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異世界武闘譚~英雄の雛の格闘冒険録~  作者: 瀧原リュウ
第三章 ビギニング・ジャーニー
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#58 吐露する弱音

投稿が遅れました。すみません。

 レリルドは、必死で心を無にしようと試みはしたが、そんなことできるはずもなく、ただ心拍数を加速させるだけであった。

 幼馴染とはいえ、正直に言えばレリルドが好意を寄せている彼女が、今この場で、自分の背中の先でその素肌を露わにしているのだから。


「・・・レル。」

「なっ・・何・・・!?」


 アリヤが体を洗いながらレリルドに呼びかける。その間水の音は止むことはなく、洞窟のこのフロア全体に優しく響き渡る。


「タクが寝ている今だから話せるんだけど・・・」

「う・・うん・・・」

「私・・この先、このまま旅に同行しても大丈夫なのかしら・・・?」

「・・・え?」


 その一言は、アリヤの何気ない一言は、なぜかレリルドの心に突き刺さる。いつも負けず嫌いで、向上心と自身に溢れていた彼女がそのようなことを言うとは、レリルドは到底思えなかったのだ。

 そして、なぜアリヤがそんなことを急に言い出したのかが、レリルドには分からなかった。


「私はだんだん強くなれているって思ってた。けどそれは違った・・あの獣人との戦いでも、ライルブームでの襲撃の時も、今回も・・・レルやタクに助けてもらって、なんとかついていくことができていただけだった・・・」

「そんなことないよ・・アリヤだって立派に・・・」

「でも何もできなかった・・・!!!!!」

「・・・!?」


 アリヤの必死の慟哭に、レリルドはしばらく何も言い返すことができなかった。


「さっきだって・・二人は必死にその場を切り抜けようとしてたのに・・私はただ見てることしかできなかった・・!!同じ場所にいたのに・・・!情けなくてしょうがなかった・・・・・」

 

 アリヤの少し虚しさのある訴えはだんだんと弱々しくなっていき、ついにはその場でうずくまった。

 それらを口に出すたびに、何もできなかった自分への怒り、情けなさ、心の奥底に閉じ込めていた感情が一気に溢れ出す。


「今の私じゃ・・いや、もしかしたらこれからもずっと・・・私は二人のお荷物に・・・」

「なるわけないさ。絶対に。」

「・・・?」

 

 レリルドは先ほどまでの態度とは打って変わり、非常に真剣な顔つきでアリヤにそう答える。無論、そのままの向きで、アリヤは見ずに。

 話を聞いている間、レリルドはタクと出会ってからここまでの事を振り返る。あの、すべてが変わり、すべてが始まったあの日から。

 

「・・あの合成獣(キメラ)は、アリヤがいなかったら倒せなかった。」

「・・・え?」

「僕もタクも、あいつに対する決定打を持っていなかったからだ。そしてこの間の『ケラウノス』の襲撃もそう。アリヤが街の残党を狩りつくしてくれたおかげで、街の被害をあれ以上拡大させずに済んだ。あの時何もできなかったのは・・僕の方だ・・・」

「・・レル・・・」


 アリヤはその時、羞恥心など忘れ、その場でただレリルドの方向を向き、立ち尽くす。

 

「それに、冒険はまだ始まったばかりじゃないか。僕らはまだ、始めの一歩を踏み出したばかり。最初からそんなに考えてたら、精神が壊れちゃうよ?それに、師匠も言ってただろ?全力で楽しめって!!でもそれには、もう僕とタクだけじゃだめだ。僕たち三人でじゃないと、もうそれはできない。だからアリヤ、一緒に強くなろう。僕ら二人で、英雄の雛の眷属として、彼と共に戦おう。」


 その言葉は今のアリヤにとって、とても心強いものであり、同時に、最大級の励ましであったのだ。それを聞いた彼女の顔には、拙いながらも若干の笑みが戻る。

 そう。自分たちは、もうただの冒険者ではない。この間まで物語の主人公でしかなかった『英雄の雛』の眷属、レリルド・シーバレードと、アリヤ・ノバルファーマなのだ。

 英雄の雛(タク)と共に歩み、英雄の雛(タク)と共に戦い、英雄の雛(タク)と共に進まなければならない、そして、その歩んだ道を戻ることは、もう許されないのだ。

 アリヤは自分の頬を両手で思い切り叩く。こんなところで弱気になっていてはだめだ。何もできなかったのならば、それができるようになるまで強くなればいいだけの話なのだ。

 そう自分に言い聞かせ、彼女は再び前を向く決心を固める。


「・・・ごめんなさい・・レル・・・私らしくもなかったわね・・・自分で選んだ道なのに、これくらいの事で弱音を吐いて、感じてしまった恐怖から逃げようと思ってしまった・・・」

「誰だって、逃げたくなる時はあるよ。僕だってそうだ。嫌な事、つらい事、怖い事から目を背けようとする。でも、現実は思ったよりも残酷だ。それらがもし人だったとして、自分がどれだけ目を瞑っても、そいつらはその目を指で無理矢理開いて自分たちを見せてくる。」


 なので、どうせ避けられないのならば、そいつらを斬り捨てればいい。どんなことがあろうと、逃げずに戦って進んでいく方がいいと、レリルドは考える。その方が、後々悔いが残ることが無いと信じているから。たとえ悔やんでも悔やみきれないミスをしてしまったとしても、それを受け止め、前に進むことができたのならば、その経験は次以降に生かすことができる。きっとアリヤには、それができるはずだ。


「レル・・・あえてここでは例は言わないわ。それを言うのは、次の戦いの後まで取っておきたいの。私は・・・自分の意思で、覚悟を持ってここにいるんだって、改めて自覚したわ。たった三日で心が折れてちゃ、本末転倒よね・・!」

「・・・いいね。その感じ。いつものアリヤに戻って来たよ。」

「そ・・そう?・・・って、ごめんなさい!ずっと後ろ向かせちゃって、もうすぐで終わらせるから!!」

「え・・・あ・・!う、うん!!」


 アリヤもレリルドもようやく現状を思い出し、それぞれ先ほどの雰囲気に逆戻りする。だが、これでいいのだ。何も変わり映えないものもまた、どんな世界にもなくてはならないものなのだから。

 アリヤは急いで残り全ての部位を水でサッと洗い、水から上がる。そこから炎系魔法をうまく使い体を乾かしたのちに、元の装備へと着替える。装備に関しては乾いてはいるが、洗えてはいないため多少の不快感はあるが、そんなことも言ってられない。彼女はそれらの装備を急いで身に着け、水浴び前の格好にまで戻る。


「レル、もう大丈夫よ。」

「う、うん!」


 レルはそう言われたにもかかわらず、恐る恐るといったような感じで後ろをゆっくりと振り返る。そこにいたのはもちろんいつもの格好をしているアリヤであり、レリルドは安堵のため息を吐く。


「レル・・・!」

「ん?どうしたの、アリヤ?」

「・・・一緒に頑張りましょう!」

「・・・・・うん!!」


 まだまだ心は一進一退。まだまだ弱い部分もある二人だが、これからもタクも含めて支え合い、更に強くなっていくことだろう。

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