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異世界武闘譚~英雄の雛の格闘冒険録~  作者: 瀧原リュウ
第三章 ビギニング・ジャーニー
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#74 死掴の洞窟烏賊その四

「動いてないときの気配はかなり感じづらくなってきたな。だが移動している間にバレバレだ!気配ももちろんだが、なるべく音を立てるな!」

「なるほど・・・アドバイスありがとうございます・・・」


 キキョウから総評を受け取ったところでようやく特訓が終了。何とか最後まで集中力を切らすことなく終えることができた。

 その後目隠しを外した瞬間、キキョウは突然普段のような優しい表情に戻る。


「お疲れ様ですタクさん。初日でかなり上達しましたね。流石です。」

「も・・元に戻った・・・!?」

「お父さんはかくれんぼの時もこんな感じなのです・・・」


 身につけてる物を外したり付けたりすると人格変わる系のキャラは珍しくないが、実際に見るのは流石に初めてである。

 しかしあそこまで急に豹変されるとこちらも多少困惑してしまった。


「キキョウさん、その目隠しには何かあるんですか?」


 レルがそう問うと、キキョウは包み隠さずその概要を説明する。


「いえ、目隠し自体には何も。あれは私のスキルでしてね。五感のいずれかを自ら封じることで、封じた感覚器官以外の性能を引き上げることができるんです。」

「なるほど・・・」


 それと性格が変わることに何の関係性があるのだろうか。

 ということは、耳を塞げば視力が上がったり、複数の感覚器官を封じれば、さらに他の物の性能を上げられたりもするのだろうか?何はともあれ、汎用性の高そうなスキルである。


「これでも、私も上位精霊の加護を受けておりましてね。スキルや魔法の腕は、自分でも中々のものだと自負しているのですが・・・それでも、ムラメにはかくれんぼ以外で勝てたことが無いんですよ・・ははは・・・」

「ムラメは逆に、かくれんぼでは隠れる側でも鬼側でも勝った事が無いのです!索敵や気配を消すことに関して、お父さんの右に出る者は洞窟居住民(アンダーグラウンダー)の中にはいないのです!」

「キキョウさん隠れる側でも強いんですか?」

「グラーケンに気づかれない気配の消し方をアドバイスしているんですよ?私が出来なければ本末転倒ですよ。」

「あ、そりゃそうか・・・」


 あそこまで的確な助言をくれるのだ。普通に考えれば、キキョウもできると思うのが当然と言えるのか。

 それにしても、キキョウの受けている加護は上位精霊のものなのか。ということは、ムラメが異常なだけて、キキョウも洞窟居住民(アンダーグラウンダー)の中では相当な実力者なのでは・・・?

 

「ひと段落したら、皆さんもお父さんに挑戦してみてほしいのです!」

「・・・えぇ。グラーケンを倒した後にみんなでやりましょうか。」

「そうだね。そのためにも、あいつは僕らで絶対に倒さなくちゃね!」

「あ、その事なんですが・・・」


 キキョウがレルの言葉に反応して名乗り出る。


「私もグラーケン討伐に加わりたいのですが、よろしいでしょうか?」

「えっ!?お父さんもですか!?」

「キキョウさん、良いんですか?」


 グラーケンと戦うのに、四人だけでは正直分が悪いと思っていたところもあったので、こちらとしては素直にありがたい申し出なのだが。


「私は正直、戦闘においては皆さんの足元にも及ばないでしょう。戦闘になった際の役割は主にサポートになると思いますが、絶対に足手纏いにはなりません・・・どうしても知りたいことがあるんです。どうか・・・」

「・・・キキョウさん。助かります。ぜひよろしくお願いします。」


 言ってしまえば、グラーケン討伐パーティには大人が誰一人としていなかったので、キキョウは戦力的にも、精神的にもとてつもなく心強い助っ人だ。


「キキョウさんも入ってくださるなら、とても心強いです!」

「何かあった時は、ムラメちゃんを必ず守ります!」

「皆さん・・改めまして、よろしくお願いします。」


 奴を倒す難易度は恐らくそこらの魔物なんかとは比べ物にならないのだろう。だが、信頼できる仲間。頼もしい助っ人。そして新たに手に入れた力。もうただ逃げることしかできなかった以前の俺達ではない。

 もてるすべてを百パーセント・・いや、それ以上出し切って戦ったのならば、きっと俺たちの刃は、奴の命にも届くはずだ。

 自身があるかと聞かれれば、正直あるとは言えない。こちとら歴戦の戦士でも、突出した才能を持っているわけでもない。そもそもこの世界で生まれ育ったわけでもないため、何度も言うが、戦いの経験においては素人以下。多少以前よりは動けるようにはなったものの、実際まだまだである。

 だが、何の因果か、この世界では俺は英雄の卵扱いだ。その本人にはそんな自覚全くないってのに・・・そんなに言われたら、期待に応えない方がおかしいではないか。やるよ。やってやりますよ。あのイカを何とかしてぶっ倒して、この魔境としか呼べないエンゲージフィールドを安全地帯に変えてやりますよ!


「・・・・・君は・・・まだそこに・・・」

「・・・・・」


 キキョウが小声で呟いたのを、俺は聞き逃さなかった。彼のあれこれに関しては、確かめておきたいことが残っている――――――




―――その日、皆が休息を取り眠っている頃。

 俺は一人、再び訓練場へと足を運んでいた。()()()()()()()()()()()

 理由は簡単。ここ以外にも一応探したが、そのどこにも彼がいなかったからだ。長老といい、まだ何か俺たちに隠していることがあると俺は見ている。

 もちろん、彼が裏切りを起こすとは到底思えない。初めてキキョウと対面した時も、ムラメの事を本当に心配していたようだったし、彼のアドバイスは俺達を確実に強くしてくれている。裏切る相手にそこまではしないだろう。何より、彼は本当に優しい人だ。あれは間違いなく根っからのものであり、あれがすべて演技なのだとしたら、彼は道化師として天才の域を超えている。

 案の定、彼はそこに立っていた。そこは、俺たちがグラーケンと対面した時に立っていた場所。キキョウは訓練場に無残に開いた穴を見上げながら、その場で呆然と立ち尽くしていた。


「・・・タクさん。良い子は寝る時間ですよ?」

「ははは・・・やっぱりバレましたか・・・」


 流石に気づかれることは覚悟していたが、よもやこんなにすぐとは思わなかった。


「・・・私は心の底から、グラーケンに煮えたぎるような怒りを覚えています・・・しかし、そんなやつの姿を、今は再び拝みたいと思ってしまっています。こんなにも憎んでいるというのに・・・」


 キキョウはこちらを振り向くことなく、拳をこれでもかと強く握りしめて俺にそう言った。


「やっぱり、昔何かあったんですね・・?長老との会話の時点で、何かあるとは思っていました。」

「いやはや・・あなたは感が鋭いのやらそうでないのやら・・・・・ムラメが生まれて間もない頃の話です。良かったら、聞いていただけませんか・・・?」


 キキョウはようやくこちらを振り返り、俺の返事を待たずして話を続ける・・・

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