龍と虎の馴れ初め話
「分かった、あいつらに伝えておく」
「ええ、お願いするわね」
茶の間で木のテーブルを境に俺と向かい合う白い狐、冥界の主である暁 白虎。冥界にも昼夜の概念はあるのか、昼の時間帯である今はものすごく空が眩しい。
聞くことも聞いたので、俺はその場から立ちあがろうとするが白狐は俺を困った顔で見つめてくる。何かしただろうか、いや心当たりはあるな。きっと俺のこの顔のことだろう。この忌々しい顔つき、蒼い隻眼、歪な牙、何より笑顔を忘れたこの口。困らないわけがないだろう。
俺の知り合いにちょっとしたチンドン屋が居るのだが、この人はそいつらがお気に入りでな。たまにここに呼んでは演奏してもらっている。知り合いである俺は頼み事をあいつらに伝えているというわけだ。
ある宴会の日、この人は言ったのだ。
「もう私達家族みたいなものよね」
と。言いたいことはわかる、あのチンドン屋もこの人と付き合いが長い、もはや家族と言っても過言ではないくらいに。だが、俺はそういうのは興味が無いのだ。どうでもいいのだ。
「俺に………家族なんて要らないから。これで終わりなら俺は少し出かけてくる」
「堅いわね、まるで神居みたいだわ」
扇を広げ、軽く仰いで
「神居、送ってあげなさい」
その声から一分も経たずに、刀を持った虎が現れた。朝霧 神居。白狐の従者である。
「はい、暁様」
俺は神居を前に門まで歩いていた、子供じゃないんだから一人で行ける。そう言ったが、神居は困った顔で
「でも、ご主人様の命はきちんとこなさないといけないですし……」
はっ、虎のくせして笑わせる。まぁ、こいつと俺が似ていると言ったのもわかるな。自分の信念は曲げないのだ、何があっても。
そういや、宴会じゃよく片付けを自らやっていたな。真面目なやつだ。
「そうだな、そんなこと言っちゃ従者さんが困るよな」
「い、いえ……」
照れるように頭を掻く神居、やがて門が見えてきた。
「私が言っていいのかはわかりませんが」
神居はこちらを見て
「いつもお仕事のお手伝いありがとう、またお願いしますね」
「あぁ……」
こういう時、どんな顔をすれば良いのだろう。笑えば良いのだろうか。だとすれば生憎と、笑うのは好きじゃなくてね。まぁ、慣れないことはしない方が良いか。
「…夕暮れには帰る。またな」
夕飯と風呂を済ませ、今日の仕事を全て終わらせたことを確認すると、私は自分の布団に突っ伏して今日の出来事を思い馳せていた。
彼が、珍しく微笑んで私に労いの言葉をくれたのだ。それが、とても嬉しかった。
彼の名前はエルドラド、生前は人間達から忌み嫌われたいたらしい。強豪で無慈悲と謳われた彼もやはり生き物、死んでここまでやってきたのだ。
彼の知り合いさん達と違って、感情をこれっぽっちも出さないエルドラドさんは怖かった。暁様と喋る時も最低限の言葉しか発さないし、岩のように表情を変えないので何を考えているのかもわからない。
暁様も困り顔になるのも頷ける。でも、最近エルドラドさんの印象が変わってきている。あのチンドン屋をやっている騒霊三姉妹といる時だ。一切表情の変えない彼も、彼女達と一緒にいる時は楽しいのか、ほんの少し口角をあげる。そして前、三姉妹の末女である黄泉 幻さんと一緒に居るところを見かけた。彼女はエルドラドさんの膝上に子供のように座って甘えていた。その時のエルドラドさんはたしかに笑っていた、幸せそうに目を閉じて。心の底から笑って、幻さんを慈しむかのように。
