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異世界武闘譚~英雄の雛の格闘冒険録~  作者: 瀧原リュウ
第三章 ビギニング・ジャーニー
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#52 触手の襲来

「うおぉ、こりゃまたデカいのが。」

 

 エンゲージフィールド踏破の旅二日目。

 あの戦いの後何度か戦闘はあったものの、特にこれといったことも無く約千キロを移動し、その日は何事もなく終了した。

 そして二日目、エンゲージフィールドの洗礼なのだろうか、初日よりも多くの魔物が行く道を阻んでくる。


「えぇっとアレはたしか・・・サイクロプス・・だったか?」


 今俺たちの目の前にいるのは、五メートルはある単眼の巨人。大木を削りだしたかのような棍棒を持っており、灰色の肉体は、これでもかというほどに筋骨隆々としている。


「中々骨のあるやつが出てきたんじゃない?」

「アリヤー。俺の経験上、あんま調子乗ってるとろくな目に合わないぞー。」

「なんだか、今までの奴らよりも強そうだね・・!」


 サイクロプスは雄たけびを上げ、一目散にこちらへと向かってくる。

 放たれるのは、その大きな図体からは想像もできない、小回りの利いた連撃。


「おいおい・・!こういうやつは大体大振りしてくんじゃねぇのかよ!?」


 そんなタンクみてーな姿しておいてストレングスとアジリティ特化ビルドなんかい!?

 ・・・と、ゲームであれば確実にNPCのサイクロプスに反射的にツッコむ。

 体躯に似合わぬ俊敏な動きに惑わされ驚きはするものの、回避できないことはない。振り始めや突きのタイミングなどを冷静に観察し、何とかその猛攻を掻い潜り、反撃の一手を与える。


「はあぁッ・・!?くっ・・・うわぁ!?」

「ッ・・!レル!」


 レルはサイクロプスの右側面から斬撃を叩きこもうと試みるも、それを察知した奴の右腕の大振りにより阻まれる。

 この異世界はゲームとは違う。魔物に攻撃パターンなど存在せず、的確にこちらへと対応してくる。

 何とか直撃は避けられたものの、後方へと吹っ飛ばされることとなったレルだが、なんとか受け身をとることに成功し、幸い大きな怪我には至っていなかった。


「序盤にしては中々に強敵なんじゃねぇのこいつ?」

「少なくとも、ここまでで戦った奴の中では一番強いわね。ここの地下洞窟にはもっとやばいのがいるらしいし、こんなところで負けてなんかいられないわ!」


 へ?地下のヤバいの?何それ初めて聞いた。

 どうかそんなやつとは出会うことなく、無事にこのエンゲージフィールドを突破したいものだ。


「・・よし!俺もアレ使うか!」

「あれ?あれって何なのよ?」


 そんな存在がいることを知った以上、こんな野郎に時間を割くのがもったいない。トレーニングの方法は実戦だけではない。実戦に勝る鍛錬無しとはよく耳にする言葉だが、それとこれとは別だ。もしエンゲージフィールドから出る事さえ出来なければ、魔神討伐はおろか、こんな魔物の巣窟で世界と共に滅ぶことになるのだ。そんなことになっては悔やんでも悔やみきれない。


「フゥゥンッ・・!!」


 俺は右拳に、ストーンアーツの効果により生み出された闘気を集約させる。それは雷の魔石の如き鮮やかな黄色い光を放ち、握りこぶしの中でエネルギーが溜まっていくと共に、手中で脈打つ速度が速くなっていくのを感じる。


「『闘気波動砲(アーツ・キャノン)』!!!」


 刹那、放たれる闘気の塊。その光はサイクロプスの腹を打ち抜く。


「ガ・・カ・・・カ・・・」


 流石に先の同種合成獣(セーム・ド・キメラ)のように再生することはなく、そのまま一つ目の巨体は前のめりに倒れた。


「「・・・・・」」


 レルとアリヤは言葉を発することも無く、その場で呆然としている。

 二人はこれまでにも、タクが常識はずれなことを行うさまを何度も見てきている。そして、これからはそんなタクと共に魔神討伐へと向かっているのだ。当然自分たちも強くならなければならないし、タクを追い越すつもりでないと、この先ただの足手纏いになってしまうことを二人は理解している。 

