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第17話「静かな侵入者」

ちょっとずつ積み上げてきたものほど、崩されたときの衝撃は大きくて。

今回は、ミュリエルにとっての“壁”が突然現れる回です。

それは、本当に突然のことだった。


 いつもどおり、ハーブの瓶を棚に並べていた昼下がり。

 食堂に入ってきたのは、見慣れない服を着た三人の男たちだった。


 一人は短剣を腰に下げ、革の手帳を持っている。

 残りの二人も、目つきが鋭く、ただの客ではないことは明らかだった。


「ラングフォード嬢はこちらですか?」


 名指しされた瞬間、ミュリエルの背筋が凍った。


「……私です。何か、御用でしょうか?」


 革手帳の男が、一歩前に出て、はっきりと言った。


「あなたが販売している薬草製品に関して、通報がありました。“人体に悪影響を与える可能性がある違法な薬草を流通させている”とのことです」


「……っ!」


 一瞬、息が止まった。


「そ、そんなはずありません……! 私が使っているハーブは、すべてこの地域で許可されているものです!」


「調査のため、商品と保管場所を確認させていただきます。拒否する権利はありません」


 言葉が、鋭く突き刺さる。


 背後でマルレーネが食器を置く音が止まり、静寂が食堂を包んだ。


「ちょっと、待ってよ。いきなり来て、なんなの? うちはちゃんと営業してる宿だよ?」


「通報があった以上、調査は避けられません。ご理解いただきたい」


 無表情のまま告げる男たちは、すでにミュリエルの商品の瓶を手に取り、細かく成分表示を確認し始めていた。


(どうして、こんなことに……?)


 喉がカラカラに乾いているのに、声が出なかった。



 調査は、夕方までかかった。


 瓶の数はすべてチェックされ、原材料の産地や帳簿の記載まで調べられた。

 まるで、犯罪者扱いだ。


 何度も「問題のある成分は使用していない」と説明したけれど、役人たちはどこか「粗を探している」ようにしか見えなかった。


「……現時点で明確な違反は確認できませんでしたが」


 最後に、革手帳の男が言った。


「ただし、この商品が“医療効果を謳って販売されている”と判断されれば、薬師協会への届け出が必要になります。今後の販売活動は一時的に停止していただくのが賢明かと」


「えっ……!」


「私のラベルには“癒し”や“眠りを助ける”といった表現がありますが、それはあくまで――」


「“助ける”という表現自体が、効果を示唆していると解釈される可能性があります」


 冷たく、突き放すような口調だった。


「正式な判断が出るまでは、販売を控えることをお勧めします。繰り返しますが、“通報があった以上”、私たちは職務を遂行しているだけです」


 そう言い残して、彼らは去っていった。



 重苦しい沈黙の中、ミュリエルはテーブルの端に座り込んでいた。


 手元の瓶は、ひとつひとつ、きちんと管理していたはずのもの。

 それなのに、営業停止のような扱いを受けた。


「マルレーネさん……ごめんなさい、私、こんなことになって……」


「……あんたが謝ることじゃない。明らかに“誰か”が狙ってやってる」


 マルレーネの目が鋭く細められる。


「心当たりは?」


 その言葉に、ミュリエルは喉の奥がぎゅっと締まる感覚を覚えた。


 心当たりなら、ひとりだけいる。


(リディア……まさか、あなた……)


 けれど、証拠はない。ただの“通報”というだけで、すべてが揺らいだ。


 努力も、信頼も、これまで積み上げてきたものも――一瞬で。



 夜。


 部屋に戻っても、ミュリエルは眠れなかった。


 棚に並べた商品は、今日もたくさんの人に喜んでもらったはずだった。

 なのに、今は誰にも売ることができない。


(こんなのおかしいよ……)


 枕元に置かれた帳簿には、今日の売上ゼロという文字が並んでいる。


 悔しい。

 泣きたくなるほど悔しいのに、涙はもう出なかった。


(私は……何もしていないのに)


 ぎゅっと拳を握る。


(絶対に、負けたくない)


 次の一手を考えなくちゃいけない。

 こんなことで止まるわけにはいかない。

最後まで読んでくださってありがとうございます!

せっかく努力してきたのに……って展開、読んでて苦しいですよね。

でも、ここからきっと、もっと強くなれる。


\ブクマ・評価・感想いただけるととても励みになります!/

次回は、ミュリエルが反撃のきっかけを探し始めます――!

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