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異世界武闘譚~英雄の雛の格闘冒険録~  作者: 瀧原リュウ
第三章 ビギニング・ジャーニー
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#57 掘り進めた先

「おらおら。」


ドガガガガ!!!ドガガッガガ!!!!!


 やる気のない掛け声とは裏腹に、目の前の岩は凄まじい音を立てながら次々と砕かれ、洞窟内に新しい通路を形成していく。

 人二人分ほどの広さしかないため、現状のままならば、とりあえずはグラーケンの触手に侵入されることはないだろう。


「にしても、あの光がただの目だったとはな・・流石にビビるわありゃ・・・」


 世界最大級のシロナガスクジラでも、確か三十メートルかそこらだったような気がする。それでも中々想像がつかないというのに、遠くから見ても視界に収まりきらない程のサイズのイカをどうやって予想しろというのか。

 

「ていうかタク、ずっと削ってるけど大丈夫なの?」

「うーん・・これだけ広いし、どっかに繋がると思ったんだけどな。」


 二、三分も掘ればすぐにどこかへと繋がると予想していたのだが、思ったよりもうまくいかない。本当に空間が無いのか、はたまた見事に真横ギリギリを通ってスルーしてしまっているだけなのか。どちらにしても運が悪いことは確かだ。

 

「でもこんだけ光の当たらない場所にいるのに、こんだけ明るいのはなんでなんだろうな?」


 俺は目の前の岩を砕きながら二人に素朴な疑問を投げかける。

 これに関しては地下洞窟に落ちてきた時から薄々思っていたことなのだが、光源が見当たらないのにどこも昼間のように明るいのだ。

 

「多分、あのグラーケンじゃないかな?目があれだけ光ってる魔物は中々いない。おそらくあいつは、魔物の中でもかなり珍しい光属性なんだと思う。」

「光属性?てことは、闇属性とかが効くのか?」

「そうだけど・・・よく知ってるね?」


 まぁ、大抵のソシャゲはそんな感じなんでね。適当に言っただけで当たるとは正直あまり思っていなかったのだが。


「グラーケンの光属性のエネルギーが、この洞窟内部に充満しているのかな?」

「充満か・・じゃあ、ここでは闇属性の魔法は効果が薄くなるってことか?」

「そうね。いわゆるフィールド効果ってやつで、ここ以外でも、水場では炎属性の魔法が弱まったりとか、場所によって魔法の質や威力が変わってくるの。ちなみに、これは修練学園の魔法基礎って教科で習うの。」

「へぇーっ・・・お、やっとどっかに繋がった・・・!」


 掘り進め到達した先は、流石に先ほどの空間には遠く及ばないものの、かなりの広さの空間であることは確かだ。他のフロアと少し違うのは、周りの岩が少し青みが強いということと、湧水が他の場所より多いということだ。

 俺が開けた通路以外の道は無さそうで、ここにも魔物の影はなく、誰も知らぬ安全地帯のようなものなのだろう。

 その湧水・・いや、小さい湖と言った方がいいかもしれない物はものすごい透明感で、不純物など一切ないことが見ただけで分かってしまうほどに澄み切っており、なんとなくマイナスイオンのようなものを感じる。

 空気は水のせいかひんやりとしており、火照った体に心地よく染みわたる。

 この洞窟の中で見てきたものの中でも、かなり上位に食い込んでくる光景がそこには広がっていた。


「・・・どうせだし、ここで一休みしない?ちょっと疲れちゃった。」

「そうだね。ここを出るための作戦も考えよう。」

「ごめん。俺はちょっと寝る。」


 ここまでろくに休んでいなかったため、流石に睡眠がとりたい。疲れないとはいえ、眠くならないわけではない。

 そうして俺はその場で寝転がり、電池が切れたかのように眠りについた・・・・・




「ねぇレル・・・その・・お願いがあるんだけど・・・」

「どうしたの?」


 タクが眠りについて少しした頃、水を何やらそわそわしながら見つめていたアリヤが僕に向かい突然口を開く。


「・・・み・・水浴びをしたいから、後ろを向いててほしいんだけど・・・」

「・・ッ!?」


 顔を赤らめたアリヤにそう言われ、すぐさま僕は動揺してしまった。

 確かにこの数日間風呂など一切入れなかった、それにアリヤに関しては四六時中鎧を装備していたのだ。自分やタクなら文句を言いながらも我慢は出来るだろうが、アリヤに関しては女の子なのだ。流石に限界が来るのは当然なのかもしれない。

 だが、この安全地帯は、視界を遮るものが何もなく、テントなども持ち合わせていない。正確にはタクが持っているのだが、今は熟睡状態であり、本人の『アイテムストレージ』が使えない。

 無理矢理起こそうとも思ったのだが、あのグラーケンの脅威から抜け出すためにここまで素手で掘り進めてくれたのだ。それを考えると、なんだか申し訳なさが出てきてしまう。


「わ・・分かった!!」


 僕はとりあえず眠っているタクの頭部の近くに腰を下ろし、湖と反対方向で俯く。

 こうすることで、万が一タクが起きてしまったとしてもなんとか対応することができるだろう。師匠のように目覚めが悪すぎなければ・・・

 師匠のダリフはあまり睡眠をとらないが、もし寝ていた場合、完全に目を覚ますまではものすごく機嫌が悪い。終始何かにイラついているようで、暴れられたら対処できるものはこの国には一人もいない。一番ひどかったときは、自身のギルド『アシュラ』の本部を半壊させてしまったほどだ。


「あ、ありがとう・・・それじゃあ・・・」


 静寂に包まれる洞窟内でレリルドの耳に入ってくるのは、人肌と布が擦れる音。

 擦れ、一瞬音が止んでは、また擦れる。

 アリヤが着ている服を一つ、また一つと脱いでいくたびに、レリルドは心臓の鼓動がどんどん早くなっていくのを感じる。

 後ろを向いているのにも関わらず目を思い切り瞑るのは、彼の真面目さ故なのか、はたまた罪悪感か。

 そうしてアリヤは、十六歳にして発育の良く、それでいて鍛錬により引き締まった己の裸体をひんやりとした空気の中に晒す。

 衣類をその場に纏めたアリヤは、ペと・・ペと・・と音を鳴らしながら岩の床を歩き、湖へと向かっていく。この時点で、レリルドの心臓は爆発寸前だった。

 恋愛経験もなく、そういった知識もろくに持ち合わせていないレリルドにとって、その音だけでも十分に刺激が強すぎたのだ。

 そしてとうとう、彼女の体が水に触れ、ちゃぷ・・・という音と共に、水面では波紋が揺れる。


「ふぅ・・・冷たくて気持ちいい・・・・・。・・~~ッ・・・」


 アリヤにとっては疲れが一気に吹き飛ぶかのような極楽気分ではあったのだが、彼女もいまだに頬を赤らめさせ、心臓もまたバクバクと音を鳴らす。

 そしてそんな二人の事など知る由もなく、タクはその意識を眠りの世界へと誘わせていた。

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