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異世界武闘譚~英雄の雛の格闘冒険録~  作者: 瀧原リュウ
第三章 ビギニング・ジャーニー
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#53 笑う狂人

 突如出現したそれに叩き落され落下してゆく最中、真下に現れてしまった地下洞窟へと繋がるその穴が二つに分岐していることに気づいた時にはすでに遅かった。

 運悪く二人と違う穴へと落ちてしまった俺は、特に受け身も取れないまま硬い岩の地面へと叩きつけられた。

 『身体強化』を発動したままだったのが運のつきで、痛みはそこまで感じずには済んだが、それでも食らった衝撃はかなりのものだった。


「いててて・・・一体何だったんだよあれは・・いやそれよりも・・・どうすっかな・・?」


 辺りを見渡す限り、洞窟は相当広い。ここ一帯のフロアだけでもとんでもない広さで、地面の高低差もかなりあり、すべてを探索するのならば一体何年かかるのやら。考えたくもない。

 どうやらエンゲージフィールド全域に広がるという話も嘘ではなさそうだ。雷岩魔の洞窟も相当な広さだったが、おそらくここはそれの比ではない。二人とはなるべく早く合流した方が良さそうだ。


「お・・そういえば、いいもんあるじゃん。」


 それは最近かなり使用頻度の多いスキル『魔昌闘波(ストーン・アーツ)【雷】』に含まれる効果。自分以外の生物の脳波をキャッチできるというものだ。

 このスキルをあの場で獲得していなければ、俺は『ケラウノス』襲撃に気づくことができず、そのまま洞窟内を探索し、その後ゆっくりと歩きながら帰還していたことだろう。

 もしそうだった場合、自分で言うのもなんだが、その被害は実際に受けたものよりも更に酷いものになっていたはずだ。


「よしっ、発動・・って・・!?グッ・・!」


 発動した瞬間、大量の情報が俺の脳内を駆け巡る。頭がパンクしそうになった俺は、反射的にスキル発動を中断した。


「やべっ・・!全然気づいてなかった・・・!」


 俺が気付いたことに感づいたのか、それらは一切に俺の周囲を取り囲む。こちらをつぶらな瞳で見つめているのは、二足歩行のネズミ。

 体毛はまるで苔のような濃い緑色。体長も一メートルは超えていそうなサイズであり、ネズミにしてはかなり・・・いや大きすぎる。

 随分と気配を消すのが得意なようで、俺をロックオンしている二百を超えそうな数のネズミ共は、こちらが気付くまでその存在が一切分からなかった。そして面倒なことに、フロアの奥から更にぞろぞろと押し寄せてきており、早くしないと数は増える一方である。


「けど、こっちも急いでんだ。早く二人と合流したいんでな。速攻で倒す!」


 俺は『身体強化』でネズミを蹴り飛ばしていく。しかし、個体の中にはかなり素早いものや攻撃力の高いものがおり、それがこの数である。これはなかなか想像以上に苦戦を強いられる。


「そんなん今の俺には効か・・・ギィィッ・・!!」


 予想外の激痛に俺は思わず歯を食いしばる。対応しきれなかった内の一匹が、俺の右腕の前腕に齧りついてきたのだ。『身体強化』を発動しているので問題はないだろうと過信してしまっていたのもあるが、その前歯は予想以上に鋭く、そのまま俺の前腕を噛み千切ったのだ。

 損傷した部位は『自己再生』により回復するが、このネズミは個体では大したことはないものの、集団では予想以上。かなり難敵である。


「まず奥から湧いてくる奴から潰す・・!『闘気波動砲(アーツ・キャノン)』!!」


 再び放つ闘気は、フロア奥の洞穴を埋め尽くし、迫りくるネズミの増援を次々と消滅させてゆく。発射後はそこから更に現れることはなく、どうやら最後の一体まで倒せたようだ。

 どうやら、カロナールの犬獣人(ドッグマン)たちのように無限湧きということではなく、単なる自然に生み出された生物のようだ。

 ということはつまり、こいつらはデフォルトでこの洞窟に生息している個体であり、今まで洞窟を訪れた者達もこの途方もない数のネズミと戦うことになったということが分かる。

 俺は自分の持っていたスキルで何とかなっているものの、確実にちょっとした腕試し程度で来るような場所ではないと断言できる。それほどまでに危険な場所であるということを、このフロア、こいつらに実感させられる。


「『闘気波動砲(アーツ・キャノン)』は少しの間クールタイムがあるからな・・・地道に殴るしかないか・・・!」


 今の俺では、新技の『闘気波動砲(アーツ・キャノン)』を連発することはできない。なぜなのかは俺自身も正直よく分かっていないのだが、一、二分程度時間が経たないと撃てないのだ。

 第一射で敵の増援はなくなったものの、それでもまだたくさんの個体がこの場に残っている。しかも割と強い個体ばかりが残っているため、対応に関してはは先ほどよりも少々厄介だ。

 そうこうしている間にも、奴らの前歯に自身の肉を()まれ、群れの中に体が飲み込まれてゆく。


 闘気を集める位置を変えてみたらどうかな?


「!?」


 数分前のレルの一言が俺の脳を走り、刹那閃く。


「うっしゃああああ!!!」


 俺はまず『身体強化』百パーセントで群がるネズミを吹き飛ばす。吹き飛ばしたネズミは再びこちらへ向かってくるが、俺はそれを跳躍で回避する。


「レル・・!そのアイデア貰うぜ・・・!!!」


 そういう俺の口角は自然と吊り上がっている。どんなものでも、新しいことを思いついて実行するというのは楽しいものだ。

 そして、自身の体を空中で広げ、腕をそのままの状態で前に。ネズミに向けられた十本の指先に、全力で闘気を送り込む。初見ながら土壇場で成功したようで、指先には鮮やかな黄色い光が集中している。


「『闘波散弾射撃(アーツ・ショット)』・・・・・」


 十ある光の玉は更に凝縮され、その輝きはさらに増してゆく。ネズミたちはそれを、ただ上を向き眺めることしかできなかった。そしてついに、集結された闘気が指から解き放たれ、光の玉がネズミに向かい放たれる。


「『全闘気解放(フル・バースト)』!!!!!」


 十個の玉は次々と凄まじい速度で分裂し、あっという間にフロア全体を満たすほどにまで至った。何千、何万ものピンポン玉サイズの闘気の玉が、ネズミたちの体を貫通し、肉を焼き尽くす。辺りに響き渡る断末魔は、聞くに堪えないすさまじいものとなった。

 今のタクの感じる高揚感は、何物にも代えがたいものとなっている。イメージを何のストレスもなくそのまま形にでき、彼は最高に気分が良かったのだ。


「ふ、ふふふ・・・ハハハハハハハハ!!!」


 狂気じみたその笑いは、死にゆくネズミに心の底から恐怖を感じさせた。タクのそれはある種の戦闘狂のそれに酷似していたのだ。そしてタクは、そんなこと意識することもなく『身体強化』の発動を解き、落ち着きを取り戻す。


「ふぅ・・・いかんいかん・・つい楽しくなってしまった・・・」


 『穿焔(ウガチホムラ)』の時と言い、今回と言い、このスキルは使用者の精神にまで影響するのだろうか?このペースで使い続けたらもしかしたらやばいかもしれないが・・・スキルが無いと俺はただの一般人。こんな場所ではすぐに死ぬのがオチだろう。


「まぁとりあえず・・・あいつらを探さないと・・・多分これだな。あっちか!!」


 それらしい脳波を感じ取った俺は、すぐさま二人の元へと向かう。

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