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異世界武闘譚~英雄の雛の格闘冒険録~  作者: 瀧原リュウ
第三章 ビギニング・ジャーニー
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#60 洞窟に住む少女

 時は少し遡り、エンゲージフィールド地下洞窟南部にて、とある者達が異変に気付く。

 洞窟内部に築き上げた居住エリア。そのうちの一つ、長老の間にて、急いで集まった者達はそれぞれ話し合う。


「・・感じたか?グラーケンの()()()・・・」

「あぁ・・確かに少し動いた・・・あれは普段触手しか動かさない・・本体が動いたのなんて久しぶりだ・・・」


 グラーケンの触手以外の部分。つまり本体が動くことなどここ数年、いや数十年なかったのだ。

 それを洞窟の微かな振動で感じ取った彼らは、瞬く間に驚愕したのだ。


「つまり・・いつぶりかもわからぬほど前と同じく、グラーケンに喧嘩を売ったものがいる・・・?長老、いかがいたしましょう?」

「さて・・・そもそもグラーケンに近寄った者など実に三十年程ぶりかのぉ・・・あれに挑むのは、身の程知らずの愚者か、あるいは英雄の素質を持つ者か・・その力がどれ程のものであろうと、こちらへ刃を向けるのであれば、こちらとてただで命をくれてやる義理はないわな・・・」


 長老と呼ばれる者がゆっくりとそう告げると、周りの衆は全員納得したかのように頷く。

 

「そうじゃなぁ・・・ムラメ・・おるかい?」

「はい!ムラメはここにおります!」


 長老がそう言うと、衆の男たちの中にポツンと混ざっている、黒に紫が混じったような少し短めの髪の少女が、頭の天辺でピンと立っているアホ毛を揺らしながらそう答える。

「ちょいと、その者を見てきてくれんかのぉ・・?今日の修業は休みじゃしな。」

「うーん・・・この後お友達と遊ぶ予定が・・・」

「そうか・・明日の修業は昨日の三倍じゃな・・・」

「問題ありませぬ!今すぐその予定は断りを入れる故!!」


 長老に脅されすぐさま答えを急変させた少女は、これから遊ぶはずだった友人たちに事情を説明し、その足で洞窟に存在する見知らぬ気配に向かって行った・・・




「おらおらぱーとつー。」


ドガッ!!ガッ!!ドゴォ!!!


 エンゲージフィールド踏破の旅四日目。

 束の間の休憩ポイントを後にした俺たちは、闇属性の魔石を探すために再びまだ見ぬ新天地を目指していた。

 あれからもかなり掘ったのだが、お目当ての物は中々姿を現さない。まぁそれがここにあるのかも分からないのだが・・・

 先ほどとは違って、ずっと別の空間に繋がらないということはないのだが、それでもどこもかしこも似たようなところばかりで、少し見渡しては再び長い間掘り続ける。もしかしたら、俺は前世モグラだったのかもしれない。

 そういえば昔見たアニメで、モグラ型のメカがなぜかグラタン食ってたような・・・?あれ?どうだったっけ?ってかなんでグラタン?


「ルクシアにグラタンあるかな・・・?」

「グラタン・・・?レル、知ってる?」

「うーん・・聞いたことないかな。」


 ドゴッ!ドガッ・・・・・


 後ろの二人の会話を聞いた瞬間、俺の手がピタリと止まる・・・今・・なんと・・・?


「・・・無いの?」

「「・・・多分。」」

「チーズは?」

「あるわよ?」

「小麦粉、バター、牛乳。」

「ぜ、全部あるけど・・・」 


 そんだけあるならあと一歩でしょうが。

 とりあえず作ることは出来そうなのでその件に関しては一安心し、俺は再び目覚めそうな食欲を押し殺しながら眼前の岩を砕き始める。


「お、またどっかに出たな。って、うおぉ・・!ここも中々・・・!」


 またしても綺麗な場所へとたどり着いてしまった。この洞窟には、こういった場所が点々と存在するのだそうか?

