#66 最中、現れるのは
PV3500、ユニーク1600。
一度でも見ていただいた皆様に圧倒的感謝を。
白熱の第二試合も終わり、いよいよ俺の番・・・の前に、ちょっと待ってくださいよムラメさん。
「何?・・・あれ?」
ムラメに対しそう質問しながら俺が指をさす方向には、ムラメが召喚した顔を隠した鎧武者。闇丸と呼ばれていたやつが仁王立ちで堂々とそこにいる。
サイズはともかくとして、あれは間違いなく日本の鎧だ。なぜこの世界でそれが存在するのかももちろん不思議でならないが、問題はなぜムラメがそれを召喚し、己の駒と出来ているのか。
「あれは闇丸です!」
「名前は分かってんだよ!」
思わずツッコむ俺の後に、ムラメは出会った時からずっと手首に着けている腕輪をこちらへと見せてくる。金属光沢のある黒い腕輪に紫色の小さな宝玉?のようなものが埋め込まれている。
「えーと・・闇丸は普段はこの腕輪の中で眠っているんですが、『召喚詠唱』することで、ムラメにだけは力を貸してくれるんです!」
「だけ?他の人は使えないのか?」
「はい・・どうしてなのかは分からないのですが、ムラメ以外には拒絶反応が出て、全身の筋肉が硬直するような感じになるようなのです・・・使用条件の中に、「詠唱を行う」ことと、「使用者が闇属性に特化した者である」ことの二つがあることは分かっているのですが・・・」
ムラメ専用の、腕輪を用いた召喚魔法『暗影武者:闇丸』。その実力は、明らかに下手な魔物よりも遥かに上だろう。
「その腕輪はどこで?」
まさか、レルの本みたいに俺の世界から流れてきたとか?ありえなくもない。だがそれは、鎧だけならばの話だ。
腕輪に動く鎧を入れて持ち運び、いつでも詠唱して呼び出せるなんて代物など、俺の世界には絶対にない。なんだそのオカルト集団が腰を抜かしながら泣いて歓喜しそうなアイテム。
となれば確実にこの世界で作られた。またはこの世界を創った神が気まぐれで用意した代物。そのどちらかになるのだろうか?
「この腕輪はもともと、鎖国国家のアマテラスという国にあったようです。」
「アマテラス?」
「セラム共和国の隣に位置する国よ。他国との交易とか外交とかを一切行っていなくて、情報もあまり出回らないから、いろいろ謎の多い国なのよね。」
アマテラスって言うとたしか、日本神話の神様だったか。それよりも今のご時世に鎖国とは・・・とはいってもここは異世界。自分の世界の常識など通用するはずもない。
だが、ムラメの腕輪に宿る闇丸の装備、そしてその国名。間違いなく何かしら日本に関係のあるなにかがあるはずだ。
「ふむ。一度行ってみたいものだな。」
「鎖国国家って言ってるでしょ?どうやって入るつもりよ?」
「黒い船で乗り込んでラムネ一気飲みさせりゃあ余裕だ。」
「え・・何それ・・・?」
いや・・その前にイイ声の練習でもしておいた方がいいのでは・・・おっと話がずれた。
「でも、そのアマテラスから、どうやってこんな洞窟の中まで・・・?」
交易もしていないのであれば、その国の物など外に出回るわけがない。ましてやこんな価値のありそうな腕輪など。
作ったのはよかったが、使える者がその場にいなかったとか?いや、開発者が自分が使えない物を作るとは思えない。情報が少ない分、ムラメの腕輪の謎は深まる一方である。
「まぁとりあえずはいいか。でムラメ。一応聞くけど、第三試合・・俺ともやんのか?」
「はい!是非是非お願いします!」
もう完全に空気にされたものだと思っていたが、一応三人全員とやるというのは変わっていないようだ。
「ムラメちゃんは戦うのが大好きなのね。」
「はい!修業で強くなった実感を得られた時とか、新しい魔法の発動が上手にできた時の感覚・・・それらを感じることができるあの瞬間が好きなんです。」
