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砂上の踊り子  作者: 高砂
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5話 「享受」

 


「くそっ!!!触んなへんたい!!!」

「だめだよ、シエ。ここも洗わなきゃ。僕が触らなきゃ洗えないじゃないか。人間は加減が難しいものだね。あんなことで腰砕けになるとは…」

『誰のせいだよ!!!』


 リーフの言葉はシェグレの羞恥心を掻き立てた。心の中で罵倒でもしなければ恥ずかしさで心が折れてしまいそうだった。




「ふむ。この僕が召使いのようなことをすることになるとはね。お風呂も入ったし、ご飯も食べたね?休息も十分とったし…どうだい?動けそうかな?」

「…あぁ。ありがとう。」

『もとはと言えば、リーフのせいだが…。』


 不服そうにリーフの善意を肯定し、感謝を述べたシェグレをリーフは抱き寄せ、そして…


 チュッ


「…っ!?。ありがたいが、もういらねぇよ。十分動ける。」

「違うよ。今のは僕がしたいからしただけ。」

「っ!?きめぇ!!!!!!!」


 リーフにとってシェグレの渾身の右ストレートなど赤子の戯れのようだった。軽々と受け止められ、そして囚われる。リーフはシェグレに顔を近づけ、挑発にもとれる不敵な笑みを一つ溢した。


「愛しの伴侶、僕のために踊ってくれる?」

「…お前の為じゃない。俺が踊りたいから踊るんだ。ただし、条件がある。」

「?…できる限り叶えてあげるよ。」

「俺が着てた衣装を持ってきてくれ。そして、踊るなら…うんと広いところがいい。」

「…いいよ。叶えてあげる。まだこの部屋から一人で外に出るのは危険だから僕の近くにいることが条件だよ?」

「…それでいい。」


 踊り子にとって踊りは空気にも等しい。生きる上で踊れない人生など苦痛でしかない。踊るためなら何を差し置いても構わない。踊るには衣装が不可欠だ。別に無くても踊れなくもないが、衣装を着ていない踊りは味気のないものだ。しかし、踊るためには何でもやってやるという数分前の自分の覚悟を嘲笑うかのような言葉をリーフが発したのだった___。


「絶対に嫌だ。」

「なぜ?」

「なぜ?だと???お前…もう一度さっきの言葉繰り返してみろ。」

「僕の目の前で着替えて…?」

「ふざけんな。」

「いいじゃないか、別に。この3日間で君の体は見つくしたよ。減るものでもないだろう?」

「見つくしたならこれ以上見る必要ないだろ?」

「ダメだよ。どんな瞬間の君でさえ見たいのだから。」

「…出てってくれ。変態。」

「なぜ?」

「…っ。気まずい。」

「大丈夫だよ。」

「そりゃ、お前は大丈夫だろうけどな…」


 リーフは静かにシェグレを見ていた。美しい紫の瞳はシェグレに羞恥を思い出させた。無言の圧とはまさにこのことだろう。シェグレは折れるしかなかった。


「しね…ばか…着替えればいいんだろ。着替えれば。」

「僕が死ぬとしたらその間際に君を殺すよ。離れ離れは嫌だから。」

「…。」


 羞恥心など忘れ、シェグレはリーフの狂言に思考が停止した。にぶい思考を放棄し、今着ている純白な服を脱いでいく。腰ひもをしゅるりと解けば自身の裸体が現れた。リーフは無言でこちらを見据えている。

『狂ってる…』


 自身の裸体は見つくしたと豪語した男の瞳は静かに欲情に溺れていた。手を出すわけでも、言葉をかけるわけでもなく、ただじっとこの時間を味わうようにしてシェグレの行動を目で追っていた。数日前まで着ていた服や装飾を身に着けていく。装飾が増える度にシェグレが動けばしゃんしゃんと音が増す。


「できたぞ…」


 服を身に着け終えた後でも体の熱が引かない。羞恥心はつき纏ってくるばかりか、増していく。リーフは無言でシェグレの方へ向かってくる。これから起きるであろうことをシェグレは受け入れた…否、諦めた。リーフの手はいつだって逃げないように、そっとけれど確実にシェグレの首に回る。


「ちゅっ…やっぱり、綺麗だね。」

「…きめぇ。」

「素直じゃないね。あぁ、あと、外に行くには…これ」

「はぁ!?…それで何するつもりだ…縛ったら踊れない!」

「違うよ…外に行くときだけね。君の布かけは用意途中だから、代わりに使えそうなのをさっき持って来たんだよ。」

「ぬのかけ?…!?おい!!待て!」

「はいはい。暴れないでくれよ。万が一でも君の顔に傷をつけたくないからね。」


 シェグレの抵抗は空しく、リーフが手にしていた黒の美しいレースの布はシェグレを暗闇に導いた。目隠しをされた理由を探ってみるが、やはり逃げられないようにするためなのかと思い至った。


「こんなの無くても別に逃げやしない。…今は。」

「???…なに言ってるの?ただの人間が僕から逃げられるわけないでしょ。目隠しは君が逃げないようにじゃないよ。誰にも見せないようにさ。」

「はぁ?」

「外に出ればわかるよ。さて、暴れないでね。落としたくないから。」


 この言葉に既視感を覚えた。次に来る展開が何となくわかった気がしたシェグレは諦めを知り、抵抗感を心の奥へしまった。


「…分かった。あまり高く飛ばないでくれ。」

「伴侶の可愛いお願いは叶えてあげなきゃね。」

「…伴侶じゃない。」


 リーフはシェグレを軽々と横抱きにして、部屋の外へと向かった。




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