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異世界武闘譚~英雄の雛の格闘冒険録~  作者: 瀧原リュウ
第三章 ビギニング・ジャーニー
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#65 闇丸と一緒なのです!

「・・・・・・・」

「っと・・・!危ないっ・・・!」


 俺は遠くから見ているだけなのだが、あの闇丸とやらが出てきてからずっと思っていることがある。本来言わなくてもいいのだが・・・


「なんだあのバケモン・・・」


 まず、奴のあの巨体からは考えられない俊敏性。ここに落ちてくる前に戦っていたサイクロプスなんかより・・いやあれと比べるのはちょっと違うか。

 体感で言えば、俺の『身体能力強化』五十パーセントほどであろうか?少なくとも、常人があれを捌くのは困難を極めるだろう。

 そしてあの刀による薙ぎ。正直、格が違うと言ってもいい。その一太刀の重みは今戦っていない俺達にもひしひしと伝わってくる。

 地上よりもかなり少ないであろう空気さえも容易に切り裂き、その風切り音は一般人が刀を振るった際に出るそれとは訳が違う。

 

「・・・・・・・」


ガギィィィィィン!!!!!


「グッ・・・!!」


 黒の刀身が、まっすぐにアリヤへと振り落とされる。

 アリヤはそれを交差させた二本の剣で受け止めるも、彼女の両腕は悲鳴を上げる。それでも闇丸の刀は留まることを知らず、自重も合わせ、闇丸自身もそのガードを崩さんと力を籠める。


「くっ・・・ふぅぅぅんッ・・!!!」


 アリヤは刀を受けながらも左へと再度ステップを取り、なんとかその凶刃を食らうことなく回避した。しかし、闇丸の斬撃はそこでは終わらない。


「・・・・・・・」

「ッ!?」


 下へ向かっていたはずの刃が、なぜか今闇丸から見て右斜め前にいるアリヤに向かっている。

 闇丸は人間には反応しきれない程の速度で刀を返し、あたかも刃がアリヤを追従しているかのように見えたのだ。


「なんのっ・・・!」


 だがそこで集中モードのアリヤは超反応を見せる。

 アリヤは動きながらも高く飛び上がり、体のしなやかさを利用して剣を二本持った状態で後方宙返りを見せる。

 闇丸の刀はアリヤを捉えるには至らず、不可避の一太刀は空を斬ることとなった。

 かなりすれすれで斬撃を回避したアリヤは、間髪入れずに闇丸に向かって二本の炎剣による連撃を放つ。

 先ほどの攻撃が大振りだったために懐が開いていた闇丸は、それを直で食らうこととなるが・・・


「っ・・・!?か・・硬い・・ッ!!」


 今の間にも相当な数の斬撃を放ったアリヤだったが、それなのにも関わらず闇丸の胸部、腹部には少し傷が付いた程度だった。


「あの鎧・・なんて硬さだ・・・!」

「なんか無双系のゲームに出てくる奴みてぇだな・・・」


 (おれたち)から見て、攻撃力が高く、防御力も高く、素早さも高い。シンプルに強いオールラウンダーのような印象を受ける。


「さてと・・・ムラメもずっとじっとしてるわけではありませんよ!」


 強気な笑顔でムラメは闇丸と戦闘中のアリヤに告げる。


「『闇影製作(エンシャドウ)』、二又槍!」


 そうして三度ムラメの手中に闇が現れ、形状を変化させる。次に現れたのは、先端が分かれている二又の槍。黒く禍々しいそれは、例の有名なロから始まるあの槍を連想させるが、それとはまた少し形状が違う。


「さぁ、行きますよ!アリヤさん!!」

「ふふ・・・ちょおっとキツいかしら・・・?っと!!!」


 ムラメに意識を持っていくと、目の前の闇丸が再び刀を振り下ろす。

 そうして今度は鍔迫り合いに持ち込まれ、闇丸は黒刀で、アリヤは火力を更にました二本の炎剣でお互いに向かい合う。


「良いですよ闇丸!そのまま抑えておいてください!!」よ


 そういうムラメは、鍔迫り合いをしているアリヤの後方へと回りこみ、手に持つ槍をアリヤへと突き出す。


(もちろん直前に止めますが・・・これで勝負ありで・・・・・え?)


