第22話「浮いている年増」
今日からクラスでの授業がスタートです!
年齢のギャップや周囲の反応に戸惑うミュリエル……。
それでも、少しずつ、自分の居場所を作っていこうとする姿を見てあげてください。
朝、寮のベッドで目を覚ました私は、いつもよりずっと早く起きてしまっていた。緊張していたのだと思う。
昨日の入学式、周囲の年齢層の若さに圧倒されて、ただでさえ浮いていたのに、自己紹介ではほとんど誰とも目が合わなかった。
二十一歳でこの学院に入学してきた私は、完全に“年上枠”だった。
「……やっぱり浮いてるよね」
制服を着ながら、ふと鏡に映った自分にそうつぶやく。
制服のデザインは明らかに十代向け。リボンの色も形も、ちょっとだけ派手すぎて、私には似合っていない気がした。
教室に入ると、すでに生徒たちのにぎやかな声が飛び交っていた。
机を囲んで、何人かが楽しそうに話している。
「なあ、今日って魔法理論あるんだろ? めっちゃ寝そう」
「それより次の剣術演習の方がヤバいって。教官めっちゃ厳しいらしいし」
そんな声が飛び交う中、私はそっと後ろの席に腰を下ろす。
「ねえねえフェリシア、うちのクラスに二十歳超えてる人いるんでしょ?」
「そうそう、聞いた聞いた! え、どの人だろ……あ、あの人かな?」
明るい声で話していたのは、金髪でよく笑う女の子、フェリシアと、その隣のサリナ。
完全に聞こえてるんだけど、本人の前で言っちゃうあたり、悪気はないのかもしれない。
「うわ、マジで? 二十歳って……もう結婚しててもおかしくない年じゃん」
小さく笑うサリナの声に、心がチクリと痛んだ。
その隣にいたのが、ノエルという黒髪の真面目そうな子。机の上にノートをきっちり揃えていて、目も合わさず黙々と読書している。
もう一人、窓側の席に座って外を眺めていたのが、無口そうな男の子――テオ。無表情だけど、目だけは妙に鋭くて、何を考えてるのか読めない。
そんなクラスの中に、私は完全に“ぽつん”だった。
授業が始まると、魔法理論の先生がやってきて、教科書の一ページを開いた。
「はい、今日は魔力操作の基礎ねー。魔力ってのは、心と体を通して世界に影響与える力のこと。で、それを動かすには、イメージ、詠唱、魔方陣。この三つが基本です」
(詠唱……? 声に出して呪文を唱えるってやつ? いやいや、それやってる間に敵にやられるでしょ……)
思わず心の中でツッコミを入れる。前世の記憶が、勝手に反応してしまう。
先生が黒板に大きな図を描きながら解説していく中、私はノートをとるふりをしながら、周囲の目線を気にしていた。
次の瞬間、「四人組作ってー」と先生が言った。
「サリナ、一緒にやろ」
「うん、フェリシアも一緒でしょ?」
そんな声が飛び交う中、誰からも声がかからないまま、私は席に取り残された。
(あー、これは……やばいやつだ)
立ち上がるのも気まずくて、とりあえず周囲を見渡していると、教室の前の方から誰かがこっちに歩いてきた。
「組む相手、いないんでしょ?」
挑発的な声だった。
見上げると、黒髪でキリッとした顔立ちの少女――ミレーヌがいた。
口元は笑っていたけど、目が全然笑っていない。
「まあ、そりゃそうよね。年上だし、なんか近寄りづらいし」
その声に、周囲の何人かがクスッと笑った。
(……ひど)
さすがに少し心が折れそうになったけれど、私は顔を上げて言った。
「大丈夫、一人でやるから」
強がりだった。けれど、それが今の私にできる精一杯だった。
誰にも頼れない。でも、だからこそやるしかない。
私は教科書を開き、黙って課題に向かった。
ここまで読んでいただきありがとうございます!
ミュリエルの奮闘はまだ始まったばかりですが、こういう地味な一歩って、すごく大事なんですよね……!
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次回もお楽しみに!