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異世界武闘譚~英雄の雛の格闘冒険録~  作者: 瀧原リュウ
第三章 ビギニング・ジャーニー
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#81 死掴の洞窟烏賊その十一

「あの人の話じゃあ、戦闘能力はそこまで高くねぇそうだが?俺たちにゃあ妖術は効かねぇんだぜぇ?一体テメェに何が出来んだよ!?」

「あまり人様を舐めるんじゃないぞ、害虫以下の屑野郎ども。」

「・・ッ!?どいつもこいつもォオ!!!」


 男たちは再び激昂し今度はキキョウへと襲い掛かる。

 二人同時での猛攻撃。だが、怒りに身を任せたその殺意を込めた連撃はキキョウを捉えるには至らず、それぞれカウンターの拳を鳩尾に叩きこまれた。


「グオォ・・ッ・・・!」

「どうなってやがる・・・いや・・これも妖術か!!」

「私の『強制覚醒』は、身体能力の全てを引き上げる。もちろん、動体視力もだ。貴様らの単調な攻撃は、今の私には絶対に届かない。」


 普段のキキョウであれば、この時点でなすすべもなくやられていただろう。しかし、今の彼は違う。

 未知の副作用を度外視した『強制覚醒』の効果は、彼に一時的ではあるものの、凄まじい恩恵を与えている。

 ユカリの方も、いつもとはまるで別人かのようなキキョウの動きに驚愕する。

 運動神経が悪く、戦闘がてんでダメだった彼が、あそこまでの攻撃を躱し、弾き、そして反撃の一手を与えた。その背中には、とてつもない安心感を感じたのだ。


「クソッ・・妖術の類の効果は効かないんじゃなかったのかよ・・・!」

「・・・それなんだが、貴様らが使用しているのは・・・『抗魔の秘石』だな?」

「「!?」」


 何故分かった!?・・・そう言いたげな二人の表情を見たキキョウは、つくづく呆れながらも面倒くさそうに男たちに説明する。


「・・・漏れ出しているそのオーラを見れば誰でも分かるだろう。」

「・・・だからって、なんでテメェがこの石の事を・・・!?」

「舐めるなよ。私は貴様らとは違って日々学習を重ねているんだ。『抗魔の秘石』は確かに魔法を一時的に無力化する効果を持っている。だがそれは、『体外に放出された魔法、魔力』に限られる。私のこの魔法は、自分自身を強化する魔法。『体内に魔力がある』状態だ。つまり、無効化する条件を満たしていないんだよ。貴様らにそれを与えた奴は、どうやらそこまでは教えてくれなかったようだな。」


 キキョウはそう言いながら絶対零度の視線を二人に向ける。

 絶望に絶望を重ねた彼の中では、内側の奥底に眠っていた何かがゆっくりと目を覚まし始めたのだ。

 温厚で人柄がいい彼の姿は、今この場ではどこにも見当たらなかった。

 ユカリは無言で、ただ真剣に固唾を飲んで目の前の戦いを見つめている。

 今逃げ出そうと動けば、かえってキキョウの足手纏いになると考えたからだ。そしてキキョウの方もそれを理解し、敵を妻と娘に近づけまいと奮起する。


「妖術に頼ることしか能のないクソ野郎が・・・!」

「・・・ついさっき初めて聞いたばかりだが、それでも貴様らの声は本当に耳障りだ。本当に腐ってしまいそうだ。そして私にもおそらくそう長い時間は残されていない。一気にケリをつけさせてもらう。」

「やれるもんならやってみろォ!!!」

「すぅーーっ・・・・・『強制覚醒』、『多重付与(ハイ・ドープ)』!!!」


 突然その場の全員が、大地が揺れたような感覚に襲われる。いや、正しくは、そう感じただけなのだ。それほどまでの強烈な圧。

 対面している二人は凄まじいプレッシャーを直に受け、思わず半歩引き下がってしまう。

 そのオーラは一気に先ほどまでの何倍にも膨れ上がり、心なしか筋肉も全体的に少し膨張しているようだ。そしてそれが収縮。筋肉密度を確実に上げる。


(あれだけの力・・・絶対にとてつもない反動が来る・・・あなた・・・!)


