君ならできるよ。だって、今の君はもう“信じる”ことを始めてる」


少し照れくさくなって、私は視線を逸らす。


「……名前を、教えてもらえますか」


彼は一瞬だけこちらを見ると、すぐに視線を泉に戻した。


「カイル。カイル・エルヴェ」


「カイル……さん、ですね。ありがとうございます」


「“さん”付けしなくていいよ。同じ学院の生徒同士なんだから」


その言葉に、私は思わず眉をひそめた。


「いえ、でも……」


「それに、君のほうが年上だろ?」


ぴたりと動きが止まる。


「……なぜ、それを」


「振る舞いと口調。あとは……そうだな、どこか“生き急いでる”ように見える。年齢とは違う“重み”があるんだ」


私は息をのんだ。まさか、そんなところまで気づかれるなんて。


「……それでも、からかってきますよね。あなた」


「うん。君がむっとする顔、面白いから」


「……!」


くっ。何なんだこの人。


(私の方が絶対年上なのに、なんでこんなに悔しい思いしなきゃいけないの!?)


「もう、ほんとに……!」


「ふふ、顔に出すぎ」


そう言って、彼はわずかに口元を緩めた。


けれど、泉のさざ波を見ながら、私はふと口元を緩める。

心の中のどこかに、ようやく“根を下ろす”感覚が芽生えていた。


初めて魔法が反応したときの、あの指先の温もり。

あれは夢でも偶然でもない、確かに私の中から生まれたものだった。


「……私、できるかもしれない」


ぽつりと、思わずこぼれた言葉。

この世界で、何も持たない私でも――魔法という“力”を持てるのなら。

生きる意味も、自分の価値も、きっと自分で見つけていける。


私は泉の水面に映った自分の顔をじっと見つめた。

――もう、前を向いていい。そう思えた。


「ありがとう、カイルさん。あなたに出会えて、よかったです」

最後まで読んでくださって、ありがとうございます!

今回、ようやく魔法が“反応”してくれました。ミュリエルの心の変化が伝わっていたら嬉しいです。


この物語が少しでも面白いと思った方は、ぜひブックマークや評価、感想などで応援してもらえると励みになります!

それではまた次回!


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