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異世界武闘譚~英雄の雛の格闘冒険録~  作者: 瀧原リュウ
第三章 ビギニング・ジャーニー
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#56 巨大洞窟の支配者

 もうどれほどの変わらぬ景色の道を歩いただろうか。

 触手への対応にも流石に慣れてきたころ、俺たちはとうとう細長い岩の通路を抜け、どこかも分からない広い空間へとたどり着いた。

 

「急に開けたな・・って・・・ここ地上か・・?」

「洞窟とは到底思えないよ・・・」

「広い・・それに・・・綺麗・・・」

 

 アリヤがそう漏らすのも無理はないような光景がそこには広がっていた。

 俺たちの目線の先で淡く輝く黄金の光、その光源が何なのかは分からないが、圧巻という言葉がこれほど似合う景色もなかなかにないだろう。

 光の周辺では、穏やかな海を感じさせるようなオーラ、そして大地の力強さを現すかのようなオーラが入り混じり、漂う。

 それらが俺たちの肌を伝う度に、()()()()()()()()()()()()


「このオーラ・・あの光から出てるのかな・・・?」

「多分そうだろうな・・ていうか、あれ以外にそれらしいものは何一つ見当たらない・・・」


 この俺が落ちてきた空間よりも何倍も広いここには、道中あれだけいた魔物が()()見当たらない。資源の一切ないゴミ捨て場のような扱いをされている場所なのであれば違和感はないが、かなりの規模の湧水にたくさん生えたキノコ類。この洞窟の水の美味しさは俺達もよく知っているし、キノコに関しても、道中でネズミがボリボリ齧っていたので毒物ではないだろう。食べ残しや排泄物がそこら中に転がっている形跡は一切見当たらないし、空気も悪くない。むしろかなり澄んでいる。

 となればなぜこの場所に近づかないのだろうか。理由として考えられるものは三つ。

 まず一つ目、人間には無害だが、魔物には毒の成分が蔓延している。

 これは恐らく違う。アリヤ曰く、人間に有害なものに耐性のある魔物は数多く存在するが、その逆の例は過去にも聞いたことが無いとのこと。

 次に二つ目、三つの中で一番ないだろうが、たまたま魔物が一匹もいなかっただけ。

 ここまで来るためにこなした戦闘は、優に百など軽く超えるほど。まぁそのほとんどがネズミと蝙蝠だったのだが。

 そんな中でこんな広い空間。はっきり言って広すぎる空間。奥も天井も、果てが全く見えない程の広すぎる地下洞窟の一空間。

 そんな場所での完全なる沈黙。生物の一切が存在しない広大な暗闇の世界。明らかにおかしい部分がたくさんある。不自然だと考える方が正しいだろう。

 そして最後に三つ目。一番可能性が高い。そして、一番最悪なケース。

 

 そこにいる絶対的な支配者に近づくことすらままならない。


「・・・っ!!?」


 おそらくだが、妙な確信を抱く。それは、このエンゲージフィールドをクリアする必須条件。それは、『地下洞窟への侵入を避ける』ことだろう。

 レルもアリヤもすでに気付いているだろう。姿を初めて見るはずの()()()が、今までこの場所に足を踏み入れた者達のことごとくを蹂躙したのだと。

 目の前の光が、まるで眼球かの如くギロリと動く。いや、如くではなく、おそらくは・・・


「この光はお前のたった一部分かよ・・!」


 目視では分からない程の大きさ。例えるならば、部屋の壁と、それを見つめる自分の目の感覚が僅か五センチしかないような。視界に入ってくる情報が壁以外何もないかのような光景。

 俺は、いや俺たちは脳の処理が追い付かずに軽いパニック状態に陥る。ここまでの大きさの生物が存在することなど、想像すらできなかった。


「これ・・・眼球なの・・?グラーケンの・・・?」

「な・・・あ・・あ・・・」

「こいつ・・全体だと一体何メートル・・・いや、下手すりゃ何キロメートルか・・?」


 絶句せざるを得ない程のスケールには間違いのないグラーケン。触手だけでもあれなのだ。心のどこかで覚悟はしていたのだが、実際対面してみると、そんな想像上の覚悟などどこかへと消えてしまう。

