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サンクチュアリ   作者: ごむ★
1/1

~ジンバック 正しきこころ~

主人公が、ただ自分の居場所を求め、つくった唯一無二の場所

Barサンクチュアリ

お気に入りの赤いカウンターで交わされる会話とその背景

言葉にできない思いをたくさん抱えているからこそ、大事に発する言葉の数々。。。

カクテルに思いを込めて


サンクチュアリ。。。聖域。。。

守られる場所、、、逃げ場所、、、

この名前を付けたときは自分のことしか見えてなかった


~たぶんね。。。。人って簡単に人を好きになれるよ~


「ボーイッシュ女子」

「ジェンダーレス女子」

TikTokを開くとそんな言葉がどんどん流れて

楽しそうに音楽に合わせて踊ったり、笑ったり、、、

ソファにもたれ、テレビの音量を下げ、

右手で送る映像は、次から次へ流れていく

言葉にできない思いが私の中でザワザワとうごめく

「時代、、、」と言う言葉で完結してしまうのか。。。

だとしたら

私の生きてきた「時代」と今の「時代」

どちらがしあわせなんだろう・・



「ありがとう」

悲しそうな顔で涙をうかべる

満足気な表情で優しく微笑む


表情はさまざまだった

でもみんな

「ありがとう」っていって

自分だけ終わらせて

ピンと伸びた姿勢で、スタスタと歩いて行く


まるで霧がかかった場所から、明るいほうへむかって行くようにスタスタと歩いて行く彼女たちに

わたしはいつだって

「待って」と言えず

手をつかむことも出来ず

ただその少し軽くなったようにみえる背中を見ていた




私が「違う」と気づかされたのは小学校に上がる頃だったろうか。。

いや、自身の違和感はもっと前、、、にあったような気もするが、、、



1980年4月


「男の子の下駄箱はこっちじゃないですよ」

周囲がザワつく

ブルーのラインが入った泥だらけのスニーカー

履き古したそれは当時のわたしの当たり前だった

「あっすみません…」わたしは小さな声でそう言ったように思う



ツンとした姿勢でシルバーチタンフレームのメガネ

ニコリともしない教師は「あっこっちなの?」と言うと女子用下駄箱の前にいたわたしの視界から消えた


わたしの中で

少しずつ

みんなとは違うという

モヤモヤっとした

そう…絡まった毛糸の塊のようなものが生まれた

それは黒くてフワッとしていて、すぐほどけそうなのに

どう絡まっているのかわからない

そんなようなものだった



1995年6月


(カランカラン)ドアのベルが鳴る

勢いよくあいたドアからはいつもの元気な「彼女」だ

「いらっしゃいませ」


「こんばんはー。ジンバックね。

ところでさぁ、キャプテンって好きな人いるの?」


彼女はわたしがアルバイトをしていたアパレルショップの常連だった

まるで韓流アイドルなような容姿で、とても人懐っこい

いわゆる今どきのモテ女子

彼女はいつもあけすけにものを言う

いつもは何人か一緒に、もう少し遅い時間の登場なのに

今日はオープンと同時にドアを開けてひとりで入ってきた



「マスター」と言うイメージには程遠い私は

いつしかみんなに「キャプテン」と呼ばれるようになっていた



「好きな人?いるよーいつだって(笑)」

わたしはジンバックをカウンターに差し出しながら

彼女の前に立った

レトロなこの赤いカウンターはわたしのお気に入りだ


彼女がいつもと少し違う雰囲気だったので

気にはなったが、、、

いつもお客さんが来る時間にはまだ早く、開店準備が終わっていなかったので

いつものようにボトルを拭きながら、話すことにした


「どしたの?」


彼女はカウンターのジンバックを少し飲み、大きな息をひとつついた

「なんか、いいなー、キャプテンが好きになる人ってさ、

きっと女としてすっごいステキな人なんだろうなー」


「なにそれ?」

わたしは目を見開いて聞いた


「だってさ、キャプテンはもともと女の人だから

男からみる目とはちがうでしょ。だからきっとステキな人なんだろうなーっと思って、キャプテンに選ばれた人はすごい人なんだって」 


わたしは心の中で「なんだそれ?ってか元々って、、今もだけど。。。」とおもいながら

「すごい人かどうかはわからないけど、自分にとってはステキな人だけどねー」

と微笑み、わたしは最後のボトルを棚に戻した


「彼氏いたよね?」

「いるにはいる。。」

「ん??」

「たぶんね、人の気持ちなんてわかんないでしょ。なんかだれでもいいのかなーって」

「わからなくもないなーその考え方。たぶんね。人って簡単に人を好きになれる。」

「そんなことないでしょ」

少し怒ったように切り返す彼女に、にやりと微笑む


ゆっくりと彼女の眼を見つめながら、わたしはこう言う

「ジィーっと、、ずっ~と、、一人のひとを見ているとするでしょ。その人が相当な悪人でない限り、きっとその人を好きになる。どんな時もずっ~と見ておく。いないときは、ずっと考えとくのよ。そうすると。。。」

彼女は真剣に話す私の目から目を外すことができなくなっていた

ふっと我にかえった彼女が言う

「なにそれー」




(カランカラン)

「いらっしゃいませ」

その日はいつになくお客さんがひっきりなしにやってきた

こんなことはあんまりないのに…


ジンバックを2杯飲むと彼女は帰っていった

「また来るねー」



彼女が結婚してこの土地を離れたと聞いたのは

その一年後のことだったように思う

長く付き合っていた彼と別れて

友達の紹介で知り合った

出会って間もない相手だったそうだ


この店にはいろんな人がくる

わたしのお気に入りの赤いカウンターには

ひとりで来る人が多い


奥は4人がけテーブルが5卓

満席になることは

ほとんどない

わたしがバーをはじめたのは

自分の居場所がほしかったからだ


下駄箱がどれであってもかまわない

そこにいてもなんの違和感もなく、だれからも不思議な目で見られることのない

そんな場所

やっとみつけたこの場所



ジンバックの彼女にとって

ここはどんな場所になれたのだろうか


そうきっと

人は簡単に人を好きになれる

その答えは、、、まだわからないでいる






主人公が発する言葉に

意味を付けるのはそれぞれです

その時その時で感じ方も変わるはず


正しいことか間違っているか

ではなく、その時感じる自身のこころが答えです

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