その笑顔を見られる人はきっとここに彷徨いている幽霊達を含めても皆無だろう。居るのが誰も寄らない彼の部屋で、しかも幻さんが離れていった途端に、彼は笑顔でいるのをやめてしまうのだから。きっと、宴会で集まっている面々も、きっとこの世界の有象無象全ても、知らないことだろう。みんな、恐ろしい面の彼しかしらないのだろう。
それから、こんなことはいけないことなのだろうけれど、私は彼女達が来ている時、仕事の合間を計らってエルドラドさんを観察するようになった。
何も頼まれごとをされていない時のエルドラドさんは、寝ているか筋トレをしているかのどちらか。彼はどこで寝るかなんてことにこだわりというか…それさえもどうでもいいのか、結構変な所で寝ている。普通に部屋で寝ていることもあれば、地面だったり屋根の上だったり。筋トレをしている時の彼は………いや、あまりこれといった特筆することもあるまいか。
冷徹無表情な彼に興味を持った、今度二人きりで話してみたいと考えた。そう考えて半年が経ったが、未だに私は話しかけられずにいた。
そもそも、普段からどこに居るのかわからないのだから、話しかける機会すらあまりない。宴会の時くらいなら姿を見せてくれるだろうが、もし拒否されたらどうしよう。今考えても仕方がない、そう思って私は眠ることにした。
宴会当日、私は慣れた手つきで来客をもてなし、時折遠くで一人座っていたエルドラドさんを眺めていた。みんな仲良く大団円をしているというのに、エルドラドさんは一向に混ざろうとしない。
空の酒瓶を回収していると、大きくてよく通る声が聞こえてきた。エルドラドさんの方からであった。騒霊三姉妹の長女、黄泉 叡智さんであった。次女である黄泉 寂滅さんが慌て顔で押さえている。
「うへっ!うへへへっ!qあwせdrftgyふじこlpッ!」
「姉さん、落ち着いて!」
「うぇへへ、あ〜い」
酔いが回って居るのか、普段以上に現を抜かす叡智さんとそれに振り回される寂滅さんの姿。一方幻さんはと言うと、エルドラドさんの膝の上に座って彼に身体を預けて眠っていた。エルドラドさんはそれを微塵も厭わなかった。
エルドラドさんは目の前の状況に少しも動じなかった、いつもと変わらない表情で、ただそこに鎮座していた。
「貴方のところは賑やかでいいわね」
「……騒霊は、騒いでいるのが当たり前だからな」
宴会も終わりが近づいて、一人一人と帰っていく。大抵の妖達は二人以上で来ていたから酔っていない方が酔った方を抱えて帰るという形になっていた。
もう酒の追加はしなくてもいいだろう、そろそろ片付けに入らないといけない。少し大変だがゆっくりペースを崩さずにやろう。
片付けをしていると、暁様が私を呼ぶ声がした。エルドラドさん達のところからであった。さっきと同じ光景であったが、唯一の差異は叡智さんと幻さんが完全にダウンして眠っていることであった。
「三人には泊まってもらおうと思って」
暁様が私にそう言った、寂滅さんが遮るように言う。
「ご、ごめんなさい。私が二人を抱えて帰るからって言ってるんだけど」
寂滅さんは困った顔をしていた、そこでエルドラドさんが重い口を開いて言った。
「………………いくらお前でも、二人を抱えて帰るのは大変だろう。それに、せっかく幸せそうに寝ているのに起こすのは可哀想だ」
表情は変えないまま、口だけを動かした。
「布団なら用意出来ますよ」
私は客間に向かってちゃっちゃと三人分の布団を敷いた。こういう時のために、布団の予備はいくつか用意してある。
「ねぇ」
従者さんが布団を敷きに行った直後のことだ。
「…何だ」
「言い出しっぺの法則って知ってるかしら?」
「あぁ…?」
この亡霊は何を言っているんだ?
