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異世界武闘譚~英雄の雛の格闘冒険録~  作者: 瀧原リュウ
第三章 ビギニング・ジャーニー
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#63 お手合わせなのです!

「「ハアッ・・ハアッ・・・」

「ほんとスキルあって良かった・・・」


 予想できなかった突然のペースアップに翻弄され、二人はこの数十分でもかなり疲れたようだ。いやまぁ、この場合疲れるのが普通なのだが。


「にしてもムラメの体力は一体どうなってんだ・・?」

「精霊様のご加護は凄いのです!えっへん!」

「なぜお前が威張る・・・」


 レルとアリヤが息を荒げているのにも関わらず、ムラメは何事もなかったかのようにケロッとしている。

 おそらく洞窟内限定なのだろうが、それにしても精霊の加護というのは凄まじいものだ。なんせ、普通七歳の子が百キロをこのペースで走れるだろうか?答えはもちろん否である。

 加護無しのムラメの身体能力がどれ程の物なのかは分からなかったので本人に聞いてみると、どうやら洞窟にいる間、というよりは日光が当たらない場所であればよほどその場所が明るくない限りは永続的に加護の効果は発動するそうで、その件に関しては分からずじまいだった。


「それでムラメちゃん・・次は何をするの・・・?」

「本当なら別の事をするのですが、今日は長老も見に来ていないようですし、ちょっとだけお手合わせしていただけませんか!?」

「手合わせっていうのは・・・僕たちとかい?」

「はい!できれば三人全員と戦ってみたいのです!あ、もちろん一人ずつでお願いしたいです。」


 ムラメは戦うのがよっぽど好きなのか、目を輝かせてこちらに向かって懇願してくる。

 やはりこの世界、戦闘狂みたいなのしかいないのだろうか?だがムラメ、そして二人もそうだが、おそらくは自分の技をぶつけ合って競うのが楽しいのだろう。イメージ的には、俺たちがオンラインゲームで対戦するようなものだ。


「じゃあ誰から行く?」

「僕から行くよ。」


 ムラメとの手合わせに真っ先に名乗りを上げたのはレルだった。三人ともやるようなので順番などは正直どうでもいいのだが、何事もやる気があるのはいい事だ。といった感じで、俺とアリヤはレルにトップバッターを譲った。

 この訓練場では、ドッチボールのフィールドを巨大化させたような平らで開けた場所があり、手合わせはそこで行うらしい。


「英雄の眷属様!胸をお借りします!」

「うん!行くよ!」


 そこから両者集中し、お互いに構える。だが、二人とも得物一つ持っていない。レルの場合は分かるが、ムラメはどのように戦うのか。

 その場の勢いで審判役を執り行う俺は、二人から少し離れて叫ぶ。


「じゃあこれより!ムラメ対レルの対局を行う!いいかー!これはあくまで手合わせだからな!お互い怪我させんなよ!じゃあ・・・始め!!」

「ふんっ!!」

「むぅ!」


 先に動いたのはレル。全力の踏み込みでムラメへと迫る。向かっていく最中に作り出すのは鈍色(にびいろ)に輝く短剣。

 あれは俺も初めて見る。レルはそれを逆手に持ち、ムラメへと急接近する。

 そしてムラメの方は、右足を一歩後ろへと下げる。だがそれはレルに圧倒されたからではない、今の自分自身に最適なフォームを取るためである。

 そこから少し腰を落とし、まるで大きなハンマーを持つかのように構える。


「『闇影製作(エンシャドウ)』・・戦槌!!」


 ムラメの手元に現れるのは、真っ黒な何か。それがだんだんと伸びてゆき、瞬時にその体に不釣り合いな大きさの戦槌へと姿を変貌させる。しかし、ゆらゆら燃える黒い炎のようなそれに実体はなく、印象的には暗闇を凝縮させて伸ばしたような。ものすごく簡単に言ってしまえば、戦槌の形をした闇である。


「ふぅんっ!!」

「くっ・・!?」


 ムラメはそれを前方に振る。レルはこの時すでにムラメの懐付近。つまり戦槌の射程圏内に入っており、もはやその攻撃は回避不可能なところにまで迫っていた。


「ハァアッ!!!」


ガァァァァアアン!!!!!