 その直後、ムラメは一瞬思考が止まる。目の前の状況が理解できなかったのだ。

 自分が槍をアリヤに向けた瞬間。アリヤの体が()()()()()

 そこで闇丸と鍔迫り合いをしていたはずの彼女が揺れる炎のように見え、そしてどこかへと消えた。


「ッ・・!?一体どこへ!?」

「ハアッ・・・はあぁぁっ・・・!」

「い、いつの間に・・・?」


 アリヤがいた場所は、ムラメと闇丸から十メートルほど離れた場所。その顔はひどく疲れきっているが、目の奥の勝負の炎は消えることなく燃え盛っている。


「・・・レル・・見えたか?」

「・・・・・いや、全く見えなかった。そもそも、アリヤは鍔迫り合いの体制から全く動きもしなかった・・・!」

「・・てことは、アリヤがやったのは・・・『瞬間移動』・・ってことになるのか?」

「そうなるね・・・でもアリヤのあんな技、僕も初めて見たよ・・・!」


 そんなレルすら知らないアリヤの新技は、この状況に見事に嵌まり、挟み撃ちによる敗北(ゲームセット)を免れたのだ。

 

「さぁ・・勝負はここからよ・・・!」

「流石は眷属様です・・・でも、ムラメだって負けないのです!」

「・・・なんていうか・・僕のさっきの試合は必要だったのかな・・・」

「いや・・あの・・・元気出せよ。」


 レルとムラメの第一試合が文字通り一瞬で終わったのにも関わらず、今行っている第二試合はかなりの時間続いている。さらに言えばムラメの実力・・・というよりは、あの闇丸のインパクトが強すぎて、正直先ほどの戦いが霞んで見えてくる。

 二人はそんなことを気にすることなく、仕切り直しと言わんばかりに構え直す。あの、そろそろ隣のレルさんが遠いところを見つめ始めたのですが・・・・・


「やああぁぁぁっ!!」

「はあぁぁっ!!!」

「・・・・・・・」


 終始無言を貫いている鎧武者の持つ刀と、可憐で幼い少女が持つえげつない二又の槍による正面からの同時攻撃がアリヤを襲う。

 

「うおおっ!!外れなさいリミッター!!!」


 だがアリヤはその猛攻をなんと気合いのみで捌く。一人でも複数の武器による攻撃を捌くことができる二刀流ならではの持ち味を存分に生かし、槍の突きを弾き、刀の斬撃を受け流す。

 アリヤの目はこれでもかというほど開いており、並外れた動体視力を用いて、勘ではなく確実に武器の軌道を読み取り攻撃に対応する。


「これは・・・とんでもないですね・・・!」


 このアリヤの対応力に、ムラメは心底驚愕する。

 自身はまだ幼いながらも、洞窟居住民(アンダーグラウンダー)の中でも群を抜いた実力を有していることを自負しており、タクたちが英雄の雛とその眷属であることを知って、自分の力はこの人たちに通用するのだろうかとワクワクと疑問が入り混じったような感情が芽生え、手合わせを願ったのだ。

 だがムラメにとって、現実はそれほど甘くはなかった。

 レリルドやアリヤとの近接戦闘で、己の力のみでは正直百回戦っても一回も勝てないと思ってしまった。ムラメはそういった体質なのか、闇の精霊の加護による恩恵を最大限受けることができ、加護を受けていない者には正直負けないと思ってしまっていた。だがそれは、自らの傲慢であったことをムラメは思い知らされる。

 そして、最終手段とも呼べる自身の相棒とも呼べる闇丸さえも呼び出してまで戦っているというのに、勝利までのあと一歩が届かない。


「やあああああっ!!!」

「ムラメちゃん・・決めるわよ!!『危機離脱の陽炎(フレイムエスケープ)』!!」


 すると再びアリヤの姿が揺らめき、ムラメと闇丸の視界から消える。

 そして直後、後ろからムラメの首の真横を通過するのは、他でもないアリヤの剣だった。


「勝負あったな・・・そこまで!!」


 俺は試合終了の宣言ををすぐさま行う。試合が白熱しすぎたため、急いで言っておかないと何かやばいことになりかねない。


「・・・全部出し尽くしても・・・勝てなかった・・・」

「ハァッ・・ハァッ・・ハァッ・・・」


 ムラメは落ち込んだ様子で、アリヤの方は息が絶え絶えである。戦いが終わったのを察したのか、闇丸も攻撃をやめ、その場で立ち尽くす。


「・・・・・アリヤさん!!!」

「ハァッ・・ふぅ・・・どうしたのムラメちゃん?」

「ムラメは・・・ムラメはもっと強くなって、レルさんにも、アリヤさんにもきっと勝って見せます!!・・・だから・・その・・・またいつか、ムラメと勝負してください!!!」


 ムラメは悔し涙を浮かべながらも、真剣な表情でアリヤを見つめながらそう言った。


「・・・えぇ。いつでも受けて立つわ!」

「次も負けないからね!」

「・・・・・あの・・・俺は?」


 こうして第二試合はアリヤが勝利をおさめ終了し、ムラメは新たな目標を掲げるのだった。

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