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死に花を願って  作者: とシ
1/3

プロローグ

初投稿です。

「私、この花が好きなんです」

 

 その花は卵状楕円形の5cm程度の葉に淡紫紅色系の花を咲かせるキスツス・アルヴィドゥスと言う花らしい。


「この花の儚さがとても好きなんです」


 特に理由を聞いてはいないがクラス委員長の聖堂院姫乃は微笑みながら呟いていた。

 痩せ細った体躯に青白い肌は余りに病的に見え、その花同様に儚さを感じさせる女性だ。長い黒髪のストレートヘアーは手入れが行き届いているがその外見の所為か姫乃の地毛ではないように思える。


「そうなんだ。初めて見る花かも」

「そうですね。本来は南欧や北アフリカ、西アジアに分布している花なんです。物好きの知り合いが私にこの花を下さったのです」

「へえ…」


 何故か嘲笑気味の姫乃。


「しかし、まあ、珍しいね」

「はい、この花は本当に珍しい花ですよ」

「いや、そうじゃなくて。委員長が話しかけてくるなんて珍しいなってさ」


 姫乃はその見た目通り物静かで一度自分の席に着いたら用事がない限りその場から動かずに一日を終えているイメージがある。ずっと何を考えているのか知らないが、ぼーっとしていてたまに教科書を開いて眺めているだけ。クラス委員長になったのも単純に誰もやりたがらず押し付けられてなったほどだ。あの時の無言で頷いていた姿には流石に同情した。そんな寡黙な姫乃が話かけてきたのだから当然珍しいと感じる。


「そっか…そうですね。なんだろう、綾瀬川君なら優しくしてくれるかなって思って話しかけたのかもしれません」

「優しくしてくれるって。このくらいは誰でもって思うけどね?」

「そう思ってるのは優しいからだと思います。多分、他の誰かに話しかけたら気味悪がって会話にならないと思いますし」

「優しいという評価についてはまあ、ありがとう。でも自分のこと気味悪いとかそんな卑下するのはよくないと思うけどね」


 卑屈な女だと内心思っている自分は優しくなんてないだろう。


「ふふ、そういうところですよ」

「え?」

「ちゃんと注意してくれる所とか」

「…なるほど」


 姫乃にどう思われてもいい、そんな考えからの発言だったのだがお気に召したらしい。


「とにかくですね」

「とにかく?」

「私は綾瀬川君と仲良くしたいなって思ってるんです」

「僕と?」

「ええ、綾瀬川君とです。だめですか?」


 断る理由は特にない。


「い、いいけど…」


 このやり取りは早朝の教室での出来事だった。ゴールデンウィークが明け新たな生活にも疲れが見えてきた5月の半ば。いつもの学校生活に差し込まれた小さな変化。この変化の影響力に僕はまだ気付いていなかった。

 その日の変化と言えば、姫乃が持ってきたキスツス・アルヴィドゥスが飾られたこと。

 そして下校するころにはキスツス・アルヴィドゥスはすでに枯れていたこと。

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