「この後………」
…はっ、なんだそんなことか。それくらいなら別に構わないのだが。
「この後、一緒に行けば良いんだな」
「ええ」
そうして丁度、従者さんが戻ってきた。
「布団の用意が出来ました」
その報告を聞いた彼女は
「寂滅ちゃん、貴方一人じゃとても二人は運べないでしょう。幻ちゃんは彼に任せましょう」
「ああ」
「ご、ごめん。起きたら言っておくから……」
「気にするな」
「うふふ、今日は四人でゆっくり夜を過ごしなさいな」
「は、はい…」
俺は幻を起こさないように慎重に布団の上にそっと寝かせた。ぐっと俺の指を握ってきたが、優しくその手を離す。いつもは元気いっぱいで俺のそばを離れず、飽きず色んな話を聞かせてくれて、エネルギーが切れたらこうして眠りにつく。可愛いものだ。
俺達は熟睡した二人をアイツに任せた。
「…………」
「エルドラドさんももうお休みになられますよね?」
従者さんはそう言った。
「………いや、この後宴会の片付けをするんだろう。手伝わせろ」
俺のその言葉に従者さんは困惑した顔になる。さっきあの人に言われたのはこのことだ。
「そ、それくらい私一人でも出来ますよ。エルドラドさんは……」
「………チッ、人が折角善意で言ったのに。人の善意は素直に受け取るものだぜ」
「えぇ!?」
素っ頓狂な声をあげる従者さん。しばらく困った顔をしていたが、やがて返答する。
「わ、わかりました……お願いします」
「ああ」
明らかに彼女は動揺していた、そんなに俺は怖い顔をしているのだろうか。
エルドラドさんと一緒に黙々と宴会の片付けをする。持っているお皿を落としてしまいそうなほど、私は今狼狽している。
まさか、エルドラドさんが自分から進んで手伝いを申し出るだなんて思ってもみなかった。その理由は分からないけれど、別に分からないままでも構わない。彼は見た目が恐ろしいだけで、きっと内心はとても優しい龍なんだ。
片付けも粗方終わって見回す、暁様と私とエルドラドさんの三人だけだ。
「彼とはうまくいきそうかしら」
暁様が私にそう囁いた。
「え?」
私は思わず聞き返した。
「もしかして、エルドラドさんが手伝ってくれているのは……」
「私がお願いしたのよ」
当たり前でしょう、という顔でこちらを見る。
「だって、彼のことが気になるんでしょう?」
「うっ!?」
どうしてそれを知っているのですか!?
「あんなに夢中になって眺めていたら誰だってわかるわよ」
「べ、別にそんなことは思っていません!ただ興味があるだけです!」
「それくらいわかってるわ、貴方が中々声をかけないからちょっとしたお節介を焼いただけよ」
「す、すみません暁様…」
「謝る必要はないわ、貴方は私の自慢の従者なんだから」
「……はい!」
私は酒瓶を数本持って炊事場に向かった。
「…………あれ?幻さん?」
炊事場に入ると、幻さんがエルドラドさんと一緒にお皿を洗っていた。
「………目が覚めちまったんだとよ。手伝ってもらってる」
「むぐぅ…………」
「…おい、眠いんじゃないのか。無理して起きると身体に悪いぞ」
「眠くない…エルドラドと一緒に居る……」
エルドラドさんはまるで娘に語りかけるような口調で幻さんと会話していた。
「おてて冷たい………」
「拭け」
エルドラドさんが幻さんの濡れた手を優しく拭く。すると、ふらりと彼女は彼にもたれかかった。
「………チッ、困った騒霊なこった」
エルドラドさんは再び幻さんを抱えて客間へと向かった。
それから、私達は時折雑談をしながら洗い物を続けた。やはり二人でやるとかなり楽になるな。
「手際が良いですね」
「ああ」
「………」
私はしばし無言になった、どう話しかけてもエルドラドさんは短い言葉でしか返答してこない。会話を盛り上げられない。これでは暁様に失礼じゃないか。でも、一体どうすればいい。
私は産まれてからずっとここで過ごしてきた。従者、暁様を護る盾として。
もしも、あの時あの異変が起こらなかったら、きっと私は彼とこうして洗い物をしていないだろう、それどころか彼と同じように他人に興味がわかなかったのかもしれない。
