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公爵令嬢イリスをめぐるトラブル : 恋を知るまで  作者:
第一章 敵国バイエル王太子からの求婚
1/54

模擬戦

公爵令嬢イリスをめぐるトラブル : シャノワール・王妃様の相談所 の続編です。

前作の第3章を読めば、大体話の流れが分かると思います。第3章は男装したイリス(イクリス)が敵国のバイエルに潜伏して活躍する章です。


 真っ青い空。

 爽やかな風、そして硝煙の匂い。


 イリスは前方のボウガン部隊を下げ、工作部隊に合図をした。

 中間地点で起こした数回の爆発と、打ちかかっては逃げての誘導で、敵の主力部隊を本陣から切り離し、狙った場所に追い込む。


 腕を振り下ろすと、あらかじめ仕掛けさせておいた爆薬が引火し、辺りは大きな爆発音と煙に取り巻かれた。敵の部隊は乱れに乱れている。


 待機していた騎士達に、槍と盾を構えての突入を命じる。

 一本の槍のようにまっすぐ、敵の本陣深く突入するよう命じてある。


 周辺の兵は、後ろから追いかけるボウガン部隊と、歩兵で討ち取っていく。しばらくすると、敵陣営内が混乱し、叫び声が響き渡った。


「イリス様、陣を移動させますか」


 風向きが変わり、こちらの陣にも埃や煙が流れてきたのを危惧して、アイラが問いかける。


「エドワードと一緒に移動して。その後、突入部隊と一緒に飛び込んで行った、ミラとカイルを引っ張ってきてちょうだい。あの二人、深く入り込みすぎだわ」


 アイラが走り去った後、その場に兵士を集め、周囲に警戒させた。


 しばらくすると、態勢を立て直した一群が予想通りに攻め込んで来た。

 迎え撃つ素振りをしながら、陣を移動した本隊の方に誘導し、包み込んで討ち取らせる。

 これでだいぶ敵の数が減った。


 イリスが勝てると確信し、拳を握ったその時、煙の中から大きな人影が馬とともに躍り出てきた。

 ルーザーだ。その他十騎程を従えている。


「司令官殿がこんなところまで出張るとは、そちらの軍は壊滅状態ってことね」


「お見事ですね、イリス様。だが、まだ終わりじゃない。王は生きている」


 後は無言で睨み合った。

 まともに剣を交えたら勝てない。周囲に居る兵は無駄死にだ。


 この窮地を救うためには……

 考えを巡らせるイリスの目は、二つの動きを察知した。ルーザーに気付かれないよう、視線を隠してすばやく確認した。


 一つは自陣のエドワード。こちらの救援に駆けつけるつもりのようだ。

 アイラ、ぶん殴ってでも止めてちょうだいよ、とイリスは心の中で念じた。


 もう一つは、ミラとカイルだ。敵陣営方向から、こちらに向かっている。

 馬を奪ったらしく、素晴らしい勢いで駆けて来る。

 ミラが縄のような物を高く掲げた。


 イリスは表情を変えないよう注意して、ルーザーに向き合った。


「その王を放ってきたの? 危険な策じゃないかしら」


「それは大丈夫ですよ。そんなことはしない」


 その言葉の意味を考える間も与えずに、ルーザーが打ちかかってきた。

 イリスの周囲を守る兵たちが次々に倒されていく。どうしようもない。


 遂に、ルーザーがイリスに向かってきた。


「イリス様。お覚悟を」


 剣を振りかぶったルーザーは、次の瞬間、網に囚われていた。

 そのまま、ドサッと落馬する。


 ミラがはあはあしながらも、笑っている。

 助かったが、彼らの今までの行動は、命令違反すれすれだ。罰則と報償で相殺かなと、イリスはため息を付いた。


 その時、ルーザーの後ろにいた一騎がイリスに駆け寄り、剣を振りかざした。

 イリスはその剣をかろうじて受け止めたものの、勢いに押されて、剣をはじき飛ばされてしまった。しかし相手の騎士も、馬が驚いて立ち上がったため、剣を放りだして落馬することになった。

 

 襲撃者はゼノンだった。馬から降りて向き合い、イリスが声を掛けた。

 

「王自らが戦うのですか?」


「兵がいなければ、そうなるな」


 フッと笑い、イリスは間合いを取った。


 防具をかなぐり捨て、素手で向かい合う。こういうのは、十三歳が最後で、それ以来だった。

 他の騎士も馬を降りた。そのうち二人は、ゼノンの弟のテリーとノエルのようだ。敵陣の残りの主力で、斬り込んできたのだろう。


 従弟たちは昔と同じように、二人から離れて座り、応援の態勢だ。その他の騎士達が、どうしようかというようにキョロキョロしている。

 イリスは思わず吹き出してしまった。それを見て、ゼノンが怒鳴った。


「応援しているんじゃない。もうガキじゃないだろう。お前らも戦え、馬鹿者」


 兄に叱り飛ばされ、従弟達は慌てて剣を手に立ち上がった。彼らも大きくなったな、とイリスは微笑ましく思う。


 ゼノンがイリスを掴もうと、間合いを詰めてくる。力では敵わないから、掴まれたらお終いだ。相手より身軽な事が利点なので、それを生かして体勢を崩させ、関節技を仕掛けたい。こっちからも踏み込んで隙を探ってみる。