 一面に広がるのは、紫色に光り輝く石、他の岩石と違いそれは透明感があり、色鮮やかで先ほどの青い場所とはまた違った美しさがある。


「これって、色的にまさかの・・!?」

「これはたしか・・・アメジストね。闇属性の魔石じゃないわ。」

「それでも、本物のアメジストなんて初めて見たよ!」

 

 二人は、アメジストを本でしか見たことがないらしく、興味津々で周囲の紫水晶を眺めていた。

 かくいう俺も、小学校の頃どこかで行われたイベントの、砂の中から小さな宝石を見つけ出す宝探しゲームで一、二ミリのサイズしかないようなものしか見たことがなかったので、目の前に広がる景色には正直気分が高まっている。

 お目当ての物ではなかったが、これはこれで貴重な体験ができた。


「このままでも十分に綺麗だから・・加工したらもっと凄いんじゃない!?」

「アメジストの刀身・・・耐久性はないだろうけど・・すごくかっこよくなりそうだ・・・!」

「ここで採れるアメジストは、とてもご利益があるのです!」

「そうなのかぁ・・・・・って誰だよ!?」


 想像を膨らませているアリヤとレルに続いた声は、何の違和感もなく俺たちに混ざっていた。

 咄嗟に声が発せられた方向、俺のすぐ下あたりを向くと、見た感じ小学校低学年辺りの小さな子供であった。

 ショートカットにアホ毛が際立つその少女は、全く気配を感じさせずに俺たちの真横まで入り込んだのだ。


「あの・・君は・・・?」

「私はムラメと言います!洞窟居住民(アンダーグラウンダー)です!長老の頼みで、あなた達を見に来ました!」

「えぇっと・・俺はタク。こっちはアリヤ、あとレリルドだ。」

「よろしく。」「よろしくね。」

「はい!よろしくです!」


 なんというか、元気な子だ。その溌溂とした雰囲気には、こちらまで引っ張られてしまう。


「それより、アンダーグラウンダー?地底人か何かか?」

「私たちは、このエンゲージフィールドの地下洞窟に住んでいるんです!」

「こんなとこに!?」


 話を聞くに、このムラメという地底人、もとい洞窟居住民(アンダーグラウンダー)は、エンゲージフィールドの地図で言う所の下部分。つまり南側辺りに居住エリアを構えており、普段はそこで暮らしているらしい。


「でも、ムラメちゃん・・だっけ?」

「はい!ムラメです!」

「ムラメちゃん達は、グラーケンに襲われたりしないの?」

「えぇっとたしか・・長老の話によると、この洞窟はですね、大きな器のようになっておりまして、そこがグラーケンの活動範囲で・・えぇっと・・・外側から内側に行くにつれてどんどん深くなっていくのです。ですから、私たちは外側に近い場所の一番下から掘り進めて、グラーケンが来ないような場所に住んでいるのです!」

「そうなのね・・・器のような形・・・ということは、外に出るためには・・・」

「はい。基本的に外へ出るためには、エンゲージフィールドの外側に向かわなければならないのです。」

「つまり俺たちがずっと真横に掘り進めて、魔物のいる感じがしなかったのは・・・」

「洞窟外の場所をずっと掘ってて、たまたまそこに空洞があったから・・・かな?」


 なるほど。疑問に感じていた小さな謎が解けた。


「そういえば、ムラメはなんで俺たちを見に来たんだ?」

「・・・そういえば、なんででしたっけ?」

「知らない。」


 俺はムラメにきっぱりとそう返す。しょうがないであろう。本当に知らないんだから。


「長老は、見てきてくれとしか言ってなかったので・・・」

「じゃあ、その長老さんの所に行ってみようか。」

「そうね。グラーケンについて詳しく知ってる人もそこにいるかもしれないし、ムラメちゃんの本来の目的も分かるわね。」

 

 まぁその提案は、別の視点で見るとムラメが敵になり得るかもしれない怪しい人間を自分の住んでいる場所に招き入れることと同義なのだが・・・


「なるほど!じゃあ早速ご案内します!」

「・・・おう!よろしくな!」


 こんな小さい子にそんな想定などできるはずもなく、ムラメは警戒心ゼロで俺たちを案内する。

 長老とやらよ。恨むならムラメではなく、こんな小さな少女に偵察を頼んだ自分を恨むんだな。

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