 なので、大抵の事ではもう驚かないと心に決めていた二人だったが、まさか魔力を一切持たず、それ故に魔法の使えないタクがビームを撃つなどとは到底予想などできるはずもなかったので、このような反応になるのはもはや必然であろう。


「うん。そりゃあSランク指定されて危険視されても文句は言えないわね。」

「いや、Sランクはともかく、危険人物扱いは納得いかないんだが?だよなレル?」

「これに関しては流石に何も言えないと思うよ。」

「レリルドさん!?」


 いつもなら大抵のことは許容し肯定するレリルドだが、今回は流石にタクの意見を完全否定した。無理もない。あのような高威力の攻撃、並大抵の魔法士でさえ打てるかどうか怪しいのだから。


「・・・そんなことよりタク、今のは一体・・?魔法・・・ではないんだよね?」


 レルが突然真剣な顔でこちらを見つめながら問いかけてくる。


「あ、あぁ。『魔昌闘波(ストーン・アーツ)』っていう、新しく獲得したスキルの効果の一つを応用した技だ。溜めた闘気を前方に一気に放つ技だ。もうちょっと慣れれば、いろんな形に応用ができそうだろ?」

「・・・うん・・うん!そうだね!師匠も戦いに闘気を応用していたし、闘気をもっと操れるようになれば、多分更に身体能力を上げたり、闘気を散弾銃のように放ったり、闘気で近接武器なんかも・・!」

「いいなぁそれ!!」


 流石は武器オタクのレリルドさん。漢のロマンというものを十二分に理解していらっしゃる。生まれた世界は違えど、エネルギー波というものは、男ならば誰しも憧れる者なのだ。

 もちろんアリヤに関しては、「意味が分からない」といったような表情で俺たちを見つめ、ただ無言を貫いていたのだが。


「闘気を集める位置を変えてみたらどうかな?今は掌だけど、指先とか、あと・・肘とか!相手の意表を突けるかも・・・!」

「なるほど・・・さては天才だな?」

「フッ・・英雄殿にそう言われるとは・・・光栄だね。」

「「アハハハハハ!」」

「・・・はぁ・・・・・」


 とうとうアリヤが話に一歩も付いていけなくなった頃、事態は一変することになる。


ゴゴゴゴゴゴゴ・・・!!!


「ん?なんだ?地震か!?」


 辺り一帯で突如発生する大きな地震。その揺れは大きく大地を揺らす。


「いや・・これは・・・!」

「何か来るわ!気を付けて!!」


 そして、それは、サイクロプスの死体の先から現れた。

 地面から姿を現したのは、アスファルトのような色をしたあまりにも大きすぎる触手。それには吸盤がびっっっしりとくっついており、その長さは、地上に見える分だけでも高層ビルを遥かに超えていた。


「な・・なんじゃありゃあ!?タコ!?」

「・・・ま、前に師匠から聞いたことがある・・・エンゲージフィールドの主、岩石の山をを柔らかい土のように抉り取る触手を持つ、このエリア最強の化け物・・・グラーケン・・・ッ!!」

「イカかよ!!!」

「そんなこと言ってる場合じゃないでしょうが!!って・・きゃあっ!?」


 こちらへと向かって、グラーケンとか言う生物の触手が振り下ろされる。あのような質量の攻撃を食らえば流石にこちらもひとたまりもない。


「ッ!?『身体強化』百パーセント!!!うらぁぁぁぁああ!!!!!」


 咄嗟に俺は飛び上がり、触手に向けて全力で拳を放つ。伝わってくるのは、信じられない程の弾力。それにより拳の威力を殺され、触手の返り討ちに合った俺は、そのままの勢いで地面に叩きつけられる。

 そして、地面に衝突するとともに、地盤が崩れ、そのまま周囲の地面が陥落する。


「「タクッ!!・・・うわぁぁぁぁぁぁ!!!?」」


 同じセリフを叫んだレルとアリヤもその場にて巻き込まれ、俺たちはサイクロプスの死体と共に地の底へと落下してゆく・・・・・

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