表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/13

第3話 パーカーの男

 僕は今、なぜか知らない男と向かい合い、ファミレスのテーブルに肘をついている。


 目の前の男は、テーブルに所狭(ところせま)しと並んだ料理を次々と(たい)らげ、まるで大食い大会の出場者のように食べ続けている。


 皿が次々と(から)になり、ようやく男は一息(ひといき)ついたのか、満足げに胃のあたりをさすりながら、僕に視線を向けた。


「いや〜。助かりました!もう、何日もご飯を食べていなくて!」


 男は、笑顔を見せ、大きな声でそう言った。


「そ、そうですか…。」


 彼のあまりの勢いに、思わずたじろぐ。目の前に座るのは、パーカーを着た男。顔はどこか幼さを残していて、自分よりも年下にさえ見えた。


周りを見渡す。まぁまぁ、お客さんがいる。


何気にこの店に来るのは、初めてだ。

【りうか】と言う名前のファミレスだった。


赤と灰のソファ。木製の天井。ステンレスのナイフが窓から差す光を跳ね返していた。


「ご飯を食べたら元気出ました!ありがとうございます!」


 そう言いながら、彼は勢いよく手を合わせる。その無邪気(むじゃき)な様子が、少しばかり微笑ましくもあった。


「詳しくは、言えないんですけど、俺が勤めてた会社が無くなっちゃって…。貯金もないし、どうしようかと歩いてるうちに倒れちゃって…。」


「そ、そうですか。大変でしたね…。」


 パーカーの男はうなずくと、少し照れくさそうに頭をかいた。


「でも、貴方がここに連れて、しかも、ご飯を食べさしてくれて…貴方は、命の恩人です。このご恩は、忘れません!」


 そう言って、深々と頭を下げた。


 会社がなくなってしまったとは、なんとも気の毒な人だ。


「貴方は、何か食べないんです?」


「い、いや。大丈夫です。」


 そんな会話を交わしつつ、食事を終え、ファミレスを後にした。外の空気は少しひんやりとしている。


 再び、パーカーの男は、頭を下げた。

 

「本当にありがとうございました!あ、お名前を聞くのを忘れていました。お名前を聞いていいですか?」


「えーと、田中たなか大樹だいきです。」


「大樹さん!ありがとうございました!あ、僕の名前は、(おさむ)です!」


「あ、はい。」


「では、この辺で!本当にありがとうございました!」


「あ、新しいお仕事、見つかると良いですね。」


「ありがとうございます!」


 修は、軽やかな足取りで去っていった。まるで嵐のように現れ、嵐のように去っていった男だった。


 ふと、レシートを見て思う。


 ――結構、値段したなぁ…。でも、たった一食(おご)るだけで命が救えたんだったら、安いものかな?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