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異世界武闘譚~英雄の雛の格闘冒険録~  作者: 瀧原リュウ
第三章 ビギニング・ジャーニー
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#70 二つ目の魔晶闘波

フゥォン。


「・・・ふふふ・・やったぜ・・・!」

「や・・・やっと終わったのですか・・・?」

「タク・・・あなたはもうちょっと自分を大切にしなさい・・・」

「ついに魔石運びから解放されるよ・・・」



 アリヤを押し切り魔石を噛み砕き続け約十二時間。ついに俺の目の前の『進化之石板(アドバン・スレート)』の表示に変化が起こる。

 それは『魔晶闘波(ストーン・アーツ)【雷】』の時と同じものであり、とうとう待ちわびた瞬間が訪れたのだ。


 『冥闇耐性』から『冥闇無効』へと進化可能です。

 スキルポイントを 1000 使用し、該当スキルを進化させますか? YES/NO


 『冥闇無効』―――闇属性の魔法を無効化する。呪術耐性【大】。


 その属性の魔法を無力化するというのは雷の時と同じだが、どうやら呪いの類は完全に無効化というわけにはいかないようで、高い耐性がおまけでついてくるものの、完全に聞かないというわけではなさそうで、おそらく、今は亡きカロナールが所属していた呪属性魔法士団『カースウォーリアーズ』なる組織の中でも上位の連中なんかの攻撃は、おそらく防げない。そんな気がする。

 この世界でも、己の慢心が命取りになるということは変わらないらしく、調子に乗っていると痛い目を見るのはこちらだというのはよく分かっている。というか、ここまでの一連の流れの中で大いに反省した。今度から説明文はちゃんと読むようにしよう・・・


「んで・・・YESを押せば・・・・・来た!」


 自身のスキルポイントが既定の数値分消費され、しばらくすると『進化之石板(アドバン・スレート)』の新たな表示が現れる。


 特定の条件をクリアしていたので、分岐進化先を『冥闇無効』から『魔晶闘波(ストーン・アーツ)【闇】』へと変更します。


「・・・ひとまず、大成功だな・・・!」

「凄いですね・・・ムラメが勝てないのも納得だ・・・」

「タクさんとはまだ戦えていませんから!近いうちに戦いたいのです!」


 『魔晶闘波(ストーン・アーツ)【闇】』

 ・闇属性の魔法を無効化する。呪術耐性【大】

 ・隠密効果【大】

 ・肉体を流れる魔力を失い無属性となった魔石のエネルギーの残滓を永久に増幅させ、闘気へと変換する。


 どうやら、魔石のエネルギーが無属性なのは雷と変わらないようで、結局グラーケン対策は出来ずじまいだが、その代わりに新しいスキルが手に入ったので、根本的な問題は解決していないものの、まぁとりあえずは良いだろう。


「ていうことは、タクにはもう雷属性と闇属性・・この二つの属性魔法は通用しないってことか・・・」

「しかも、魔石さえあればどんどん獲得できちゃうんでしょ・・・?本当に規格外というかなんというか・・・」

「・・・ハッ!?じゃあ、ムラメの攻撃はもう効かないのですか!?酷いですタクさん!!ムラメが挑戦する意味が無くなっちゃったじゃないですか!!!」


 レルとアリヤは驚き、ムラメは俺と対等に戦えないということに駄々をこねるように怒っている。キキョウがそれを制しているが、ムラメはしばらく暴れたままであった。


「まずはどんなもんか試してみるか・・・ふんっ!!」


 俺は『身体強化』五十パーセントで内に秘めた闘気を開放する。

 その闘気量、質は雷だけの時よりも上であり、全体的にレベルアップしている。

 だが・・・・・これだけなのだろうか?

 確かに『身体強化』の効果は上昇したが、雷岩魔の洞窟の時よりも長い時間魔石を食い続け、苦しみながらようやく手に入れたスキルなのだ。この程度で終わるのは俺が許さない。


「うーん・・・ふうぅん!!!」


 俺は『闘気波動砲(アーツ・キャノン)』と同様の動作で右拳に体内の闘気を集約させんと試みたが、雷属性の魔石によるエネルギーと、闇属性のそれには感じ方に少し違いがあり、思ったようには上手くいかない。

 前回は戦いの最中で、言い方を考えないのであれば、本当になんとなくで出来てしまったが故に、故意にそれを行おうとすると、これが中々に困難である。

 

