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異世界武闘譚~英雄の雛の格闘冒険録~  作者: 瀧原リュウ
第三章 ビギニング・ジャーニー
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#59 勝利への可能性

「ん、んん~~ッ・・・久しぶりによく寝た気がするなぁ。」

 

 と言っても、実際に眠っていたのは恐らく体感四時間ほどであるが、俺は久しぶりと思える睡眠を謳歌し、気持ちよく変わらぬ洞窟の中で起床する。

 元の世界では徹夜続きの日も少なくなかったので、たかが四時間でも俺にとっては十分すぎる睡眠時間なのだ。

 それに加え、俺は世間でいう所の、いわゆる『ショートスリーパー』というやつで、普段でも約二、三時間寝ることができれば、ある程度体は回復する。まぁおそらくそれは俺の思い込みで、実際は体悲鳴を上げているのかもしれないが・・・


「おはようタク。」

「結構寝てたわね。」

「ちょっと疲れてたからな。二人は寝てないのか?」

「いや、僕とアリヤも寝たよ?一時間くらい。」

「少なっ!?」


 これが俗にいう、上には上がいる、というやつか・・いや多分違うな。とにかく、二人は俺の寝ている間に眠り、俺が起きるまでの間に目を覚ましたので、俺が寝ていないのではと勘違いしたというわけか。


「体は大丈夫なのか?一日目の夜に少し寝たとはいえ、疲労は取れてないんじゃないか?」

「私たちは、体内の魔力を使って疲労回復もできるの。それに、その魔力も疑似長期魔力蓄積(アキュームレイト)で回復できるから、多少寝られればそれで意外と十分なの。」

「俺も魔力ほしいな・・・魔法使ってみてぇよ・・・」

「でもタクも似たようなもの使ってたじゃないか。」

「いやもっとこう・・アリヤの炎みたいな・・あと水とか風とかそういうよくあるやつをだな・・・」


 雷岩魔の洞窟でも、あわよくば魔石を取り込んで魔法が使えないかどうかというのも期待していたのだが、結局それは敵うことはなかった。厳密には、取り込めはしたのだが、なぜか魔力ではなく闘気に変換されるし、どのみち、俺に魔法の才という才が全くないということが判明してしまったのだ。


「しかし、寝起きはどうも喉が渇くな。この透き通る水は、一体どんな味なのか・・・」

「だ・・ダメッ!!」

「え?」

 

 ふと何気なく湖の水を飲もうとしたとき、アリヤが突然声を荒げて俺を止める。


「・・・なんで?」

「え、えっと・・その・・・」


 アリヤは脳をフル回転させ、喉の乾いたタクに対する言い訳を必死に考える。

 もちろんタクは、その湖で少し前までアリヤが水浴びをしていたなど知る由もない。アリヤがタクを制したのは、タクへの申し訳なさなのか、それとも羞恥心故か。


「さ・・さっき調べたんだけどね?あの湖は、え・・えっと・・・そ、そう!この洞窟の魔物の体内にあるう有害物質が濃縮されたものでね、人体には猛毒なんだ!」


 レリルドはアリヤの考えていることを察知し、彼女の代わりにタクへ嘘の説明をする。


「そうなのか?・・・でもよくそんなこと分かったな?」

「え?あ・・あぁ・・・」


 そこで納得してくれるかと思いきや、突然次に来る質問にレリルドは少し焦りを見せる。 

 そして今度は、すかさずアリヤが心の中で感謝しながら、レリルドのカバーに入る。


「タ、タクが寝ている間に、ちょっと前にいた蝙蝠の小さいやつがやってきて、レルが湖の方に叩き落したんだけど、あっという間に骨ごと溶けちゃったのよ・・・小父様が以前、この洞窟には自らの体内に毒を持つ魔物がいるって言ってたから、おそらく大本はそいつなんでしょうけど・・・」

「ヘぇー。てかあの人ここから普通に出られたんだな・・・」

「小父様は若い時エンゲージフィールドに入って、今もなお唯一生還した人なの。それでもかなり苦戦したみたいだけどね・・・」


 相手を騙すには、本当と嘘を上手く入り混ぜる必要がある。

 アリヤが話した蝙蝠の話は嘘だが、ダリフが言っていた事、生還したというのは嘘偽りのない真実である。


「まぁそれなら飲まねぇ方がいいか。」

((ふぅ・・・あ・・・危なかった・・・))


