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異世界武闘譚~英雄の雛の格闘冒険録~  作者: 瀧原リュウ
第三章 ビギニング・ジャーニー
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#61 長老との対面

「・・・ムラメよ。」

「はい!なんでございましょう長老!」

「わしゃあ・・見てきてくれといったんじゃがなぁ・・・」


 連れてこいとは言ってない。そう言いたげな長いひげを伸ばした長老は大きなため息をつく。

 本来長老がムラメに頼みたかった事は、俺たちがどんな奴らかを見て、その印象を戻ってきて教えてくれみたいな感じの事だったのだろうが、時すでになんとやらである。


「あなたがここの長老さんですか?」

「・・いかにも。わしがこの地下での暮らしの基盤を作り上げた男、今となってはただの老いぼれじゃがな・・・して、お前さんらは?」

「俺たちは・・こういった者でして。」

「・・ほぉぉ・・・」


 そう言いながら俺が見せたのは、もはや定番と化してきた『進化之石板(アドバン・スレート)』である。

 正直なところ、おそらくこの世界では、名前を名乗るよりもこれを見せた方が話が早く進む気がする。実際、アリンテルドでも見慣れない危険人物扱いだったわけだし・・・


「彼はタク・アイザワ。アルデン様に呼び出された英雄の雛です。僕はその眷属のレリルド・シーバレード。こちらが同じくアリヤ・ノバルファーマです。」

「自己紹介が遅れて、申し訳ございません。長老殿。」

「構わん構わん。どうやら・・野蛮な愚か者ではなさそうなようじゃしのぉ。」

「・・・・・」


 ん?なんだ眷属って?・・・あぁ。そう言った方がいちいち怪しまれずに済むからか。しかし・・眷属とはまた仰々しいな・・・


 そう自己解釈で納得したタクであったが、その眷属というのが紛れもない事実だということを本人は知らない。


「楽しそうにアメジストを眺めていたもので、思わず混ざっちゃったのです!」

「・・・・・明日の修業は昨日の五倍じゃな。」

「えぇーっ!?なじぇでずぅぅぅ!?」


 ムラメは半泣きで長老に問いただすが、まぁ無理もないだろう。ありがとうムラメ、そして俺たちの尊い犠牲となってくれ・・・というのは流石に鬼畜過ぎるか。


「・・・そういえばお前さんら・・グラーケンに喧嘩を売ったじゃろ・・?あれがあそこまで活発になるのは数十年ぶりじゃ・・・」

「いや、喧嘩売ったっていうか、売られたっていうか・・・」


 元はと言えば、あいつの触手が俺たちを地面ごと叩き落したのが事の発端であり、そもそもグラーケンとは事を構えるつもりなどさらさらなかったのだが。


「ここから外に繋がる道とかって・・」

「ありゃあせんよそんなん。」

「ですよね・・・」


 ならばやはりここを出るためには、グラーケンをどうにかするほかは無さそうだ。流石に一万キロメートル以上を素手で掘り進めるのはいくら何でも現実的ではない。


「でも、長老殿達は外に出なくても大丈夫なんですか?食べ物だったりとかは・・・?」

「それなら、心配はいらんよ。」


 アリヤが思ったことを素直に長老に聞くと、長老は自慢げになぜなのかを話す。


「わしらにゃあ・・闇の精霊の加護がついとるからのぉ・・・闇こそが我らの糧。このあたりの魔力があれば、飢えることなどもないし、この洞窟では地上の奴らよりも動ける者がほとんどじゃ。」


 アリヤの言ってたフィールド効果ってやつなのだろうか。特定の場所ではバフがかかる的な。

 つまり彼ら洞窟居住民(アンダーグラウンダー)は、闇の精霊とやらの加護のおかげでこの洞窟内で暮らすことができているということか。


「もし仮に、グラーケンがここに来たらどうなりますか?」

「ふぅむ・・まぁないじゃろうが・・・一応対策もしておる・・万が一に備えてここの者はそれぞれ鍛えておるし、グラーケンがいる方向の壁は巨大な()()()()()()に更に光属性耐性を付与しとる壁を張っとるしの・・そうそう破られはせんわい。」

「なるほど、安全対策もしっかりされてるんです・・・ね・・・・・え?」

「た、タクさん。どうしたのですか!?」


 ムラメにそう言われるも、俺は、いや、レル、アリヤも合わせた三人は一斉に表情も変えずに黙り込む。

 闇属性の魔石というのは、俺の単なるたとえ話・・・もしもあったらグラーケンに対抗できるかもねという・・どこかにあるかもしれないと思ったのはたしかなのだが、まさかこんな簡単に見つかるとはだれも思うまい。なんだこのご都合的すぎる展開は。


