#7 獣人殲滅戦線その一
ギルドの建物から出ると、街中が大騒ぎだった。逃げ出す初老の男。泣き喚く子供。それを宥める母親など様々。とにかく全員パニック状態だ。
急いで皆の逃走経路とは逆側に進み、街の外へと向かった。外へ出ると『アシュラ』のギルドメンバーのみならず、アリヤやレリルドの姿も見られた。そしてその直後、俺は昨日よりも悍ましい光景を拝む事となった。
「ガルルルルルルルルルルル・・・・・・・」
静かに、そして着実にこちらへと接近している。だが前とは少し様子が違う。昨日は威勢よく雄叫びを上げていたのだが、今回はやけに静かで、バラバラだった統率も今は軍隊のようだ。
「バッカス!状況を知らせろ!」
建物の外でギルドの人間の情報を聞いていた黒髪の眼鏡男にそうダリフが叫ぶと、バッカスという名の男が急いで近づいてきた。
「はっ!犬獣人数約三万四千二百。現在も増え続けています。続いて胡狼獣人。こちらは敵勢力の幹部レベルだと思われます。こちらが約五百。現在増殖は見られません。最後にボスの狼獣人。過去に見られたのは黒い中位級でしたが、今回のは灰色・・・狼獣人の最上位級です・・・!」
「やはりか・・・。ここまでの統率力、並のモンスターじゃあ不可能だ。おそらく自我もあるだろう。もしかしたら人語も話せるかも知れねぇ。」
総勢約四万。途方もない数だ。この街なんか簡単に滅ぼせる程の。だがダリフは全く動揺していない。それどころか余裕の笑みをも作っていた。
「レル!アリヤ!イザベリア!ちょっとこっちに来い!伝える事がある!」
こちらに近くにいた三人とも呼び寄せたダリフは、俺を含める四人に指示を出す。
「まずチビっ子三人!お前らは俺と臨時パーティを組む!四人で正面突破で犬どもを倒しながら突き進んで、一気に頭を叩く!ちなみにこれは明日行うはずだったテストも兼ねている。気ィ抜くんじゃねぇぞ!」
「「「はい!!」」」
「そしてイザベリアは全体の支援に回れ。お前を今回の後方支援部隊長に任命する。絶対に死人を出すなよ!」
「了解!」
こちら側の戦力は、ダリフ率いる俺含め四人の精鋭特攻部隊。続いて『アシュラ』のメンバー総勢約三百名とその傘下である二大ギルド『サカラ』と『カルラ』のメンバー総勢約千人。合計約千三百名の大規模レイドパーティ。その内約百名がイザベリアさんの率いた後方支援部隊で、レイドパーティ全てを思念魔法で指揮する司令官が先ほどのバッカスさんだ。
即席とは思えない程の速さで何グループかに分かれ、そのグループの一人(主に各ギルドの精鋭)がそれぞれリーダーとして陣形を整えた。そしてその先頭でダリフが雄叫びを上げるかの如く叫ぶ。
「全員に告げる!今回の目的は最上位級狼獣人の率いる犬畜生どもの完全殲滅だ!今までは街を襲ってこなかったからあまり関わってこなかったが、向こうから仕掛けてくんなら話は別だ!街の人間や建物にはなるべく、いや、絶対に被害を出すな!無論お前らもだ!絶対に一人も死ぬんじゃねぇぞ!」
「「「「「おう‼︎‼︎‼︎」」」」」
流石トップギルドのリーダー。普段の彼とは似ても似つかないカリスマ性。とてつもない統率力だ。それほどに実力的にも人間的にも信頼されているのだろう。などと感心している場合じゃない。俺たちもやるべき事を最大限にやらなければ。
「頑張ろうぜレル!アリヤ!」
「もちろんだよ!」「えぇ!やってやるわ!」
なんとも頼もしい限りだ。最初テストをするとかほざいたが、正直微塵も心配していなかった。この二人は強い。俺なんかと違って、これまで血の滲むような鍛錬をしてきたのだろうと容易に想像できる。昨日のアリヤ、訓練場でのレリルドを見れば一目瞭然だ。二人の覚悟に応えるためにも、ここで活躍しておきたい。これから魔神を相手にするんだ。狼如きに手こずっていては先が思いやられる。
「レル!アリヤ!そしてタク!お前らの実力を見せてくれ!行くぞ!」
「「「はい‼︎‼︎‼︎」」」
掛け声と共に、俺たちは草原の獣人軍隊の出どころであろう森へと全力疾走した。
「おりゃあ!!!」
「がるぉオオオオ!!!!!」
「『火焔武装』!!はあッ!!!!」
「ゴガァアアアア!!!!」
「せいッ!!!」
「グォオオオオオオオオ!!!!!!」
俺たちは走りながら犬獣人を倒しつつ、ボスの狼獣人のいる敵の中枢を目指していた。『身体能力強化』発動状態での戦闘にも少しずつ慣れてきた。俺の周りでも、アリヤが昨日のように炎を剣に纏って犬を焼き尽くし、レリルドはガトリングガンを生成して敵を蜂の巣にしていた。レルに関してはもう何でもありだな・・・。そして一際迫力があったのが、
「うおらァアアアアアアア!!!!!!!」
そう。ダリフである。軽く百キロ超えそうな大剣を木の枝のように振り回し、一振りで犬獣人数百匹を衝撃波だけで粉々に粉砕していた。あれどうなってんのマジで。
戦闘開始から一分。現在の討伐数は、俺が二百体くらい。アリヤが百五十。レルが千ほどだろうか。目視で見る限り、犬獣人の数が四分の一くらい減っているのでダリフがおそらくもう一万を超えている。意味わかんない。
レルはガトリングガン使ってたからまだ分かる(?)。だがあのおっさんは剣一本。割と本気であの人世界最強レベルなんじゃね?俺も割とチートスキルだと思ってたけど今戦ったら確実に負けるだろう。もちろん『自己再生』があるから死にはしないだろうが。っていうか・・・。
「数変わってなくね?」
「おかしいわね・・・結構倒したと思ったのだけれど…。」
「多分、無限に湧いているんだろうな。」
「無限?」
ダリフの予測にレリルドが疑問を投げかける。
「ちょっと説明しとくか。そのまま戦いながら聞いてくれ。まずあの犬どもは、本来アリンテルドには生息していない。」
「「「!?」」」
これには三人とも驚きを隠せなかった。昨日あの場所にいなかった狼獣人の存在をアリヤは知っていたのだ。だったら前からこの先の森に犬獣人は生息していたってことになる。
「でも小父様!私たちは生まれた時からこいつらを見ているんですよ!?」
「そうですよ師匠!それになぜそんなことを知っているんですか⁉︎」
「それはだな・・俺が異端者だったからだよ。」
「・・・!」
ダリフその言葉に一番動揺していたのは、他でもないレリルドだった。
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