#72 死掴の洞窟烏賊その二
「さて、そろそろ本題に戻ろう。はっきり言って、万全のグラーケンとやりあうのはあまりにも分が悪い・・・そこで、何か奴を弱体化させる方法があればいいんだけど・・・」
「なるほど、弱体化か。」
俺はもはや進行役と化しているレルの意見に同意する。
あの難攻不落とも言えそうな圧倒的存在感のイカは、そのまま戦ったら今の俺達では勝ち目は薄いだろう。奴を弱体化させることができたのならばこちらの圧倒的な劣勢状態にも少しは変化があるはずだ。
であれば、ここからは思考の時間だ。
「人間様の知恵の力舐めてると痛い目見るぜ・・・覚悟しろよグラーケン・・・!」
「けれど、あれの弱点・・・そんなの本当にあるのかしら?」
「そうですね・・・私もグラーケンに関する知識が豊富とは言えませんが・・・なんというか・・奴には完全無欠というイメージを持ってしまいます・・・」
「絶対何かあるはずだ・・・この世に完璧な生物なんていないんだからな・・・!」
「「・・・!」」
アリヤとキキョウにそう言うと、俺はすぐさま熟考モードに入る・・・
「・・・・・あんのかな・・・?」
「「・・・・・」」
五秒で頭がパンクした。
まずあの触手をどうにかしなければならない。あとは光属性の攻撃の可能性への対策、オーラの抵抗対策、攻撃手段、戦闘場所の想定・・・・・
中々思った以上に考えることが多すぎる。もとはと言えば、若いころとはいえ、ダリフが倒さずに退却したほどの相手とこれから一戦交えようとしているのだ。慎重になりすぎる方くらいでちょうどいいだろうし、戦闘のイメージ、想定もなるべくしておいた方が良いだろう。
「あの弾力のせいなのか、殴る蹴るみたいな物理攻撃は効かないし・・あの以上に太い触手を一刀両断できるのはダリフさんぐらいだろうし・・・って感じで、外側は防御力やばいしな・・・いっそのことあの巨体を内側から破壊できればなぁ・・・内側・・・・・そうだよ・・!内側だ!」
それは何事もないただの呟きであった。だがしかし、それは俺が天啓を得ることに直結したのだ。
「タクさん、内側とは・・・どういうことなのですか?」
「そのまんま、グラーケンの内側。つまり体内だ。いくらあの肉厚な鎧があろうと、流石に内臓破壊されればお陀仏だろうよ・・・!」
「うぅむ・・・思ったよりえげつない事を考えよるわ・・・」
そう、わざわざ正面突破する必要などなかったのだ。これはお互い正々堂々戦う試合ではない。単純な命の奪い合いだ。眼球を突こうが窒息させようが、急所を潰そうがなんでもアリ。格上に挑むというのに、美しい勝ち方などを考える余裕などあるはずがない。
互いの命をかけた戦い。生半可な戦い方をして負けたのならばその後悔は計り知れないだろう。であれば、正攻法など知ったことではない。最終的に勝てばよかろうなのだぁ。
「方針が決まったんなら、ここから先は早い・・・!」
「つまり・・・体内のどの部分を狙うのか・・という事かい?」
「正解。」
「では、奴の心臓を集中的に攻撃すればどうですか?」
「うーん・・・あまりよろしくないかと。」
「な・・・なぜです?」
キキョウのその提案を、俺は少し考えてから否定し、キキョウにその理由を説明する。
「・・・イカっていうのは、死んでもしばらくの間動くんです。でもこれはまだ生きているというわけではなくて、イカの筋肉が収縮したりとかで。んで、あのグラーケンの巨体でそれをやられると、おそらくあいつの動きが止まる頃には、洞窟内は大惨事でしょう。なんで、即死させるよりも、奴をできるだけ弱らせてから仕留めた方が良い。」
「なるほど・・・随分お詳しいようで・・・」
「まぁ、生食大国出身なんで。」
イカの活け造りなんかが動いているのをテレビでよく見るのなんて、流石に日本人位だろう。まぁ知らんけど。
道徳的にどうかは置いておいて、新鮮な刺身というものはやはり美味い。その点においても、あの不味すぎるイカには徹底的に八つ当た・・・危険生物は野放しにするわけにはいかないよね。うん。
「なんで、狙うべきは奴のエネルギー貯蔵庫。つまり・・・肝臓です。」
「肝臓?」
「はい。場所は恐らく、奴の頭部の上辺り。イカの内臓の中で最も大きいものです。」
そこにどれ程のエネルギーを蓄えているのかは分からないが、そこを破壊した際のダメージは確実に大きい。
だが、その肝臓もどの程度の大きさなのか見当がつかない。出来れば知っておきたいが、あれの偵察を行うのはあまりにもリスクが高いため、そこは本番で対応するしかないか・・・
「いや、待てよ・・・」
俺はある一つの手段を思いついた。先ほど手に入れた『魔晶闘波【闇】』を用いれば可能なのでは?
獲得したばかりなので、まだこの能力の真髄といったようなものは全然分からないが、この力があれば、気配を完全に消すことも可能かもしれない。
「アリヤ、レル、ムラメ。さっき獲得したストーン・アーツの訓練がしたい。そんなに長い時間ではないから、少し付き合ってくれないか?」
「分かったよ。」
「さて、今度は何をするのかしらね。」
「ではその間にぜひ手合わせの続きを・・・!」
俺の頼みに、三人は快く了承してくれた。一人で試行錯誤するのもいいが、こういったことは誰かとやった方が効率もいいし、モチベーションも上がる。気配の消し方をすぐにマスターして、あいつの情報を引き出してやろう。
「じゃがタクよ・・・もし準備が整わずしてグラーケンが再び現れた場合・・・お前さんはどうするつもりなんじゃ?」
「ぶっつけ本番。気合いで何とかします。」
「即答でそれか・・・一周回って頼もしいわい・・・」
と言っても、それ以外に方法はないだろう。この洞窟居住民の居住エリアは最終防衛ライン。全力で迎え撃つ他ないのだ。
「わしも体は動かんが・・魔法であれば奴に一矢報いることも可能よ・・・こちらもグラーケンの対策に関しては力を入れておく。お前さんらも万全の状態で挑めるよう整えぃ。」
「任せてください長老。こちとら死ぬつもりもなければ、負けるつもりもないんでね!」
「私も力になれることがあれば、何でもお手伝いいたします。」
「よーし、細かな作戦とかはまだだが、方針は決定ってことで!じゃあ、修業再開だ!!」
「「「おぉーーっ!!」」」
そうして俺たちはすぐさま訓練場へと戻る。新しいスキルをフル活用して、グラーケンの多すぎる謎を少しでも解き明かすのだ・・・!