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異世界武闘譚~英雄の雛の格闘冒険録~  作者: 瀧原リュウ
第三章 ビギニング・ジャーニー
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#96 託す未来、時を越えたエールその二

 そうこうしている間にも、レル達三人は順調に上がっていく。

 俺の時のように気配を消しながら慎重に進んでいく必要が無いため、そのスピードは相当なものだ。足場もそこまでの面積があるわけではないのだが、三人はまるで階段を一段飛ばしで登っていくかのように。その芸当ができるのが当たり前かのように、ただグラーケンを見つめながら確実に足場を蹴る。

 もちろん、誰にだって出来る事じゃない。あれは純粋な三人の努力により可能としているものだということは俺でも分かる。

 効率の良い体の動かし方、着地する際にどこに重心を持っていくか、どの程度の力で飛べば先の足場まで届くのか。地面でもない複雑な環境でそんなことを、まるで公園の子供用アスレチックをスポーツマンが大人げなく攻略するようなスピードで行っているのだ。


「流石というかなんというか・・・」

『タクさん!あなたよくこんな状況でそんな物思いにふけることができますね!?』


 おっと、思念が漏れていたようだ。

 ちなみに俺は今、相も変わらずにグラーケンの触手を引き付ける役割を継続している。現在の攻撃に使用してくる触手の本数は四本。さっきの倍である。

 今のところ目立った特殊攻撃をしてこないので、この危険な役割でさえも、ただ触手を弾くだけの流れ作業と化してしまっていた。

 流れ作業というものは恐ろしい。別の事を考えていても体は勝手に動いている訳で、それが思わぬミスに繋がることも少なくない。ついいつもの感じで気が緩んでしまったが、ずっと気を張り詰めているのもよろしくない。失敗を恐れてビクビクしながら物事に取り組むより、普段の感じで進めていった方が、案外上手くいったりするものである・・・何の話してたっけ?

 そうそう。増えた触手の対応をしていたところだ。初見の際はいろいろな意味で度肝を抜かされたが、事前に分かっているのであれば話は別である。一本が二本に増えようが、二本が四本になろうが今の俺には関係のない事だ。触手(これら)引き付け、レル達が例の地点に到達するまでの時間稼ぎを続けるのみ。


「ふぅぅん・・っ!?ぐあぁっ・・・!カッ・・ガハッ・・・」

『タクさん!!』


 そんなことを思っていた最中、触手の軌道が突然にして変わった。四本の内の一本が、俺の脇腹に突き刺さる。

 その瞬間に悟った。今までの単純すぎる攻撃は、この一撃を入れるための行動に過ぎなかったということを。

 どうやらグラーケンは、俺が思っていた以上に知能指数が高いようだ。こいつがそんなことを考える頭を持っていようとは思いにもよらなかった。

 俺はその勢いのままに突き飛ばされ、岩の壁に触手もろとも叩きつけられる。全身を激しい痛みが遅い、『身体強化』を発動しているのにも関わらず、一瞬の間身動きを取ることすらできなかった。

 そしてその間に、残りの三本はキキョウの方へと容赦なく襲い掛かる。


ギュイィィィィィイイ!!!!!


『くっ・・・!!』

 

 物凄いスピードでキキョウへと襲い掛かる触手と彼との距離は、もうすでに十メートルを切っており、キキョウはこの時点で戦線離脱を覚悟した。


『こんな最序盤で脱落とは・・いや駄目だ・・・自分が今死ねば、四人に施している強化も連絡手段も途切れてしまう・・!!まだ私は死ぬわけにはいかないのに・・・!!!』

「うぉぁぁぁああああああああ!!!!!」


ぎぃぃぃぃぃいいいい!!!!!


