第14話 小さな成功と胸を張る夜
今日は完全に“順調モード”な回です。
少しずつ形になるって、やっぱり嬉しいよね。
数日たって、ミュリエルの作ったハーブティーは“ちょっとした話題”になりはじめていた。
最初に買ってくれた仕立屋の女性が知人に勧めてくれたのがきっかけで、次第に口コミが広がっていった。
宿に来たお客が「例のお茶ってどれ?」と尋ねるようになり、さらには近所の常連まで顔を出すようになった。
「これ、ほんと助かるのよ。夜よく眠れて、朝の目覚めが違うの」
「お試しでもらったティーバッグを娘が気に入っちゃって。今日は三つ買っていくわね」
そんな声を聞くたびに、ミュリエルは胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じた。
――自分が作ったものが、誰かの役に立っている。
その事実が、これまでのどんな褒め言葉よりも、心に沁みた。
*
売上は日を追うごとに伸びていた。
一日に五瓶、六瓶と売れることも珍しくなくなり、仕入れにも工夫を凝らすようになった。
例えば、見た目が少し悪いけれど香りのよいラベンダーを農家から直接仕入れることで、コストを下げられた。
材料費を抑えつつ品質を保ち、ラッピングにも一工夫。簡単な紐を使った飾りが女性客に好評だった。
ミュリエルは帳簿を開いて、こっそり数字を見つめる。
(……銀貨二十枚。すごい、すごい……)
まだ学費に届くような額ではないけれど、それでも確実に前進している。
しかも、誰にも頼らず、自分の手で得たお金だ。
「……やれる。やれてる」
小さくつぶやいたその声に、ほんの少し涙が混じっていた。
*
夜、仕事を終えて自室に戻ったミュリエルの元に、マルレーネが顔を出した。
「これ、売り上げのお礼。あんたのせいで、宿に寄る客もちょっと増えてる」
「わ、ありがとうございます。でも、わたしこそ……本当に、ありがとうございます」
「ま、調子に乗らなきゃ、悪くないスタートよ」
マルレーネは、紅茶の入ったカップを置いて、そっと微笑んだ。
「商売ってのは、続けることが大事。明日もがんばりな」
「はいっ」
その夜、ミュリエルは初めて“胸を張って”眠りについた。
読んでくださってありがとうございます!
うまくいってる今だからこそ、もっと応援したくなりますよね。