1話 「邂逅」
「おーーい!シェグレ!今日も満席で助かったよ!こんなボロっちい酒場でも、お前が踊れば一夜にして巨万の富が稼げそうだ!これ!今日の賃金な!!」
「…まいど。…っ!叩くなよ、おっさん。いてぇから。」
抵抗するシェグレを意に介さず豪快にガハガハと笑う店主はバシバシと肩を叩いた。
「おっさんって!?まだそんな年じゃねぇよ!!!踊りは母親譲りだが、その不愛想はどこから来たんかねぇ?父親かぁ?ん?」
「…うぜぇ。知らねぇよ。そんなこと。俺は踊れればそれでいい。…また来る。」
絡んでくる店主を振り切るように酒場から出たシェグレは、涼しい満月の夜を楽しむようにゆっくりと帰路についた。
「おい!!!聞いてんのかぁ!?さっさとなんとか言えよ!!!!!」
「怯えて声も出ねぇってかぁ?」
「可哀そうな奴だなぁ?死になくねぇならさっさと有り金ぜーんぶ渡してしっぽまいて逃げちまいな!」
帰路の途中で、暗い路地裏から3人の男の薄汚い不快な笑い声が聞こえて来た。ここら辺は決して治安が良いとは言えない。そんなことも知らないどこかの旅人がカツアゲにでもあっているのだろう。正直関わりたくないが見過ごすにも居心地が悪い。シェグレは自身の正義感に小さく舌打ちをして路地裏の方に足を運んだ。
「おい!!!おっさんら!そんな弱っちいのなんか相手してんな。みっともねぇなぁ?俺と遊んでくれよ!」
「あぁ?なんだクソガキ!消えな!!痛い目見るぞ!!!」
小汚い3人の男に囲まれた背の高い男は質の良さそうなフードで顔を隠していた。
『訳アリか…それともお忍びか…いよいよ厄介なことになりそうだが助けると決めた以上、前言撤回はしねぇ』
「あぁ!そうだな!できるもんなら痛い目見してくれよ?おっさん!」
「こっこのクソガキがぁ!!!!」
ごろつきのひとりが怒号を飛ばした。
シェグレは踊りと同様に喧嘩にも自信がある。このくらい簡単にノシてしまおうと気楽に構えていた。しかし、シェグレの意に反するようにひとりのごろつきの首が飛んだ。血しぶきを上げ、生暖かい液体がシェグレの顔面に降り注いだ。
「っ!?」
何が起きているのか理解が及ばなかったが、現実は残酷だ。目の前では生首がごろりと転がっている。一瞬の出来事に残りのごろつき二人も息を吞み、状況の把握に努めていた。
いつの間にか質の良さそうなフードが脱げていた男はぽつりと温度のない声で言葉を紡いだ。
「ごめんね。本当は殺したくなかったんだけど…。」
血濡れの上等な剣を片手に何事も無かったように微笑んだ男は容赦なく残り二人のごろつきの首を飛ばした。