 しばらく向かい合って観察すると、左脇に隙ができる癖が変わっていないのが見て取れた。

 イリスはわざと隙を作ってみせ、攻撃を誘うと見事に飛び込んできた。

 足払いをかけて体勢を崩すと、腕をギシッと決めた。ロブラールでの二年間、ミラと毎日行った訓練のたまものだ。


 わーッと歓声が上がった。

 エドワードが王、イリスが司令官のレンティス軍が勝利を収めた瞬間だった。


 相手側のロブラール軍はゼノンが王で、ルーザーが司令官だ。

 今回のレンティスとロブラールの合同訓練は、模擬戦形式で行われている。


 剣は刃引きした訓練用の物、ボウガンの矢は先に矢尻ではなく塗料がつけられている。どちらも当たったら死亡とされる。

 爆薬も威力が弱いもの限定で、ミラは音だけ増幅させるよう改良したと言っていた。


 今回の訓練では、数合わせと諸々の事情から、ルーザーとケビンを相手側に貸し出している。

 諸々の内の一つは、一度敵味方に分かれて戦ってみたいと、ブルーシャドウのメンバーが言い出したせいだ。

 またロブラール側は、若手の騎士達を率いて来ている。そのため、ロブラールで訓練教官をしていたルーザーに、司令官を頼んできていたのだ。


 レンティス軍の司令官がイリスに決まったのは、もう少し色々な理由がある。

 誘拐事件の時の采配を認められたこと、ゼノンがイリスと戦いたいと言い出したこと、ブルーネル公爵が、イリスの能力を周囲に披露する、と決めた事による。

 誘拐事件を知る者は少ないし、今までは公爵の方針で、イリスの能力を隠していたので、なぜイリスがといぶかしがる者が多かったが、対戦の様子を見て皆が驚いていた。


 イリスは、ブルーシャドウの提案は、明日結婚式のルーザーに、花を持たせる意図かと思っていた。

 だが、全く違ったようだ。生け捕りにしたルーザーを、先ほどから、からかって遊んでいる。

 応援席にいるルイス嬢の手前、少し態度をあたらめさせようと、そちらに向かった。


「イリス、大丈夫か。怪我は無い?」


 エドワードが心配そうに話しかけてきた。イリスは叱り飛ばしたいところをぐっと抑えて、お礼を言っておいた。それから模擬戦の終了式に向けて兵をまとめにかかった。


「捕虜と死亡者とで分けて並んで。ゼノン王太子殿下、あなたは死亡者の方に行って。弟達に当たらないでよ。相変わらずね」


 一番手が掛かるのは、やはり昔からのケンカ相手のゼノンだった。

 そこにカイルが近寄ってきた。ルーザーをからかうのに飽きたのだろう。


「ルーザーは生け捕りにしましたよ。明日の花婿に傷をつけるなという厳命に、ちゃんと従いました」


 ミラも寄ってきた。


「本気でやりあったら、かすり傷くらいは覚悟しないといけないし、対策したんですよ。ライオンの生け捕り用の網」


 二人とも褒めてもらう気満々で、あまりに無邪気な顔をしているので笑ってしまい、結局褒めることになってしまった。


 模擬戦終了の挨拶をレンティス王が行い、勝利したレンティス軍を称え、最優秀戦士として、イリスの名を呼んだ。


「司令官としての采配、軍師としての作戦共に見事だった。加えて戦闘能力も際立っている。イリス嬢に褒賞を与える」


 そう言って、男物の胸飾りをイリスに掛けてから、小声で言い訳をした。


「こんなに君が強いなんて、知らなかったんだ。後日女性用の物に取り替えよう」


「これで結構です。私は大柄な方だし、使い道がないわけでもありませんから」


 王は不思議そうだったが、それ以上聞いても来なかった。


「今夜は健闘を称えて、パーティーを開くので、皆楽しみにしてくれ。話題のブルーネル公爵家のシェフが、腕を振るってくれるそうだ」


 わーッと、再度歓声が上がった。

 レンティス軍のメンバーが躍り上がっている。


 負けて沈み込んでいたロブラール軍も、元王宮シェフの噂を聞いているのか、急に笑顔に変わった。


 その場を撤収する前に、イリスはルーザーに声を掛けた。彼は、思っていた以上に落ち込んでいる様子だ。


「イリス様、猛獣みたいに網で生け捕りなんて酷いです。せめて騎士として扱ってください。ルイス嬢に合わせる顔がない」


 イリスは肩をポンポンと叩いて慰めた。


「ごめんなさい。花婿に傷を負わせること厳禁、と言い渡したものだから」


 そこでちょっと首を傾げた。


「面白がっているだけかもしれないけど」


「最低な奴らだ。あいつらの結婚式では、暴れてやる」


 もう一度、肩をポンポンとして、明日の結婚式が穏やかなものでありますように、とイリスは祈った。




イリスが恋をして幸せになるまで続の予定。初作品なのでそれを完結として目指します。

今のところ、まだまだ難しそうです。



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