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異世界武闘譚~英雄の雛の格闘冒険録~  作者: 瀧原リュウ
第三章 ビギニング・ジャーニー
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#89 死掴の洞窟烏賊その十九

「・・・やっぱ相当でかいな。」

 

 かなりグラーケンへと接近したのでその巨体を見上げてみたのだが、やはり異次元のサイズだ。

 たしかスカイツリーが六百三十四メートル。果たしてそれをいくつ積み上げれば、これと同じ高さになるのだろうか。そう考えてしまうほどの、とても生物とは思えないサイズ。文字通り、住んでいる世界が違うというやつだ。

 それではこれより、グラーケンへの潜入調査を開始する!


「で、どうやって入っていこうか・・・?」


 自分でも思うが、なんて行き当たりばったりな偵察なのだろうか。偵察と言えば、事前に綿密な作戦を用意しておき、それをマニュアル通りに慎重に進めていくものだろう。そして今、それと全く別の行動を取っている。今となって計画性のなさに呆れるが、はっきり言って緻密な事前準備など性に合わないので、気にせず次に進もう。

 グラーケンはまだこちらには気付いておらず、今はあまり触手も動かしていない。おそらく寝てはいないのだろうが、休息を取っている状態に近いだろう。

 であれば、今はかなりチャンスな状況と言える。眠ってくれているのがベストだが、そんなことは言っていられない。

 スーパーとかでよく見かけるイカと構造が同じなのであれば、おそらく頭部と外套膜の間に隙間があるはずだ。

 グラーケンの身体は直立しており、中に入るには体をよじ登る必要があるが、おそらく気づかれるだろう。こいつのセンサーはそれほど精密なのだ。

 流石に空は飛べないので、グラーケンの身体を伝う以外の方法を考えねばならない。

 幸いにもここは洞窟内。壁も天井もある。行動範囲が決められているので、地上よりも行動の自由度は減るものの、戦略の自由度は上がる。いくら事前準備が性に合わなくても、流石にそれくらいは考えねばならないだろう。

 俺はこの空間内を見渡す。どうやら以前本体と対面した場所ではないようで、訓練場から移動してきて今とどまっている場所だろう。動かずに休んでいる辺り、そこそここの空間がお気に召しているようだ。

 洞窟を破壊しながら向かってきたこの場所は、グラーケンによって作られた、もとい俺の通って来た道以外は壁で囲まれているが、いざ戦闘となってこの場所だけで戦うことになるかどうかは分からない。想定外の想定もしておくべきだろうが、そういった諸々は帰還してからでもいいだろう。


「とにかく、イカの内部調査と行きましょうかね・・・・・お、あそこにいい感じの所が。」

 

 周囲の壁を見渡していると、壁から都合よく出っ張った足場になりそうな石の柱がいくつかある。先が削れて鋭利になっているが、上部は特に問題なさそうだ。長さも中々のもので、かなり大きめのサイズのものは、グラーケンの頭部の近くにまで伸びている。なんでグラーケンはあれをへし折らないのだろうか?


「まぁあの図体だし、あの触手の太さと長さだしな。近くに持ってくるのだけで一苦労なんだろ。」


 その場では適当に解釈したが、これは好都合である。

 俺は壁から生えている足場をなるべく音を立てずに伝っていき、目的の柱へと向かう。


ぺきっ


「あ。」


 自分の事なのだが、突然意識外でトラブルを起こすのはやめていただきたい。

 伝っていた足場の中でもかなり細い柱があったのだが、まぁ大丈夫だろって感じで飛び乗った。

 で、案の定へし折れたというわけだ。決してわざとではないのだが、もう少し慎重にいけばよかったと後悔してももう遅い。


ドガァァァン!!!


 大岩が落ちた時ほどの音ではないが、それでもグラーケンを警戒させるには十分だった。

 突如辺りに漂っているオーラが強くなり、それからは強い殺気と警戒心のようなものがひしひしと伝わってくる。

 それは五分間にもわたって続き、とうとう警戒モードを終了したグラーケンは、諦めたように先ほどの状態へと戻る。

 奴からすれば、寝ている間に耳元で羽音を立てる蚊を始末しようと眠気マックスの身体を気合いで叩き起こしたはいいものの、結局数分探しても蚊は見つからず、諦めて眠りについたみたいな感覚だろう。寝てはいないが。


(あ・・あっぶねぇぇぇぇぇぇ・・・!!)


 俺は何とか次の足場に飛び移り、その場でグラーケンの死角に隠れて気配をこれでもかと消して何とか事なきを得た。

 心臓もバクバク鳴っており、息を殺すのも精いっぱいで、今のは正直かなり危なかった。少しでも飛び移るのが遅ければ・・・あまり考えたくないな・・不幸中の幸いであったと思っておこう。

 蚊であれば高確率で数分後にまた懲りずに耳元で飛び回るが、俺は自分をそこまで馬鹿ではないと思っている。細い足場はなるべく避け、頑丈そうな柱にのみ静かに飛び移っていく。

 頭部と外套膜の隙間まではかなり距離があり、この先もかなり上らなければならない。


「・・・これは・・意外と神経使うかもな・・・」


 深く、そして静かに深呼吸を挟み、再び壁を登っていく。飛び跳ねて石の柱を渡っていく俺は、奴から見ればまさにノミだろうな。そんなことを考えながらも、中々いいペースで高度を上げていく。


「ふぅー・・・あと半分くらいか・・・?話し相手が欲しい所だな・・・隠密行動だけど・・・」


 思えば、かなり久しぶり、もしかすると、この世界に転移させられる前以来かもしれない一人行動。

 あまり交友関係を持たない人間だったので、基本的には家族といるとき以外は一人だったので、その時は特に何も思わなかったのだが、慣れとは非常に怖いものだ。今この瞬間にも、若干の不安と寂しさを抱いてしまっている。仲間というものは、これほどまでに精神的支柱となり得る存在だったとは。


「この世界に来てイベランマシーンを卒業して、人間的にかなりいい変わり方をしてる気がするな。」


 この異世界という環境のおかげで、「休日は何をしてますか?」と聞かれて、アニメ鑑賞とイベラン以外何も思い浮かばなかった一か月前よりも、肉体的にも精神的にもかなりレベルが上がっている。何百倍も厳しいが、それに見合った充実感も得ることが出来ている。


「・・・案外この世界も・・悪くないかもしれないな・・・だがグラーケン。テメーはダメだ。」


 この世界に不味いイカなど必要ないのだよ。残念だったな。

 そんなこんなで独り言をこっそり呟きながら、ひたすら似たような道なき道を往く。

 あのグラーケンにここまで気づかれていないのはある意味での奇跡だ。出来ればこのチャンスを無駄にはしたくない。行けるところまで行く。

 

「さて・・・どこまで情報を盗めるか・・けどその前に、とりあえずあそこまで登らないとな。」

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