「なっ・・!?なんです!?」


 直後、ムラメの戦槌は甲高い音と共に弾かれる。ムラメの手から離れた戦槌はその役目を終えたかのようにゆらりと消えていく。

 訳が分からず咄嗟にバックステップを取ったムラメは、レルの鳩尾付近に小さな円盤が浮いていることに気づいた。

 その円盤は夜空の如き美しい輝きを放っており、その中に入り混じる光の粒は、この洞窟の中では見ることの叶わない星々を感じさせる。


「そ・・それは!?」

「・・『夜空之宝石(カーメルタザイト)』。最高硬度の鉱石さ。」

「んなっ・・・!」


 レルが一言説明を終えるころには、もうすでに決着がついていた。

 レルの短剣がムラメの喉元一歩手前で止まっており、この戦いが命を奪い合うものだったのならば、ムラメはすでにこの世にはいないだろう。


「そこまで!レルの勝ち!」

「・・・・・凄い・・・」


 レルが武器を収めても、ムラメは以前その場で固まっており、戦いの余韻に浸る。勝負事態は一瞬で決まってしまったものの、今の間でも様々な情報を知れた。


 まず一つ目。ムラメは闇属性魔法を使う。

 まぁこれに関しては精霊の加護の話が出てきた辺りからある程度予想はしていたが、その予想はどうやら当たっていたようだ。

 闇の精霊の加護とやらは洞窟居住民(アンダーグラウンダー)全員が受けているようなので、おそらく他の人たちも同属性だろう。はずれていたらあれだが、当たっているのならば相当な一点特化型である。

 そしてムラメが使っていた『闇影製作(エンシャドウ)』なる魔法。レルの洗練された『武器生成』には及ばないが、それでもかなりの速度であの戦槌を作り上げていた。おそらく当たれば威力は中々のものなのだろう。

 最後にわざわざ戦槌と言っていた辺り、他の物も作れるのだろうが、それは残りの二試合、または別の機会があるときにお披露目していただこう。

 二つ目、レルがいつの間にか『夜空之宝石(カーメルタザイト)』のコンパクト化に成功していた。

 いつも見ていたのは人一人ならはみ出すことなく入ることのできるような大きさの石壁だったが、今回披露したのはゲームでよく見るバックラー程度のサイズだった。

 それでもその果てしない耐久力は健在のようで、あの高威力であろう戦槌を直に受けても、割れるどことか傷一つついていなかった。あれほどコンパクトに出来るのならば、その汎用性もかなり高くなってくるだろう。

 そして最後三つ目。ムラメは普通に強い。

 俺とて一応魔神討伐を目指している身であるため、この後の戦いでも大人げなくとも負けるつもりはさらさらないが、昨日のムラメが洞窟居住民(アンダーグラウンダー)の中でも上位の実力を有しているという話はどうやら本当のようだ。

 おそらくそこそこ程度の者ならば、レルのあの踏み込みにも目が追い付かずに速攻で一本を取られることだろう。だがムラメは当たり前のごとくそれに対応して見せた。齢七歳の少女がだ。俺が言える立場ではないが、この年にして相当な鍛錬を行ってきたのだろう。これならば、ムラメの実力に関してもはや何も疑うまい。


「レリルドさん!あの盾・・ですかね?とにかく、凄い硬さでした!私の戦槌で粉々にならなかったのはあれが初めてです!」

「あ、ありがとう・・えーとつまり・・・あのまま僕が咄嗟に防いでなければ、肋骨が粉々になる程度じゃすまなかったのかな・・・?」

「一応寸止めで止めるつもりだったんですけど、まさか弾かれちゃうとは思いませんでした!ムラメはとてもびっくりです!!」

「そ・・それはよかったよ・・ははは・・・」

「さてと、次は私かしらね!」

「待て待て・・ムラメも一気にはキツいだろ。一回インターバルとるぞ。」


 まるで運動部の顧問にでもなったような気分だ。まぁ帰宅部だったが。

 そこから三十分ほど休憩を挟み、第二回戦。ムラメ対アリヤが始まる。

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