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異世界武闘譚~英雄の雛の格闘冒険録~  作者: 瀧原リュウ
第三章 ビギニング・ジャーニー
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#88 死掴の洞窟烏賊その十八

「・・・とまぁ、こんなところですかね・・この眼鏡も、今となっては形見のようなものなんですよ。」

「なるほど・・じゃああの声が、そのユカリさんのものかもしれないと・・?」

「えぇ。そういうことです。だがもしそうでなくとも・・・奴は必ず今回で倒したい。そのチャンスが、ついにやって来たんです・・絶対に逃さない・・・!」


 キキョウの話を物凄く簡単に略すとこうだ。

 キキョウら一家は会話の中で少し聞いたアマテラスに元々住んでいて、そこで生活を豊かにするため魔法の普及を行いながら医者をしていた。しかし国の上層部がそれを気に入らず、一家もろとも始末しようとして・・・ってここだけ聞いたら割と滅茶苦茶だな・・・

 で、そっからなんやかんやでここに逃げてきて洞窟居住民(アンダーグラウンダー)となった三人だったが、突然グラーケンが襲来。キキョウとユカリ、そして長老を逃がすためにユカリは単身あのイカを食い止めていたが、最終的に肉体を触手に包まれてそのまま連れ去られてしまった。こんなところだろうか。

 

「・・・で、結局ムラメのあの腕輪は、一体何なんですか?話の中には出てきませんでしたけど・・・」


 正直、俺が一番知りたかったのはそこだ。あの鎧武者を呼び出すムラメ専用アイテム。ムラメは、元々それはアマテラスにあった物だと言っていた。話を聞いている間は、てっきりキキョウら紫一族とやらと何やら関係があると思っていたのだが。どうやら違ったらしい。


「実は・・・あれに関しては、私たちもよく分かっていないんです。数年前にこの洞窟で私が見つかったんですが、あの腕輪と一緒に手書きのメモも置かれていまして。」

「メモ?」

「はい。腕輪の概要や・・あの鎧武者・・闇丸を呼び出すための条件について細かく記された、いわば説明書のような物でした。誰がそこに置いたのかまでは、結局分かりませんでしたが・・・」


 そうなると、キキョウたちがここへ来る以前に、他にもアマテラスの人間が洞窟居住民(アンダーグラウンダー)となるために訪れた際に持ち込んだ物なのだろうか。だがしかし、それだとなぜムラメにしか扱えないのかという説明ができない。であれば、一体誰が・・・?


「謎も多いですが、闇丸は私としても頼もしい戦力です。戦っている様子を見ても、ムラメととても相性がいいように見えます。」

「まぁ、あれが敵として襲ってこないのは、正直ありがたいですね。」


 単純な力量だけなら俺の方が上だろうし、クルーシュスの方がインパクトもあった。だが、あの鎧武者はまだまだ未知数な部分が多い。敵に回すとなれば、負けるつもりは無いが、苦戦を強いられるのは間違いないだろう。

 それに加えてアリヤと戦っている時に見せたあのムラメとのコンビネーションも極めて厄介だ。

 それらを気合いで捻じ伏せていたアリヤも相当やばいが、あれだけは今の俺に捌けるのかどうかは分からない。『神の第六感』を発動させれば無問題だが、あくまでそれは最終手段。手合わせもグラーケンに邪魔されてほとんどできなかったし、ひと段落着いたらまた一緒に修業するのもいいかもしれない。

 

「けど、あんな話を聞かされたら、こっちもやる気出さないとですね・・・!」

「・・・タクさん、どちらへ?」


 俺は気合いを入れ直し、グラーケンに開けられた訓練場の穴の方角へと足を進める。


「偵察、行ってきます!」

「っえぇ!?いや、タクさん!?分かってますか!?あなたはまだ気配の消し方が完璧では・・・」

「キキョウさん、鉄は熱いうちに打て、ですよ。それじゃ!」

「あ!?ちょっと!?」


 七年たった今でも、もしそこにユカリさんが囚われているのであれば、一刻も早く解放してあげたい。その一心で俺は急遽偵察作戦を独断専行で開始した。


(なんとなく気配を消すイメージはできてる。陰キャの隠密スキル舐めんなよ・・・!)


 一種の深夜テンションのようなものなのだろう。本来なら確実にもっと訓練を行ってからの方が良いが、時間は有限。このエンゲージフィールドであまりにも長く時間を使ってしまうと、最終目的の魔神討伐に間に合わない可能性もある。

 この世界に転移してもうそろそろ一か月くらいだろうか。まだまだ一か月、などと言っていたら、一年などあっという間に過ぎてしまう。一瞬たりとも待ってはくれない。時間というのは、あまりにも残酷なものなのだ。




「・・・てなわけで、まぁ勢いよく飛び出したのは良い・・・けど・・・」


 グラーケンってどこにいるんだ?

 触手しか動かせないと思っていたが、以前訓練場に奴が現れたことから、どうやらこの洞窟内を移動できることが判明している。そして、案の定奴の通った場所は大きく開けており、もはや隠れる場所など近くには無かった。

 もうすでに『闘気之幻影(アーツ・ファントム)』を発動させ、出来る限りの隠密行動を取りながら、とりあえず崩された洞窟の奥へ奥へと進んでいく。

 三日ほど前だろうか、『アイザワ削岩拳』などという終わりまくってるネーミングの即興技で、俺はかなりの距離をジグザグながらも進んだ。直線距離がどうかは分からないが、それでも以前奴と対面した時のあの場所からはかなり離れているはずだ。


「やっぱり、あそこか・・・?俺らがあの場所に行くまで、触手しか動いてなかったみたいだし・・・」


 だが俺が今進んでいるのは、俺自身が掘り進めた道ではない。

 そこへ行くためには、掘って来た道をUターンするのがおそらく一番だっただろうが、なんせ思い立ったがなんとやらで飛び出したのだ。このまま戻れば高確率でキキョウからの説教が待っている気がするので、せめて一つでもグラーケンに関する情報を手土産として持って帰りたい。


「ま、あれだけの巨体、この先以外にいなかったら、流石に説明がつかんがな・・・いや・・魔法ばっかの世界だし・・ついちまうかな・・・?」


 そんなことを呑気に考えながら、俺はあまりにも幅が広すぎる道をどんどん進んでいく。




「・・・・・っ!?ついにか・・・」


 感じてしまった。あのオーラを。間違えようのない奴のそれを。

 まだほんの僅かだが、確かに感じ取った。穏やかな海、強き大地を連想させる二つのオーラが入り混じったこの感覚。

 

「もう何度も味わってんだ・・・もう冷や汗なんてかいてやらねぇよ。」


 もうこの威圧感にもかなり慣れた。というより、無理やり慣れさせた。

 もうすぐそこに迫っているであろうグラーケンの身体、そのうちの目玉からは変わらずに黄金の光を放っているのだろう。それでも相当離れているこの場所からでも、うっすらとそれが見える。

 幸い、まだこちらには気付いていないようだ。俺は集中力を上げ、自身の気配を極限まで消す。


「待ってろよイカ野郎・・お前の攻略方法・・・てめぇが知らない間にリークしてやるからな・・・!」


 貴様の天下もここまでだという明確な意思を持ち、とりあえず俺は奴の体が目視できるところまでゆっくり、だが着実に近づいて行く。

タクメインで書いているとなんというか・・・気が楽ですね!

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