「・・・ねぇタク・・あなた、もしかして未来予知だったりとか、運命操ったりとかできるの・・・?」

「そんな神の力みてーなの持ってるわけないだろ。」

「まぁ、別系統の物は持ってるけどね・・タクも・・・」


 アルデンも体術関連の物以外にも、そういったスキルもくれればよかったのに・・・こういった考えをするのは、この世界に来て何回目だろうか・・・


「あのグラーケンに魔石でどうこうしよう思うとったんかい・・?わりぃこたぁ言わん。やめといたほうがいい。」

「?何でですか?」

「お前さんらも見たじゃろう・・?あやつの大きさを。ありゃあ図体がでかすぎるんじゃ・・魔石でちまちま削ったところで、すぐ再生されるのは目に見えとる。」

「うーん・・やっぱそこか・・・」


 あのグラーケンは、眼球だけでもえげつないほどの大きさだった。それこそ、今いるこの空間よりもあいつの眼球の方が大きいんじゃないかと思うほどに。


「探しとったんかどうかは知らんが、魔石ならここにゃあいくらでも存在する。くれてやってもかまわんが・・・ただでやるのもあれじゃしのぉ・・・」

「お願いします!私たちは先に進むために、ここをなんとしても出なければいけないんです。それには、グラーケンをどうにかしなくちゃいけない・・・奴への対抗策を持ち合わせていない私たちが、その可能性を少しでも上げるためにも、魔石の力が必要なんです。長老。私たちは、一体何をすれば?」


 アリヤが長老に懇願しながらそう問うと、長老は少し考えたのちに口を開く。


「そうじゃなぁ・・・じゃあ、そこのムラメに一つ手ほどきをしてくれんかのぅ。」

「手ほどき・・・ですか?」

「うむ。ムラメはこう見えて、わしらの中でも実力だけならかなり上の方におるのじゃ。魔法の才も突出してはおるのじゃが・・どうも要領が悪くてのぉ・・・いざというときのために、戦い方を教えてやってほしいんじゃ・・・」

「なるほど。ムラメのコーチか・・・」


 というか、こんな女の子が洞窟居住民(アンダーグラウンダー)の上位層・・・?


「あ!タクさん!いまムラメのこと疑いましたね!?」

「ソンナコトナイヨ!」

「ほらぁーーっ!!」


 頬をぷくーっと膨らませているのが何とも微笑ましいが、だからこそ余計に信じがたい。

 魔法に関しては恐らく年齢など関係ないのだろうが、魔法の才()ということは、身体能力や近接戦闘なども中々にできるということなのだろうか?

 そして更にそこへ闇の精霊の加護とやらが上乗せされていると考えると、想像よりも遥かに末恐ろしい子なのかもしれない。


「ムラメちゃんって戦うの!?」

「そんな年で・・すごいなぁ・・・」

「えっへんっ!ムラメは苔ネズミ五百匹程度に囲まれても余裕なのです!」

「ムラメ・・流石にそれは盛ってるだろ・・・」

「まぁムラメならそのくらいは問題ないじゃろう。」

「マジすか・・・ちなみにムラメ・・お前今何歳?」

「ムラメは七歳です!」

「七・・・・・!?」


 苔ネズミというのは、おそらく俺がこの洞窟に落ちてきた時に取り囲んできた緑色のネズミの事だろう。

 俺が戦ったのはせいぜい二、三百匹くらいだっただろうが、その年であれ五百はやばいんじゃないの?


「・・・よし分かった!ムラメ!お前はこの二人が立派に鍛え上げてくれるだろうからな!」

「・・・タク?あなたはなんで自分だけ抜けてるのよ?」

「正直、俺も戦い方とかは教えられるほど分かんないんだよな・・・ここまでイメージとスキルで何とか出来てるだけだし・・・どちらかというと、俺も二人に教わりたい側なんだよな・・・」

「それでSランククラスの師匠やクルーシュスと渡り合えてるのは正直尊敬するよ・・・」


 そんなわけで、ぶっちゃけ俺も二人に学びたいことが多いのだ。この二人は何年も前からずっと剣を握って戦ってきたわけで、歴が俺なんかよりもずっと上である。ムラメのコーチには、俺ではなく二人の方が適任だ。


「じゃあムラメ、お前はこの三人と少しの間稽古をつけてもらいなさい。くれぐれも怠けることのないようにな。」

「はい!長老!」


 こうして成り行きで、ムラメ育成プログラム(ついでに俺も)が始まることとなった。

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