「あぁ・・!僕も分かるよその気持ち!なんというか・・達成感って言ったらいいのかな・・・!」
「そう!それですレルさん!」
この戦闘狂どもめ。ていうか、もうすっかりムラメにあだ名呼びが浸透してしまっている。
ほんの少し前までレリルドさんって呼んでたはずなんだが、まぁそれだけ打ち解けられたということか。
「じゃあさっきよりも長めに休憩取って、そっから始めるか。」
「えぇ!?ムラメは今からでもいけますっ!」
「いや、お前ただでさえ連戦してんだからな?今はアドレナリン出てるだろうから平気だろうけど、結構体は疲労が溜まってると思うぞ?なんせ百キロ走ってその後だしな。それに、どっかの誰かが言ってたぞ、休むのも修業だって。」
「修業・・・!分かりました!ムラメ、頑張って休みます!」
「ははは・・頑張る必要あんのか・・?」
あまりにもまっすぐな目で、「頑張って休みます!」なんて言われたら、流石にちょっと反応に困ってしまう。どうかこのまま純粋に育ってほしいものだとなぜか考えてしまうが、その辺りはムラメの父親に託しておこう。
そして一時間ほど休憩を挟み、その時はとうとう訪れる。
「・・・よし・・タクさん・・よろしくお願いします!!!」
「おう!!」
気合十分なムラメの言葉に、こちらも負けじと構えながら返事をする。
ムラメの隣にはすでに闇丸が待機しており、初っ端からフルスロットルで来るつもりなのは明らかだ。ならばこちらもそれに答えねばなるまい。
「じゃあ行くよ・・タク対ムラメちゃん・・・始め!!!」
「ふぅぅっ・・・うらあぁぁぁぁぁ!!!!!」
「な・・す、凄い・・・なんという魔力・・いや、闘気!?ムラメ、こんな人初めてです・・・!!」
レルの合図があった直後、俺は『身体強化』百パーセントで発動する。
もちろんまだこの状態では戦えないが、あまりにも待ち時間が長かったので俺の体は完全に固まってしまっている。眠っている体を呼び覚ますという点でもぴったりだ。
そしてムラメは、思ったよりも驚いている様子だ。まぁ魔法使えない時点でこの世界ではトップレベルの珍しさだし、言われれば当然と言えば当然なのだろうか?
だが、そんなことは正直どうでもいい。これから俺たちはムラメに戦い方を教えるのだ(まぁ実際に教えるのは主にレルとアリヤだろうが・・・)。ちょっとくらい良いところ見せておかないと、ムラメの性格上絶対ないと思うが、舐められる可能性もある。十歳離れている少女に割と全力で挑むのは心底複雑な気持ちだが、大丈夫、ここは異世界。真剣勝負に年齢など全く関係ない!
「おっしゃ、いくぞ・・!ハァァァッ!!!」
ドガァァァァン!!!・・・ガラガラガラガラ・・・・・
「んなっ・・!?」
その轟音を放ったのは俺ではなく、誰もいない筈の訓練場の遠い壁の上部。
外側からの衝撃により壁が破壊され、空間を形成していた岩は次々に崩れていく。
幸い訓練場自体が崩壊することは無く無事だったが、突如洞窟に繋がる大穴が開いてしまっていた。
「み・・皆さん・・・あれって・・・まさか・・・」
「一体何なの・・・・・え!?」
「なんでアイツが・・・ここに・・・!?」
「おいおい・・こんなとこまで乗り込んでくんなよ・・・・・激マズイカ野郎・・・!!!」
穴の向こうに見えるのは、少し前に見た美しい黄金の光。その光源が、ただの光だけならばよかったのだが、先にも感じたオーラは健在・・いや、前よりも増している。
そこで見えるのは、魔石の壁に阻まれ、ここへは来れない筈のエンゲージフィールド最強の生物、グラーケンの姿だった。
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