「タクさん・・・どうだい?」

「ぬぬぅ・・・!」


 せっかく皆がその場で悶えながら魔石喰らい(あくじき)を続けていた俺のために、半日も周辺の魔石を俺の手が届く場所までかき集めて持ってきてくれたのだ。


「・・これで期待に応えないなんて・・・嘘だろ俺・・・!!!」


 可能、不可能など関係ない。無理矢理にでも成功させるのだ。俺の、そして俺以上の皆の苦労を水の泡にはさせたりしない。

 一部分に集めるのは難しい。ならば、もういっそのこと全身を使って闘気を開放する。


「フゥゥゥッ・・・!!」


 魔石を喰らった際に俺に纏わりついたオーラのように、深い紫色のオーラが俺をじわじわと包み込んでゆく。


「なんだ・・?タクの姿が・・・揺らめいて見える・・・!」

「何なのあれ・・・?輪郭がはっきりと捉えられない・・・?」

「なんという成長スピードの速さ・・いや・・早すぎる・・・!?」


 俺はやってみせる。グラーケンを倒して、洞窟居住民(アンダーグラウンダー)の人達に迫るであろう危険を排除し、俺達もルクシアへと向かう。

 俺たちは心中するためにここへ来たのではない。魔神を倒すための旅路の始まりの地が、偶然にもこのエンゲージフィールドであっただけだ。

 そこで思わぬ出来事、思わぬ出会いが起こっただけの事。全ては偶然の積み重ねなのだ。

 偶然とは、意識外の必然がいくつも重なって起きる事象だ。自分が予測していないだけで、因果は確かに存在しているはず。

 ならば、その必然をも書き換えて、起こりうる偶然すら必然に変えてやろうじゃないか。


「・・・・・オッケー・・・能力理解(インプット)完了だ・・・!」


 うねる深紫のオーラは俺の体外を巡る。そのオーラは俺の輪郭を捉えることを困難とさせ、気配すらも消し去り、相手を撹乱する。


「ふふふ・・・どうかねレリルド君?」

「!?うわぁっ!?・・・え・・タク!?いやでも・・・あそこに・・・あれ!?」


 俺はレルの背後に音も気配も無く歩み寄り、肩をポンポンと叩く。四人は確かに()()()俺の事を見ていた。だが、そうだったとしても俺が後ろを取っていることに気付かなかったのだ。

 正直、俺も初見でここまで上手くいくとは思わなかったが。手応えは十分。これなら戦闘に組み込んでも問題はないだろう。


「新技、『闘気之幻影(アーツ・ファントム)』とでも言おうか・・・とにかく、完成だ・・・!!」

「タクさん凄いのです・・・!ムラメも負けていられませんね・・・!」


 それを見たムラメは俺に刺激を受けたようで、対抗心をめらめらと燃やしている様子だ。だが、彼女の表情はそれとは裏腹に、目を輝かせ屈託のない笑顔を見せる。


「ま、結局グラーケンへの攻撃の決め手にはならないだろうから、俺は二人のサポートになるかな・・・」

「サポート役にしては常軌を逸しすぎてるって感じるのは私だけかしら?」

「でもすごく心強いね!()()だけでも何とかなる気がしてきたよ・・・もちろん、油断してたら足元をすくわれるだろうけどね。」

「ちょっとぉ!?一人忘れてるんじゃないですか!?」

「こらムラメっ・・・!」


 俺達三人は、どうしたものかとムラメの方を振り返る。

 実のところ、幼子であるムラメを死地のような場所には連れていくつもりは全くなかった。実力どうこうではなく、俺たちがこれから向かうのがあまりにも危険な場所だからである。

 俺はムラメに歩み寄り、そこでしゃがんでムラメと目線の高さを合わせる。


「ムラメ、ちょっと酷いことを言うが・・・こっからは修業とは別だ。普通に死ぬ可能性だってある。戦いが激化したら、お前を守りながら戦うのは不可能だし、何より・・・また動けなくなったらそれこそ犬死だ。」

「ッ・・!・・・お願いしますっ・・・!同じようなミスは絶対にしません!必ず皆様のお役に立ちます!それに・・・ムラメはどうしても知りたいのです・・・あの声の正体を・・・・・私自身で・・・!!」


 ムラメの必死の懇願。その目には一切の迷いすら感じられない。幼いながらも、とても強い意思を感じた。


「・・・・・レル、アリヤ。」

「うん。」「えぇ。」


  二人はもう分かっているようだ。俺はニヤリと笑みを浮かべながら二人を見る。


「・・・()()で勝つぞ!!!」

「「おぉーっ!!」」

「み・・・皆さん・・・ありがとうございます・・・!」


 やるからには完全勝利、俺達四人、犠牲ゼロであの化け物、グラーケンを倒してやろうではないか!

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