「おい」
私ははっとした、いつのまにか手が止まっていた。
エルドラドさんの潰れた左目が見える、顔の角度を変えずとも私のことは見えているのだろうか。
「ご、ごめんなさい」
心なしか、エルドラドさんの表情が心配しているように見えた。まるで、あの三人に向けていた慈しみを感じさせるもののように。
「……疲れてるんじゃないのか?」
鍛錬は毎日欠かさず行っているから体力に問題はない、今は眠くもないから。それよりも、動悸が凄い。緊張が限界を達していて……
「エルドラドさんは……他人と話すことに抵抗はないんですか……?」
自分は何を言っているんだ、今一番気になっている人にこんなことを聞いて何になる。
「……………大有りだ。俺は他人が大嫌いだ」
笑わずに、そして呆れずにそうあっさりと答えた。
「え………それじゃあ……」
「あの三人は特別だ。もちろんアンタ達もな」
「……………」
「何だ、意外か?」
「いえ、別に………」
興味がなかったわけではなかった、ただ他人と関わるのが好きではなかっただけだったのだ。
「そんな質問をしてくるってことは、アンタは他人と話すのが苦手なのか」
「え、えぇ……」
「意外だな」
「え?」
「一生懸命仕事頑張ってるし、裏表のないやつだと思っていたからな」
「そ、そんな……」
エルドラドさんからこんなふうに思われていたとは、正直嬉しい。
「………気になる奴でもいるのか?」
「!?」
エルドラドさんのその言葉は私を追い詰めた。
「はっ、図星みたいだな」
貴方のことです、と言えたらどれだけ楽なのだろうか。しばらくしてエルドラドさんは尻尾で私の肩を叩き。
「まぁ頑張れや、俺は陰ながら応援してるから」
「じゃ、じゃあ……!」
勇気を振り絞って言う。
「また、お話してくれますか?」
「……………俺で良いのなら」
「あ、ありがとうございます」
洗い物も終わったところで彼は言った。
「なら、次からは俺のことをさん付けするのをやめろ。好きな奴と敬語で話す奴なんてどこに居るんだか」
その言葉に、私は数十秒黙って………
「…………うん、エルドラド」
「ああ、神居」
「…………チッ」
部屋に戻ったら、幻達が寝てたんだが。何でだよ。
……考えてみれば、神居はあの人と毎日過ごしている。だのに、あの人にさえも打ち明けない悩みを俺に話したということは、俺は彼女に信頼されているということだろうか。
「……はぁ」
あまりそういうのはただ重いだけだから期待しないでほしいものだが。気になる人、やはりあの人のことだろうな。そう、従者が主にこんな感情を抱いて良いのか、ってな。生真面目な神居のことだ、苦しむのも無理はない。ただ俺は、その経過を見守ろう。
「………………エルドラド、今日は…ありがとう」
「ああ」
部屋に入ると、三人仲良く川の字で眠っていた。叡智が寂滅を強く抱きしめて眠っていることに俺は何も言及せんぞ。
「…………」
俺はそっと三人の近くに丸まって眠った。神居が布団の中で眠れずに起きていたことなんて俺の知ったことか。
それからというもの、私は宴会の後にエルドラドさんと話すようになった。
エルドラドさんは嫌な顔をせずに、私に付き合ってくれた。今日も二人炊事場で話していた。
「それでよ、幻が起きろって叫びながら俺にタックルして起こしやがったんだ。どうしてだと思う?」
「何か用事でもあったの?」
「ああ、あったんだよ。………早朝からな」
早朝、という言葉を強調している。げんなりした顔を見た私は理由がわかった気がした。
「早朝から遊んでほしかったんだね、お疲れ様」
「あいつ、暇さえあれば時間関係なく俺のところに来るからな」
流石に早朝から行動するのは嫌いなようだ。それにしても、こうして話を聞いているだけでエルドラドさんの新しい一面が見えてくるようで嬉しかった。
敬語を使わないことに慣れてきたところで、エルドラドさんは話題を変えた。
「ところで神居」
「なに?」