 だがユカリは、何も言えず、ただそれを見守るほか出来なかった。

 重ねがけしたその魔法は、今もすでにキキョウの体を少しづつ蝕んでいるはずだ。

 キキョウが選んだのは短期決戦。この勝負を一気に決めに行くつもりだ・・・!


「ゴフッ・・・ハァァ・・ッ」

「なんだぁ・・急に血反吐吐きやがって・・・?」

「弱ってんのか・・?ッチ!さっきから訳分かんねぇんだよお前ぇ!!!」

(・・・流石に重ね掛けはまずかったか・・反動の前借り・・?いや、これはおそらく初期症状・・動けなくなるのも時間の問題か・・・これで決めて、この場所から離脱する・・・!)

 

 キキョウは冷静に深呼吸しながら、見上げるように男たちを更に鋭い眼光で睨みつける。

 彼はその場で理解した。この魔法は、言うなれば特攻専用。本来であれば先の人生を捨てて力を得る最終手段なのだと。

 だから彼はもう、妻と娘をここから、いや、()()()()()逃がすことしか考えなかった。

 目の前の男たちがこの国の上層部と繋がりがあるとすれば今自分が行っていることは立派な反逆行為。そして、自分がこの場へ来るまでも間、ユカリもムラメを守るため同じことをしていたのだろう。キキョウはそう考えた。

 であれば、ここを切り抜けたとして、この国に留まって待っているのは、罪人としての今後の人生である。

 今この場で大人しく捕まっても死。歯向かったとしてもその後に死。

 この先にアマテラスで待っているものは、最悪の絶望のみ。


「はぁぁぁぁぁあああああああ!!!!!」

「グホァァァ・・・!!!」

「グウァァァァ・・・!!」

「な・・・!凄い・・・!」


 キキョウは一瞬にして二人の意識を刈り取った。その光景には、男たちはもちろん。その場にいたユカリさえも感嘆の声を上げた。だが恐らく、もう猶予はあと少ししか残されていない。

 治療所に来たモノクルの男は言った。猶予は今夜日が昇るまでだと。奉行所に行かずにここにいる時間が長引けば、他の奴らもここへと集まってくるだろう。そうすれば、生存の可能性はどんどん低くなる。

 もはやキキョウは出頭することなど一ミリも考えていなかった。ただ逃げることだけを考え、その体を突き動かす。


「クッ・・ハァ・・ハァッ・・・!ユカリ!こっちに!!」

「え・・えぇ!!」


 敵の増援が来るまでに、あとどの程度の時間が残されているか分からない。

 キキョウは二人を連れ裏口から逃げだし、再び寒空の中夜の道を往く。




「・・・・・ふん・・逃げられたか・・・」

「うぐぅぅぅ・・・」

「あがっ・・・」


 モノクルの男はキキョウの自宅へと足を運んでいた。

 彼が出頭してもしなくても、妖術師に加担したといった名目で始末することを男は考えていたのだが、どうやらその策は上手くいかなかったようだ。


「・・・や、奴ら・・バケモンです・・・!」

「とても人間の力ではありません・・・!」

「ふん・・この役立たず共が。妖術士の人間を甘く見るなと、この私直々に注意してやったのだがな?」

「し・・しかし・・ッ!?グッ・・・ぐあああああああ!!!!!」

「お、おい!?」


 それは一瞬の光景だった。

 モノクルの男が巨漢に自身の手を翳すと、途端に巨漢は断末魔を上げ、あっけもなくその場にて絶命した。

 それを見た赤髪は、心の底からの恐怖で震え上がる。 


「ひぃぃっ・・・!!お、お許しを!お許しをおおおおおおお!!!!!」

「・・・やはり貴様らの魂は、吸い殻の溜まった灰皿のようだ。醜く、臭ったゴミのような・・・さて、逃がしてしまったものは仕方がないとして・・次の策を講じるとするか何としても理想を実現させるのだ。我らがアマテラスのために。」

 

 そうして二人の息の根を止めたモノクルの男は、キキョウたちを追うのをひとまず止め、こちらも夜の寒空の中、一人歩き始める。全ては、この国の未来のために。

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