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異世界武闘譚~英雄の雛の格闘冒険録~  作者: 瀧原リュウ
第三章 ビギニング・ジャーニー
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#93 死掴の洞窟烏賊その二十三

 いろいろとクサい台詞を吐き散らし少しの後悔も残ったが、新技を編み出し、魚人に勝利したという達成感がそれよりも勝る。

 今この場にいるのは俺一人。突然襲ってきた数百を超える魔物の群れは、この場にて骸へと変貌し、そこら中に転がっている。これをやったのが俺自身だとしても、見ていてあまりいい気分になるものではない。

 つい先ほど思い付きで大成功を収めた『闘気加速(アーツ・ブースト)(ダッシュ)』、そして『闘気飛蝗跳躍(アーツ・ホッパー)』。突拍子もなく生まれたこの二つの技だが、予想以上に汎用性の塊かもしれない。移動系の技というものは、戦闘の状況を変えることのできる可能性を秘めており、様々な場面でその力を発揮する。そして何よりも、戦闘の際以外でも使える。これがデカい。

 『身体強化』のみよりも、ストーン・アーツを掛け合わせてやった方が身体的なパフォーマンスが向上するのははっきりと分かる。そしてこのストーン・アーツ、何がぶっ壊れかというと、取り込んだ魔石の種類に応じてその威力はどんどん跳ね上がる。今は雷、そして闇の二種類だが、今後他の属性の物も何かしらで取り込むことさえできれば、俺は更に強くなることが可能というわけだ。


「今後もいろいろ試して、うーん・・・空・・飛びたいな・・・!」


 俺はそんな子供じみたことを呟く。高所恐怖症の人間以外なら、一度は考えたことがあるであろうその浪漫的思想。普通に考えれば体の構造上確実に不可能だが、きっと出来るはずだ。なんせここは不可能を可能にする魔法の世界。実際に空を飛べる奴がいるのかは知らんが、いつか実現して見せよう・・・


「・・・つっても、魔法が使えない挙句、現状が洞窟生活(これ)じゃあなぁ・・・」


 それらを叶えるためには、まずこの地下洞窟を脱出しなければならない。とりあえず直近のミッションであった偵察を無事に終えることに成功したので、俺はそのまま帰路に就く。




「・・・タクさん。()()ばかりお話ししたいことがあるのですが・・・構いませんね?」

「・・・・・はい・・・」


 グラーケンの開けた穴をくぐって訓練場へと戻ってくると、案の定キキョウが険しい顔で仁王立ちしていた。学校でやらかしてしまった事が先生にばれたような気分である。

 その後、すでに起きていた三人に見守られながらも、その場で正座させられた俺は、キキョウに三時間ほど説教された。キキョウのその際に言っていたことはすべて正しく、言い返す言葉なども存在するはずもなく、ただただ返事を返しながら頷くことしかできなかった。ああ俺は何と無力なのだろうか。


「・・・ともかく、あなたは英雄の雛であってもまだ子供なんです。今回は無事に帰ってきたからいいですけど、相手はまだ誰もまともに勝負できた者のいない化け物。もう少し慎重に行動をうんぬんかんぬん・・・」


 説教されたのなんて何年振りだろうか・・・中学の頃からオタクの道を突き進み、あまり表立って学校生活を謳歌する人間でもなかったので、やらかすこともなく、面倒ごとに巻き込まれることも無かったのでここ最近あまり怒られた記憶が無い。直近で言えば、クルーシュスと言い合った時くらいだろうか・・・


「聞いてますかタクさん!?」

「・・はい。すみません・・・」


 説教は一時間プラスとなった。




「・・・まさか、考えなしにあれの偵察に行くなんて・・馬鹿なの?」

「もうちょっとオブラートに包んでほしいものだな・・・勇敢と言え勇敢と。」

「タク・・それは蛮勇って言うんだよ・・・」

「酷い言われようだ・・・」


 そこまで言わなくてもいいじゃないか。これでもちゃんと情報持って帰って来たんだぞ?

 と、いうわけでその後は俺の成果発表の時間となった。


「それでタクさん。グラーケンはどうだったのですか?ムラメたちは奴に敵うでしょうか・・・?」

「それに関しては正直分からんな・・・俺は奴に対する決定打を持ってないし、偵察の間に奴本体とやり合ったわけでもないしな・・・けど、いろいろ分かったこともある。」

「ふむ。例えば?」

「まず、あいつの身体の構造は俺の記憶とほぼ同じものだった。えらの部分が肺にすり替わってたりとかはあったが、それでも基本的には同じだ。」

「つまり、戦法は当初の予定とあまり変えなくてもいいってことだね?」

「あぁ。臓器を削って弱らせ、そして仕留める。いちいち触手とばかり戦っていても、永遠に再生されてこっちがおしまいだろうしな。」


 狙うは一点。奴の内臓のみ。おそらくそれも再生されるだろうが、削り続ければ流石の奴もひとたまりもないはずだ。問題はあの馬鹿でかい内臓らを削り切れるかだが・・・


「それと、今グラーケンがいる場所には壁に足場になる石の柱がある。それらを伝っていけば奴の内臓まで刃が届くはずだ・・・あ、そういえば、外套膜・・内臓付近になんか変な奴もいた。」

「ん?変な奴って何なの?」

「人型、赤い目、妖精の羽、腕が十本以上の触手。そして急に個体数が数百体。」

「嘘でしょ何その地獄みたいな状況・・・」


 ただでさえ化け物のグラーケンに攻撃を仕掛けようとしても、そいつらが行く手を阻む。びっくりだろ?これで負けイベじゃないんだぜ?


「だったら、その魔物の対策もしないといけませんね。」

「でも、飛ぶ、増える、触手を相当なスピードで伸ばして攻撃してくるくらいしか分かりませんでした・・・流石に急にあれだけ増えられたら慌てちゃって・・・」

「いや、それらが分かっているのと分かっていないのでは全然違いますよ。とにかく、お手柄ですね。ただし、もうちょっと考えて行動するように!」

「き、肝に銘じておきます・・・それと、大雑把ですけど作戦を考えたんで、ここらで発表しても?」

「・・・伺いましょう。」


 考えている戦法を元に俺が考えたのは、非常にシンプルな作戦。

 それは、片方が注意を引き付けて、もう片方がその間に攻撃を仕掛けるというもの。


「俺が奴の触手のヘイトを全部引き受ける。可能ならさっき言った触手妖精も引き付けたいが、そこは状況によるな。そしてその間に、四人は肝臓を滅多打ち。奴のエネルギー貯蔵庫を破壊する。グラーケンが弱ったところで心臓なり肺なりを叩き、奴の命脈を絶ち、洞窟の被害も最小限に抑える。」

「なるほど・・・でもそれなら、私はタクさんの方に付きます。」

「え・・・?」

「少し前に話したでしょう?戦闘においては、皆さんの足元にも及ばないと。洞窟居住民(アンダーグラウンダー)になった今でも、『強制覚醒』だけはなんとか使えますが、逆に言えばそれだけ。対グラーケンの戦力には足りません。ですがその代わりに、対象を強化する魔法を習得しました。そっちの方が、お役に立てると思います。」

「・・ならお願いします。正直、気合いでなんとかするつもりでしたけど、一人じゃ結構厳しい部分もありましたでしょうし・・・」

「・・・七年前、私はユカリ一人に触手の猛攻を任せ、今でも深くそれを後悔しています・・・もう、同じ悲劇は生まない・・・!」


 並々ならぬキキョウの覚悟を受け取り、作戦はそのように進める方針となった。

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