「普通に話すのにも慣れたみたいだな」
「……うん、エルドラドのおかげだよ」
「そろそろ、半年が経つぞ。声をかけてやっても良いんじゃないか」
「それは………」
「大丈夫だ、アンタならやれるさ」
エルドラドさんは私の方を見て
「アンタと居ると、アイツらみたいに退屈しないからな」
「そ、そんな……えへへ」
「………怖いのか」
言ってしまいたい、貴方だと。気になるのは貴方だということを。貴方のことをもっと知りたいと。
「………いやまぁ、そんなに急かすことでもないか」
その言葉を聞いた時、私は気がついた。彼は待っているんだ、私が勇気を出すその時を。そんなの、いつになるのかわからないのに、その対象が自分だとも知らずに。
これ以上待たせるわけにはいかない。言うんだ、自分の想いを。
「………エルドラド」
「なんだ」
「ずっと待ってくれてありがとう。私も貴方と話せて楽しかった。だから、言うよ」
無理するな、そんな声が聞こえたが私は気がついていないフリをして
「……私の気になる人は、貴方だよ。どうやら、好きになってしまったみたいなんだ」
「何………?」
私の言葉にエルドラドさんは目を見開いた、顔をこわばらせていた。
「ここで、一緒に話した時からずっと気になってた。見た目に反して、あの三人を大事に想っている優しさが」
「神居………」
「貴方は私の相談に文句の一つも言わずに付き合ってくれた。答えを出せるのがいつになるのかわからないのに。これ以上、待たせることはできない。貴方の答えを、聞かせてほしい……です」
エルドラドさんは、またいつものような表情になった。返事を聞くのが怖い。ひどく拒絶されたらどうしよう。
「…………チッ」
「ご、ごめんなさい!!」
彼が舌打ちした、そんなに嫌だったのだろうか。私は怖くなった。
「………どうして」
「?」
「どうして、そんなに俺を想える。アンタもアイツらと同類ってわけか。これは…どう返事すれば良いんだ?」
私は彼の表情に惹きつけられた、いつもの彼がするとは思えない酷く困った表情。指を顎下に触れさせて、考える人のようなポーズをとる。
「それは……俺と、付き合いたいということか?」
「は……はい…そういうことになります…」
その言葉を聞いた途端、彼は目を見開いてさっきより困った顔になった。唇を噛み締めていた。
「エルドラドさん………」
「…………ごめんな、傷つけてしまうかもしれないが…」
「………」
「俺は、そういうのに興味ないんだよ。人間からずっと苛まれ続けていたから、そういうのに興味が無くなってしまったんだ。ごめんな……」
エルドラドさんは視線をずらして、申し訳なさそうに言った。
「もちろん、アンタのことは嫌いじゃない。アイツらもな。でもよ、あんまり俺は期待なんてしたくないんだ、いつ裏切られるかわからないからさ……」
言いたいことはわかる、もしそういう関係になって相手に捨てられたら……彼にはそんな光景が平気で過ぎるのだろう。
「ごめんな………」
「…どうして、泣くのですか?」
エルドラドさんは、泣いていた。
「ごめんな、お前の気持ちに応えてやれなくてごめんな……」
「……良いんです、これは私が勝手に想ってることなんですから」
私は優しい口調で言った。
「なら、私もあの人達と同じような扱いをしてくれませんか。それなら、貴方も大丈夫だと思いますが」
「………ああ、それなら…大丈夫だ」
「……それじゃあ、よろしくねエルドラド」
「……ああ、よろしくな神居」
「………貴方があの三人に向ける表情、慈愛に満ちていて好きだよ」
「………なんのことだか」
その言葉は、いつもと違って温もりがあった。
「ほら、四人が待ってるわよ」
「は、はい!」
慌てて服装と身だしなみの確認をする。愛用の刀もピカピカだ。
「神居さーん!早く早くー!」
「今行きます!」
「五人で仲良く遊んできなさ〜い」
暁様がそう言った。私の想いは叶わなかったけれど、後悔は何故か全くない。むしろ、幸せを感じる。この幸せが、ずっと続きますように。