表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/13

第10話 ドバト

「カラスさん、ホンマにすんませんでした!暗くて誰か分かったんすよ…。」


 大男が僕に深々と頭を下げている。どういう状況なのか、さっぱりわからなかった。


 彼は、僕の事を知っている様子だった。


 でも、僕は彼を知らない。初対面だ。まるで、夢を見ているようだった。


「あ、あはは〜。」


 薄ら笑いを浮かべることしかできなかった。


 彼の面の目がじっと僕の顔を覗き込んでくる。


「カラスさん、今日はなんで面つけてへんの───」


「まぁまぁ、いいじゃんそんな事さ!」


 割り込むように鳩の面を被った男──鳩男が声を上げ、大男の言葉を(さえぎ)った。


「そんなことよりさ、イカル君は、どうしてここに?」


「え?いや〜、仕事終わったんでミサゴさんに報告がてら来たんですわ。」


 そのときだった。部屋の奥──白い鷹のような面を被った男が、口を開いた。


「なるほど。では、私とイカルは、私の部屋に向かうので、他の物は、待機しておくように。」


 そう言って、大男と一緒に部屋を後にした。


 残されたのは、僕と鳩男、そして雀の面を被った女の子の三人。


 静かになった部屋で、僕はようやく周囲を見渡した。


 壁には高そうな絵画が整然(せいぜん)と並び、天井には(きら)びやかなシャンデリアが幾つも吊るされている。


 広さはおよそ50(じょう)。部屋の中心には円卓がどっしりと構えられていて、まるで高級ホテルの会議室のようだった。


 次に、彼らの衣服に目をやった。


 さっきの男たちも含め、彼らは皆、同じ装いをしていた。まるで無言の同意に従うように──黒一色のパーカーのような外套を身にまとい、誰ひとりとして例外なく、深々とフードを被っていた。


「………。」


 雀の女の子に声をかけたい。でも鳩男がいる。なんとなく、それだけで気が引けてしまった。


「ごめんね〜。手荒な真似をして。」


 突然、鳩男が僕に話しかけてきた。


「あ、いや。」


「全く起きなかったから、ベッドで寝かしてたら、ミサゴさんに呼ばれちゃって〜。」


「ミサゴ……さっきの、白い面の人……ですか?」


「そうそう。あ、自己紹介がまだだったね。僕はドバト。で、そこにいる彼女はスズメ。よろしくね」


「は、はい……」


 彼女は、テーブルに肘をつきながらこっちを見ていた。


「突然で、混乱してるよね〜。サンタに現金請求された子供みたいな顔してるもん。」


 耐え切れず、僕は声を絞り出した。


「あ…あの、何で僕をここに…。」


「え?言ったでしょ?『助ける為』だって。」


「……。僕の家に来たあの男の人って誰なんですか…?」


 あの記憶が頭をよぎる。血のにじんだ手の感覚。


「あ~。……君は、危ない組織に命を狙われてて、君の家に来たのは、その組織の組員。」


「……え?」


 言葉の意味が理解できなかった。命を、狙われてる……?


 僕は、誰かに恨まれるようなことをした覚えがない。外にもあまり出ないし、ネットで誰かを煽ったこともない。なにも、思い当たる(ふし)がなかった。


「な、なんで...」


「う〜〜ん……言えないかな!」


 ドバトは冗談のように言って笑った。でも僕には笑えなかった。


「でも安心して。ここは安全だからさ」


「……」


 まるで逆だ。安心感など欠片もなく、不安だけが、じわじわと胸を満たしていく。


「僕達は、裏の世界の話だから、表の世界にいる君は、気にしなくてもいいよ。僕たちが片付けておくから。」


「か、片付けるって…?」


「言葉通りの意味だよ。」


「え?」


「だって、僕ら殺し屋だもん。」


「え…。」


「まぁ、取り敢えず─────」


 固まる僕を尻目にドバトは、どこか芝居がかった仕草で一礼した。


「ようこそ、殺し屋会社トリカゴへ」


 僕は、いったいこれからどうなってしまうのだろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