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第8話 べったり

 僕は、べったりと血のついた腕を見下ろし、その場で固まっていた。


 血にまみれ、小さな肉の塊が付いているこの手を見るにどうやら、あの男を殺したのは僕だ。


 何が起きたのか全く分からなかった。


 気を失って...気が付いたら、血の海が広がっていた。


 何が起こったのか。


 僕は、どうしてしまったのか。


 静かな部屋で、自分の心臓の音が響いている。


 鼓動がひとつ鳴るたびに、得体の知れぬ恐怖が膨らんでいった。


 このままここにいては、奴らの仲間が来るかもしれない。


 早く、この部屋を出なきゃ――。


 重たい体を引きずるように歩き出す。

 それが罪悪感のせいなのか、負った傷のせいなのか、自分でもわからなかった。


 爆破された扉をまたいで外に出る。


 僕の部屋は二階の角部屋。階下へ降りるには、廊下の向こう側にある階段を使うしかない。


 ゆっくりと歩を進める。


――カンッ カンッ。


 鉄の階段を誰かが登る音が、静かな建物内に響いた。


 僕の足が止まる。


 心臓が、また早鐘(はやがね)のように打ち始めた。


 奴らの仲間か? それとも、ただの住人か――?


――カンッ カンッ。


 その人物が姿を現した。


 黒いロングコートを羽織った黒髪の(はと)の面をした男だった。


 彼は、ゆっくりと僕に近づいてきた。


 男は、ただならぬ雰囲気をまとっていた。


 面の瞳が僕をじっと睨んでいる。そんな気がした。


 僕は、一歩も動けぬまま、気が付くと男は、僕の目の前まで来ていた。


 男が突然、僕に話しかける。


「こんにちは〜。君は…大樹君だね?」


 軽い口調だった。だがその声音の奥に、得体の知れない何かがあった。


 僕は彼のことをまったく知らない。しかし、返答を誤れば何が起きるかわからなかった。


「………ち、違うと言ったら?」


「んー?そうだなぁ…。君なんか血だらけだし、警察に通報しちゃうかも?」


 ハッと我に返り、自分の体を見る。


 腕や体には、あの男の返り血がべっとりとついていた。


 今警察に通報されたら、間違いなく僕は逮捕されるだろう。


「大丈夫。僕は、君を助けるためにここに来たんだ。」


「助ける…ため?」


「そう。助けるため。」


 何も信用できなかった。


 僕は、さっきまで命を狙われていたんだ。


 この男が敵か味方か――今会ったばかりで、判断できるわけがない


「んー。まぁ、君には、つい来てもらうよ〜。」


 そう言った瞬間、彼の姿が消えた。


「────!?」


 どこにもいない。視界から完全に消えた。


 辺りを必死に見渡す。が、その姿はない。


「こっちだよ〜。」


 背後から声がした。


 振り向こうとしたが、遅かった。


 彼の腕が僕の喉を締め上げていた。


 息ができない。


 必死にその腕を引きはがそうとするが、全く動かない。その腕は、鉄のように固く、動く気配など全くしなかった。


「ごめんね〜。ちょっとだけ、気を失ってもらうよ」


 そういうと、男は締め付ける力を強めた。


 視界がにじみ、闇が広がっていく。


 そして、また――僕は意識を失った。

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