6話 「魂の伴侶」
「リーフ!やっと帰ってきたと聞いていたけど…ついに見つけたのね?」
「おぉ!お前の腕の中で縮こまっている子がそうなのか!?」
「見せてくれ!!」
塞がれた目では何も見えなかったが、外に出て、飛んで風を受けて、どこかに着地したことは理解した。俺を抱えたリーフの周りには多くの竜の一族?が集まっているようだ。未だ目隠しは健在だ。
「だめだよ。僕の伴侶だから、易々と見せるわけにはいかないね。」
「つれないねぇ…。当ててやろうか?その子の目の色は青色だろ?」
「…!?」
『なんでわかったんだ…?竜の能力か?』
「…さぁね。」
「誤魔化しても無駄よ。リーフを見ればわかるわ。だって、あなたの装飾品の宝石が全て青になっているもの…。」
「俺が知っている限り、お前が選ぶ宝石はいつも紫だった!」
「正解は僕だけが知っていればいいでしょ?この子の名前も、声も目の色も…本当は姿だって見せたくはなかったのだけどね。」
「…伴侶への独占欲は俺たちも理解があるから、まぁこれ以上聞かないけどね。目隠しされててもわかるよ。君が見つけた伴侶はとても綺麗な人間だね。」
伴侶伴侶というが、リーフがシェグレの何を気に入り、何に惹かれ、なぜこんなにも執着するのか見当もつかなかった。出会ってたった数日。シェグレにとってリーフのことも竜の一族についても何もかもが未知の事過ぎたのだ。それについては逃げる算段と共に追い追い調査するとして、シェグレはどこで踊ればいいのかリーフに聞こうとして、とあることに気が付いた。
「っ!?!?」
『声が…でない?なんでだ?』
シェグレの口がパクパクと動く。柔い唇の中から覗く真っ赤な舌先は煽情的だった。戸惑いからか、シェグレは遠慮がちにリーフの肩口あたりに手を伸ばした。
「…そんな可愛い事しないでよ。」
リーフの声とともにキスが降り注いだ。額、耳、頬、唇。目隠しをしているからだろうか、感触が鮮明でやけに生々しい。
「っ!!」
『ばか!人前だぞ!!!』
「おーい。リーフ…いちゃつくのはかまわんけどよ。その子、戸惑ってるんじゃねぇの?」
「あなた…何も言わずに声を奪ったの?」
「…一時的とはいえ、それはいただけないね。」
「君たちが来なければ、奪っていなかったよ。それより、女神像の聖堂は空いているか?」
「今日は、聖堂は12個は空いていたはずよ。なにするつもり?」
「そう。ありがとう。何をするかは内緒さ。」
「…。なぁ、リーフの伴侶。こっちの声は聞こえてるんだろ?じゃあ、忠告してやるよ。俺らの愛は突飛に見えるかもしれないがな、少なからず理由がある。」
「まぁ。君たちには僕らの感性を理解できないことが多いだろがね。」
「リーフもきちんと言葉にするのよ?」
「ご忠告どうも。じゃあ、僕たちはもう行くよ。女神像の聖堂は貸し切りにしておいてくれ。」
「へいへい。」
リーフはシェグレを隠すようにしてその場を後にした___。
「目隠しもうとって大丈夫だから取るよ。ついでに声も…急に声を奪ってしまってごめんね。でも、あいつらに君の声が聞かれると思うと居ても立っても居られなかったんだ。」
「…もういい。お前は何か言って聞くような奴じゃないことだけは知ってるから。」
シェグレは女神像の聖堂という場所に連れてこられた。聖堂はドーム状の形をしており、聖堂の一番奥には羽の生えた大きな女神の像以外のものは見当たらない。美しいステンドガラスの窓や純白の大理石が埋め込まれている床が神聖な雰囲気をつくりだしている。
「なぁ。ここで踊っていいのか?」
「もちろん。僕はどこに居ればいい?」
「…お前は好きなとこに居ろ。俺が勝手に踊るだけだ。」
「分かった。じゃあ…いつでも始めてくれていいよ?」
シェグレは気付いていた。リーフは別にシェグレの踊りが見たかった訳ではないことに。ただ、シェグレが踊れると言ったから、そんなシェグレの一面を見て見たくなっただけなのだろう。言うならば、切望してではなく好奇心で踊れと言ったのだ。観客はリーフ一人だ。観客を魅了することが出来たとき、初めて踊りに価値が付くのだ…。
『軽々しく俺に踊れと言ったこと後悔させてやるよ…。』
踊る前にシェグレは優雅にお辞儀をした。