 硬直も束の間、幾度となく見た触手がこちらへと向かってくる。先ほどまでは触手にとっては通路が狭かったためその動きも遅かったが、だがしかしここならば、触手を動かせるスペースは十分に存在する。

 今までよりも数段早い触手による猛突進。それはいつもなら余裕で回避できる程度の攻撃であったが、わずかに反応が遅れた。そしてその遅れは、この場面では致命的なミスとなる。

 

「・・ッ!?なるべくブッ放したくなかったんだがな・・・!」


 俺は即座に己の全エネルギーを拳に集める。


「溜まれ溜まれ溜まれ溜まれ・・・・・!」


 今までのたった数回の使用した感覚を最大限以上で呼び起こし、一気に闘気を練り上げる。そして、火事場の馬鹿力なのか、通常時よりも格段にチャージを短縮することに成功した。


「『闘気波動砲(アーツ・キャノン)』最大出力うぅぅぅぅ!!!!!」


 俺の全てを注いだ一撃は、グラーケンの触手をじわじわと押し返してゆく。そしてそれは次第に先端部分から触手を飲み込んでいき、迫りくる一本のイカゲソを何とか消滅させた。

 放った『闘気波動砲(アーツ・キャノン)』は雷岩魔の洞窟で岩の巨人に放ったそれと同じ威力のはずなのだが、グラーケン本体に対してはあまりダメージが通らなかったようだが、実力差云々ではなく、そもそもの体格差が違い過ぎる。逃げ場のない狭い空間で、小バエと人間が戦うようなものだ。そして言うまでもなく、今の俺たちは小バエ側である。


「レル!!アリヤ!!!一旦逃げるぞ・・!!あれは分が悪すぎる・・・!!」

「え・・えぇ・・・!」

「・・ッ!?タク!!!」

「どうした・・って・・・オイオイちょっと待ってくれよグラーケンさんよぉ・・・!!!」


 ここに来るまでに通ってきた洞窟の道の上部を、グラーケンの消滅させたものとは違う触手が思い切り砕く、それにより上部の砕かれた岩は下に合った道を完全に塞ぎ、逃げ道を完璧に失くす。

 こうなってしまっては、別の道を探さざるを得ない。俺たちは即座に他の逃げ道を探す。


「ダメ!全部塞がれてる・・・!!」

「何か方法は・・・!!!」

「・・・・・もう考えてる時間はないな・・・!」


 いけるのかどうかは分からないが、俺には『身体強化』と『無限スタミナ』がある。何の心配も必要ない。


「レル。ほんの数秒、触手の攻撃に対処してくれ・・・!その間に俺が道を切り拓く!!!」

「・・・分かった。頼んだよ・・!」

「でもタク・・道は全部埋まっちゃったし、一体どうやって・・?」


 アリヤには悪いが、今は説明している暇すらない。俺は意を決し、踏みしめている地面を見つめ、構える。どうやるのかは、見ればすぐにわかるだろう。


「即興技・・『アイザワ削岩拳』ッ!!!」


 ダサすぎる技名は一旦置いておき、俺は地面をとにかく砕きまくる。スキルをフルで使い、更に下へと続く道を今から切り()いていく。

 洞窟で迷ったとき、どうしようもない時は、『アイテムの紐』または『あなをほる』と相場が決まっている。レルも『夜空之宝石(カーメルタザイト)』を用いて迫りくる現在三本の触手を抑えてくれている。今はなりふり構わず目の前の岩を砕くのだ。


「うぉぉぉぉぉぉ!!!!!」


 穴は触手が入れない程度の大きさにしてある。とは言っても、俺たちのサイズならばかなりの余裕がある。グラーケンから身を守ることのできる唯一の安置エリアを即座に掘りぬく。

 

「タク・・これ以上は・・・!」

「十分だ!!二人も急いで飛び込め!!」

「ふんっ!」「やあっ!」


 間一髪、一時的にだが、なんとかグラーケンの魔の手から離れることができたが、まだ油断はできない。

 俺はそこからもどんどん掘り進めて行くが、途中で湧水に当たらないことを祈るばかりである。

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