#54 地下洞窟
落下中にタクと別れた二人も、地下洞窟内部へと到着する。
サイクロプスの亡骸がその重量のおかげか先に落下していたおかげで、地面への直撃を回避することができ、なんとか落下死は免れた。
「つッ・・アリヤ・・・大丈・・・・・夫?」
「う・・うーん・・・」
「~~~ッ!!?」
レリルドはその状況に気づいた瞬間酷く赤面する。
神による奇跡か、はたまた悪戯か。仰向けで倒れているレルの上に、うつ伏せで落ちてきたアリヤが伸し掛かっている。
現在アリヤの体に力は入っておらず、その体がレリルドにぴったりと密着している状態なのだ。上半身には鎧を装備している者の、彼にとってはそんなことはどうでもいいのだ。
彼女の呼吸音を聞くたび、彼の鼓動はどんどん加速していく。
その状態が約五秒の間続く。だがその五秒は、レリルドにとってはかなりの時間のように思えただろう。
「・・・!わっごめんレル!大丈夫!?」
「え!?あ・・う、うん!だ・・大丈夫!!」
「?」
なぜそんなに慌てているのかとアリヤは不思議な顔をしたが、すぐさま真剣な顔へと戻る。
「それにしても、状況は最悪ね。何事もなく地上からこの場所を抜けたかったんだけど・・・タクともはぐれちゃったし・・・」
「・・・うん。そうだね・・・」
ようやく落ち着きを取り戻したレリルドも、この状況を打破すべく思考する。
周囲を見渡す限り、この空間だけでもそこそこの広さがある。近くに魔物はいないようだが、ここはおそらく、グラーケンをボスとした奴らの巣窟。いつ襲ってきてもおかしくはないだろう。
「ここにいても問題は解決しそうにないし、とりあえず移動し・・・」
ドゴォォォォォォオン!!!!!
「「!?」」
突然、二人の近くの岩の壁が側面から砕かれる。二人は咄嗟に戦闘態勢を取るも、舞った砂埃の中から現れたの魔物ではなく、見覚えのある人物だった。
「お、いたいた。無事でよかった。」
「タク!?何でここが分かったの!?」
「あぁ、スキルでちょっとな。」
『魔昌闘波【雷】』の効果により二人のものらしき脳波をキャッチしたタクは、その方向に向かい一度も曲がらずにまっすぐ向かったのである。その間に存在する無数の岩の壁を悉く粉々にしながら・・・
「んでレル、随分焦ってたみたいだけど、何かあったのか?」
「え?い、いや・・なんでもないよ!!」
「?・・まぁいいか。」
まるですべてを見透かしているかのようなタクの言動に内心で相当焦ったレリルドだったが、言及されることはなく、ひっそりと安堵の溜息を吐く。
「何か所かフロアを見てきたけど、この洞窟、場所によってかなり広さや高さに違いがあって、道も結構複雑そうなんだよな・・・いっそのこと地上に戻れたらいいんだが・・・」
タクは腰に手を当てながら、二人が落ちてきた穴を見上げながら呟いた。
「タクならこれくらい難なく飛び上がれるんじゃないの?」
「うーん・・行けると思うけど・・・多分・・・・・ふんっ!!!」
言葉の途中で、タクが大きく飛び上がり、それを二人は目で追いかける。
落とされる前にいた地上まで造作もなく飛び上がったタクだった。が、次の瞬間、二人の目に小さく映るのは、空中にいるタクを真上から狙うグラーケンの触手。
刹那触手に撃墜されたタクは、先程のそれとは比べ物にならないスピードで地の底に戻ってくる。
そのまま地面を陥没させ仰向けになって悶えているタクは、飛び上がる前に言おうとしたことを述べる。
「・・・こ・・こうなる・・・」
「・・うん・・・身を挺して教えてくれてありがとう・・・」
質問をしたアリヤは、タクにそう言うことしかできなかった。
「じゃあ、この洞窟を進んでいくしかないのか・・・」
「どうする?俺が掘り進めて行こうか?」
「その方法だと万が一洞窟が崩れたらおしまいだから、それはもういざってときだけでお願い。」
「分かった。じゃあ行こうぜ。」
そうして再び集結し、三人は道も分からぬ洞窟を彷徨う。ルクシアへ向かう方角はレリルドが覚えていたため、二人は彼に続きその方向を意識しながら着実に進んでいく。
道中、毒を持った蝙蝠、体長が相当に長い蛇、恐竜と見間違う大きさの蜥蜴など、多種多様な魔物が襲い掛かってきたが、ここ数日で急成長した彼らの敵ではなかった、蝙蝠はアリヤによって焼き尽くされ、蛇はレリルドが切り刻み、蜥蜴はタクが打ちのめした。
戦闘においてはかなり順調なものの、探索、移動に関しては進行が悪く、正直進み具合としては、地上を進んでいた時の二十分の一程度のペースだろうか。
「景色も変わらないし、結構精神的に疲れるわね・・・」
「そうだね・・少し休もうか・・・」
「・・・いや、そんな暇はないかもな・・・!」
「何?どうしたのよ・・・ッ!?」
タクのその言葉に、アリヤもようやくその気配に気づく。目の前から迫ってくるのは、間違いなくグラーケンの触手。しかも今いるこの場所の空間では、それを避ける隙が無い。
絶体絶命のこの状況で、レリルドが咄嗟に動く。
「はぁああ!!『夜空之宝石』!!!」
レリルドが生み出した絶対防御の盾により、触手の進行が阻まれる。しかしその抵抗は、そう長くはもたない。
「タク!!!」
「おう!!」
アリヤのその一言に、タクは即座に反応する。側方の壁を破壊し、人が数人入るスペースを作りだす。
「全員ここに飛び込め!!!」
レリルドとアリヤは急いでその空間へと身を投げる。三人全員が入ったことを確認し、レリルドは『夜空之宝石』を解除する。
美しき石の壁が消滅すると、触手は先ほどの勢いで三人の真横を通り過ぎてゆく。
「まさか・・洞窟内でも襲ってくるなんて・・・」
「あそこまで僕たちの場所を的確に察知できるのか・・・」
「多分、あいつの触覚のセンサーの精度が異常なんだろうな・・にしても、こりゃあ本当に休む暇もないかもな・・・」
隣をうねうねと突き進む触手を見つめながら、三人は先が少し不安になる。
ルクシアに辿り着けるのか以前に、この洞窟を脱出し、地上へ戻れるのかが問題となってしまった。そのためには当然、このグラーケンをどうにかしなければならない。
タクの打撃は通用しないし、剣で両断できるサイズでもない。そして、そのサイズすら、今の三人は把握しきれていないのだ。
「考えてても埒が明かないね・・ひとまず、触手が落ち着いたら先に進もう。ここでずっと動かないよりはましだ。」
「そうね。」
「おう。」
その十分後、とうとう諦めたのか、触手はどんどんと引っ込んでいき、穴の奥の暗闇へと消えていった。
「触手が向かった方におそらく本体がいるんだろうが・・どうする・・?」
「あれの本体に無策で突っ込むのはいい考えではないわね・・・どうしようもなくなるまで、あれとの戦闘はなるべく避けましょう。」
「その方が良さそうだね。じゃあ、行こう。」
三人は意を決し、再び地下洞窟内部を歩き始める。あるかどうかも分からないゴールを目指して・・・