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異世界武闘譚~英雄の雛の格闘冒険録~  作者: 瀧原リュウ
第三章 ビギニング・ジャーニー
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#62 修業開始なのです!

 エンゲージフィールド踏破の旅五日目。

 あの後は洞窟居住民(アンダーグラウンダー)の居住区(というかただの洞窟)で休んだのだが、最近日光を一切浴びていないので、そろそろ時間の感覚が無くなりそうだ。

 少し寝た俺たちはムラメと再び合流してここにあるという訓練場へと向かう。


「わぁ・・プストルムよりもだいぶ大きいね。」


 レルがそう漏らすが、実際その広さは相当なものだ。

 地上と違って敷地等などを考えなくてもいいからなのだろうが、プストルムの街にあった訓練場も学校の体育館三個分くらいの大きさはあったのだが、ここはそれの倍以上はありそうなほどの面積がある。

 ボルダリングのような壁もあれば、円柱状の石の柱がいくつも(そび)え立っている場所もある。他にもさまざまなトレーニングができそうなものがあるが、正直に言ってスポーツに詳しいわけでも筋トレマニアでもないので、使用用途が分からないものも結構存在する。


「それにしても危なかったです・・タクさんたちが魔石を欲しがっていなければ、本当に五倍の修行量を課せられるところでした・・・」

「ムラメちゃんはいつもあの長老さんに教えを乞うているのかい?」

「はい!魔法もさることながら、体術に関してもいろいろ教えてくれるのです!」

「あの人動いて大丈夫そうには見えなかったが・・・」

「今はあんな感じですけど、昔はかなり鍛えていたそうですよ?」 

 

 なるほど。確かに洞窟の中にあんな場所を拓くほどなんだから、昔は相当の腕っぷしを持っていたと言われても納得がいく。

 魔法で掘ったのか、それとも人力か。まぁ、魔法で溢れかえってるような世界だし、ほぼ前者で間違いないだろうが。

 ということは、少し前まで素手でずっとこの洞窟を掘り進めていた俺の苦労は一体何だったのか。なんだか急に凄い惨めに感じてきたが、無いものねだりの方がもっと惨めなのでここらで切り替えていこう。


「んで、ムラメはいつもどんな修業をしてるんだ?」

「いろいろやってますよ!おっと、まずは準備運動ですね!」


 そう言うと、ムラメは元気よく体を伸ばし始めたので、俺たちもそれに続く。

 

「いっちにー!さんしー!」

「なんというか・・・微笑ましいな。」

「そうねぇ。」


 こんな理不尽の極みのような洞窟の中でも、こんなに心が穏やかになるとは逆に恐れ入った。気づけば俺たち三人はしみじみと微笑みながら体を伸ばしていく。

 あと一応言っておくが、断じて俺はロリコンではない。この洞窟に落ちてきた時から、体は何度か休めたが、心を休めるタイミングがここまでなかったのだ。これくらいは許してほしい。


「さて・・そろそろいいですかね。じゃあ早速修業に移りましょう!先ずは修業の基本!走り込みです!」

「よし!距離はどのくらいだ?」

「とりあえず・・・端から端まで、百往復位行ってみましょう!」

「百!?」


 それを笑顔で言ってのけるから末恐ろしい。軽く見渡す限り、端から端まで五百メートル位はありそうだ。それを百往復ということは・・・一往復一キロ。つまり百往復だと百キロ・・・・・


「とりあえずで百キロはおかしいだろ!?」

「まぁ一日目の十分の一よ。無理な距離じゃないわ。」

「そう言えば、タクの世界の走り込みの距離ってどれくらいなの?もっと長いのかい?」


 んなわけねーだろうが。フルマラソンでもその半分以下だわ。

 地上を移動しているときも思ったのだが、こいつら普通の基準の桁が一つ多い気がする。だがそれは、それほどまでに常日頃から鍛えているということを意味している。

 こいつらの強さの根源は恐らく生まれ持った肉体の質の違いも多少はあるだろうが、ただ単純に努力の差というやつなのだろう。

 そして、それを踏まえた上で俺はムラメにこう言いたい。どんな七歳児だよ。


「えっほ!えっほ!」


 その印象を文字にして表すのであれば「るんるん」といった感じでムラメはおそらくいつも通りに走り、俺達もそれに追走する。そのスピードは、大人が全力で走るよりも遥かに速い。おそらくスキルも何も持たずにこの世界に放り出されたのならば、俺が五往復目あたりでぜぇぜぇ言っている間にムラメたちは百キロ走り終えることだろう。


「もしかして・・自主的に五倍やってて、本当はいつも二十キロとかっていうパターン?」

「違いますよ?ムラメはいつもこの距離を走ってます!ただ今回は、走ってる間に話し相手がいるので、全然退屈じゃないです!さぁ、張り切っていきますよ!走り込みはフォームが大事ですからね!」


 ムラメはそう言って屈託のない笑顔を俺に返す。百キロの道のりの間に。

 七歳でこれならば十年後、今の俺と同い年になったら、一体どのような化け物になっていることやら。


「こりゃ、ムラメの両親は心配しそうだな。」

「りょーしん?」

「お父さんとお母さんの事よ。」

「ふむふむ・・・ムラメはお父さんはいるけど、お母さんはいないのです。」

「あ・・・えっと・・なんかごめん・・・」


 俺は走りながらムラメに謝るが、当の本人は気にすることなくその笑顔を絶やさずに俺に言葉を返す。


「気にしなくてもいいですよ!きっとどこかで生きておりますので!」

「あ、生きてんの?」

「以前お父さんにお母さんのことを聞いたら、急にどこかへ行ってしまったんだって言ってたので、どこかに一人で引っ越しちゃったんだと思うのです!」


 その文言だとムラメの母親は十中八九亡くなっているが・・・それを本人に伝えるのはあまりにも非常だ。純粋なムラメは父親のその言葉を、一切の疑いもなく信じているのだろう。

 ならば、こちらも何も言うことなどあるまい。幼子に無理に現実を突きつける必要性は全くない。


「でも・・流石に話しながらだと少しきついわね・・・」


 折り返し地点、五十一往復目辺りでアリヤがそう呟く。

 確実にチートと呼ばざるを得ない『無限スタミナ』を持つ俺はもちろん何ともないが、アリヤとレルに関してはもちろんそんなもの持っていないので、徐々に疲れが見え始めている。

 数日前、俺たちは丸一日かけて千キロを走り切ったのだ。それに比べ、今回は百キロではあるものの、俺達からすればかなりのハイペースで、しかも休憩の類は一切なしである。ムラメにこれの五倍の量をやらせようとしていたあの長老は鬼畜か何かだろうか?


「頑張ってください!あと半分なのです!ここからは更にペースを上げますよ!」

「更に!?」


 そう返すのは今回は俺ではなくレルであった。あのレルがここまで言うのだ。こいつらからしてもかなりハードなのだろう。


「師匠とは戦闘訓練ばっかりだったからね・・週に一回しかないそれに備えるためにかなり体力づくりとかはやってたんだけど、ムラメちゃんはそれ以上に鍛えてるのかもしれないね・・・」

「本当ね・・私たちも負けてられないわ・・・行くわよ二人とも!!」

「おう!」「うん!」

 

 ちなみに、ペースがここからどれだけ上がったのかというと・・・先ほどまでの倍である。倍。二倍。トゥワイス。

 それだというのに息一つ上げることないムラメに俺たちが必死に食らいついていたのは、言うまでもないだろう。

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