 納得した様子のタクを見た二人は心から安堵する。

 これにより、ひとまずアリヤの貞操は守られたのだった。


「さて、そろそろあいつの攻略法を考えるか・・・って思ったんだが、サイズ差がありすぎてどうにかなるとは思えねぇんだよな・・・」

「うーん・・・グラーケンはあの触手が厄介だよね・・・師匠の話だと、あいつの触手の本数はおそらく十本。しかも損傷しても五分もあれば完全に再生しちゃうらしいよ。」

「それに、あいつは普段触手をエンゲージフィールド中に張り巡らせてるらしいし、あのセンサーじゃ、何か事を起こせばすぐに探知されるわ。」


 つまり、グラーケンの触手は奴にとっての最大の武器であり、その分失ったときの隙は大きいはずだ。


「となると・・その十本の触手をまずどうにかしねぇとな。もしも全部の触手を一気に断てれば、約五分間は向こうは攻撃する手段が無くなるからな。」

「・・・いや、そうとは限らないよ。タク。」

「え?」


 俺がそう言うと、レルはグラーケン別の攻撃手段の可能性を語る。


「言っただろ?あいつはおそらく光属性の魔物だって。だからそれ系の魔法を放ってきてもおかしくない。そのもしもの対策も考えないと。」

「なるほど、光属性対策か・・・」


 ならば眠る前にも言っていた闇属性魔法・・?いや、この中にそれを使える者はいない。

 ならば先ほどまでと同じく、レリルドの『夜空之宝石(カーメルタザイト)』?いや、これもおそらく難しいだろう。レルのそれは燃費がかなり悪い。

 だが、それ以外には何か無いだろうか?奴に対する決定打になり得る物・・・闇属性・・使えない・・使えるようにする・・使えるようになる・・・


「・・ッ!!!」


 その瞬間、俺の脳裏にとあるアイデアが()ぎる。

 すぐに闇属性魔法とまではいかないが、それに近しいものを使えるようになる方法・・・!あるじゃないか・・!それがここで手に入るかは知らんがな!


「・・・魔石だ・・!闇属性の魔石・・・!もしこの洞窟にそれがあるなら、あのイカにも対抗できるはずだ・・・!」

「なるほど・・・でもタク、あいつの縄張りであるここに、弱点になり得る闇属性の魔石なんてあるのかしら?」


 俺の考えに、アリヤが疑問を浮かべる。確かに、そんな都合よく弱点になる魔石があるとは限らない。

 火山地帯に水属性の魔石があるのかどうか考えるようなものだ。しかし。()()()ならば・・・


「今回に関しては可能性はあるはずだ。なんせ、闇属性の弱点も、光属性だからな・・・!」

「・・・確かに、二つの属性は共に相性が悪い・・・!」


 そう。光属性は闇属性に弱い。だがそれは、逆もまた然り。

 だが、グラーケンの行動する場所、つまり、このエンゲージフィールドのほとんどには、おそらくそれがある確率は極端に少ない。それならば、グラーケンが普段触手を()()()()()()()()()()()ような洞窟の空間があれば、そこにコロッと一つや二つあっても全然おかしくない。


「こう言った、グラーケン(あいつ)が普段来ないような場所が、きっとこの洞窟のどこかにある。そういう場所には、ここのような当たりスポットがまだまだ隠されているはずだ。」

「つまり・・洞窟内のどこにあるかも分からない場所に、あるかも分からない魔石を求めてこれから行動するということかい?」

「多分それが一番確率が低いが、一番成功率が高い方法だと思う。どっちみち、あれは今の俺たちの状態じゃどうにもできない。じゃあ、可能性に賭けてみるのも悪くないって思わないか?このままじゃ、俺たちこのまま外に出られずにゲームオーバーだ。」

「・・・そうね!タク、あなたの案に乗るわ!」

「うん。僕もその考えに異論は無いよ。やろう!」


 そして、グラーケンに対抗するための闇属性の魔石を求め、俺たちは美しい青色のオアシスを後にする。

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