「はぁ・・ハァッ・・・っぶねぇ・・・!!」


 まさに間一髪だった。刺さったままの触手を一時的な『身体強化』百パーセントで弾き飛ばし、そのまま全力で地を蹴った。

 基本的に百パーセントで移動する機会など無かったので、自分の速度に驚きはしたが、そんな暇すら惜しかったのでその感情に対して完全無視を行い、残り一メートルを切っていたキキョウと触手の間にギリッギリ入ることに何とか成功。迫りくる三本の触手を自分の反応速度すら置き去りにして弾き返した。

 その後、奴の攻撃が一瞬止んだ時、自分の頭から頬を伝う何かが、そのまま地面にぽたぽたと流れるのを感じた。それは汗でも、もちろん涙でもない。

 それは、血。『身体強化』を発動させ、肉体の強度は相当上がっているはずなのに、その強度すらも超えた一撃だったとでもいうのか。

 いや、俺が攻撃を喰らった箇所は右の脇腹。頭ではない。おそらく、あの勢いで岩に叩きつけられたからだろう。それでも、俺が血を流すほどの要因の中に、グラーケンの触手の威力と加速が大きく関わっていることは間違いない。向こうも小手調べながら、本気で俺を仕留めるつもりらしい。


『キキョウさん、すみません。こっからは容赦しません。』

『えぇ・・お願いしますよっ・・・!』


 そこから間もなくして三度(みたび)触手の猛攻。触手の数は五本となり、こちらへと向かう。

 

「はぁぁぁぁぁあああああ!!!」


 ここで『身体強化』の出力を少し上昇させる。更に『闘気加速(アーツ・ブースト)(ダッシュ)』も発動させ、俺自身も触手に向かって超スピードで向かっていく。


「うおらぁぁ!!!」


 まず一本目。正面の触手を飛び蹴りで弾く。次に二本目。右上の触手を蹴り上げ、三本目はそのまま空中で体を捻り、一回転してからの回し蹴り。


「ハァァアアアッ!!!『闘気加速(アーツ・ブースト)(フィスト)』!!!」


 ()()()()拳。俺はそれを俺の下を通過していた触手に向かって全力で放つ。更に加速度がついた一撃は、とうとう触手へとそれらしいダメージを与えた。

 その触手は拳がめり込んだ部分が弾け、本体から分断される。そしてその勢いで俺は五本目も同じように殴る。空中で二本の制御を失った触手が舞う。


 『闘気加速(アーツ・ブースト)(フィスト)』。突発的に思いついた技だが、その威力は予想以上だった。一時的だが、『身体強化』百パーセントで攻撃せずとも、グラーケンから触手の自由を奪い、向こうの戦力を下げることができた・・・と、思ったのだが・・・


ギュギィィィェェァァアアア!!!!!


「うっそだろおい!?もう再生してんじゃねぇか!?」


 話と違うじゃねぇかレリルドさんよぉ!?

 確か再生するのに五分かかると聞いていたのだが、実際にはほとんどのロスタイムもなく再生しやがった。

 レルの()()()から聞いた情報が間違っていたのか、それとも本気モードになったグラーケンは再生能力が向上するのか。


「・・・・・そもそもダリフ(あの人)の情報あてにするのが間違いだった!!!」


 あの割といい加減なところが多々あるダリフからの情報なのだ。しかも若い時のってことは、おそらく数十年前くらいの情報。実際と違っていても何もおかしくない。ダリフの『戦い』に関する情報だったから信用してしまっていたが、今後はあてにするかどうかを真剣に考える必要性がありそうだ。

 少し焦りはしたが、俺は変わらず触手を今度は『闘気加速(アーツ・ブースト)(フィスト)』無しで弾く。

 触手を断ったとしても、またすぐに再生してそのままキキョウへと直行する可能性があるので、普通に弾き続けるのがベストだと感じた俺は、レル達がグラーケンを弱らせるまでこのまま耐久することにした。

 

「レル、アリヤ、ムラメ・・・頼むぞ・・・!」


 俺も()()()()()()()()()()()()()ものの、触手の再生速度があれでは全く意味をなさない。やはり攻略のカギとなるのはグラーケンの内部破壊。

 なので俺は、このままただ時間を稼ぐ。遠目から見た感じ、あいつらが昇り切るまであと七割といったところだろうか。まだまだ時間がかかる。そして、グラーケンはまだあと三本。触腕を除いた攻撃に使える矛を収めたままだ。油断なんてしている暇はない。


「五本だろうが十本だろうが、気合いで捻じ伏せてやる!!!」

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