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異世界武闘譚~英雄の雛の格闘冒険録~  作者: 瀧原リュウ
第三章 ビギニング・ジャーニー
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#51 残る者の決意

 そして、すぐさま真剣モードに切り替えたダリフであったが、以前背中に携えた大剣を構えることはない。ダリフは分かっているのだ。これを抜いたら殺してしまうと

 ドゼムを許すことは到底ないものの、今は少しでも多くの情報が欲しい。

 最近立て続けに起きている異常事態。獣人の大量発生から始まり、魔神暴走の予兆。英雄の雛の出現。今まで名前を聞く程度であった『カースウォーリアーズ』による襲撃。そして新勢力『ケラウノス』。

 ダリフには、これが単なる偶然とは思えなかった。今は情報が無いが、この世界のどこかで、更にアリンテルドと同じような事態になる場所もこれから出てくるだろう。

 ここ近年で、この世界は新たな方向へと進むことになる。ダリフはそう確信する。

 だが、現状、『カースウォーリアーズ』や『ケラウノス』などに関しての情報があまりにも少なすぎる。もしこの男がそれを持っているのだとしたら、ここで簡単に切り捨てるわけにはいかない。


「『身体能力強化』・・・!」


 ダリフは再びスキルを発動する。現在のタクを優に超えるその闘気は、大地を揺さぶり、空気を震わせ、相対する生物を恐怖に陥れる。

 暴走し襲い掛かる群衆を真正面から突き抜ける。敵はダリフの闘気の圧に耐えられず、ただ吹き飛ばされるのみ、そして再び起き上がった奴らの注目する相手は、ダリフではなかった。


「貴様らの相手は私だ。かかってくるがいい。」


 フレイリアは、普段は腰の剣一本のみで戦ったとしても十分な戦闘能力を有しているので、わざわざ『火焔武装(フレイムアームズ)』で二本目を出すことはないが、今回は少々自分一人に対し約五十の暴走戦士達。剣一本では流石のフレイリアでも少々分が悪かった。だが彼女は、その二刀流の剣技で、多対一の戦いも得意としている。故に、この程度の量であればさほどの脅威ではないのだ。


「ウアアアアアア!!!!」

 

 暴徒と化した武装集団が、ダリフに構うことなく四方八方からフレイリアに襲い掛かる。(ひし)めきながら向かってくるその姿は、まさに狂気の沙汰。


「護りの型『パリィ・ディレクション』!!」


 フレイリアは腰を落とし、向かってくる斬撃、刺突、殴打などを全て剣二本で捌いていく。

 この間、彼女は後方の攻撃を見ずともそれを完璧にやってのける。敵の武器に籠る殺気を的確に感じ取り、それに対応するまさに神業。

 近衛騎士団で過酷な修練を積み、感覚を研ぎ澄ませ会得した、彼女の努力の賜物。

 炎を纏う一本の剣、そして一本の剣の姿をした紅蓮の炎。

 それらは攻撃を弾くとともに敵を確実に焼いていく。


「・・・最終的には、貴様らが選択した道だ。今更悔いても遅い。効果が切れ生きる屍と化すだけなのならばせめて・・・後悔する前に、私がこの場で骨の髄まで燃やし尽くす・・・!!!」


 フレイリアはその場で凄まじい回転切りを見せる。襲い掛かる者達は、彼女から距離を取らざるを得なくなった。

 そして、この一瞬の隙で、フレイリアは自身の魔力を最大限練り上げる。

 フレイリアを中心に、大地に広がるのは巨大な魔法陣。それは武装集団を軽々と飲み込む大きさであった。


「安らかに眠るがいい・・・『天国への光炎(ヘヴンズフレア)』!!!」


 魔法陣の上に立つ者を平等に焼き尽くす広範囲攻撃魔法。それは彼女もろともを焼き尽くさんとする爆炎。

 ならず者が薬の効果でどれだけ強化されたとて、この炎には抗うことすらできず、もれなく全員骨すらも残らず灰燼と化した。

 一方、フレイリアは何事もなかったようにその場に立ち尽くす。その表情はどこまでも凛々しく、辺りにいまだ燃え盛る炎は、その美しい顔立ちを更に引き立たせる。

 彼女の防具には、『炎属性無効』という、最強クラスのスキル付与(エンチャント)が施されており、自身の炎によるダメージの心配など必要のないものだった。


「腕を上げたなぁフレイリア!」

「小父様・・ふふっ・・流石、ですね。」

「カ・・カカッ・・・」

 

 ダリフが首根っこを掴んでいるのは、先程まで威勢の良かったドゼムであった。


 群衆を抜けた後、一瞬にも満たない速度でダリフはドゼムの懐に入る。そしてそこから、奴の体の肺が存在する部分二か所に右手の指をそれぞれ当て、そこから軽く衝撃を加える。

 だが、軽くと言ってもそれはあくまでダリフ基準の軽く、である。言わずもがな耐え切れなかったドゼムは呼吸困難に陥り、自己回復を試みた者の、子猫のようにダリフに首根っこを掴まれ、完全に逃げられなくなってしまったのだ。

 そこからダリフはフレイリアの戦いぶりを、子供の参観日に来た親のように眺めていたのだ。


「お前こそ、流石騎士団長様だな・・・本当に強くなった。お前も、アリヤも。」

「もう、何もできなかったあの頃の私とは違います。そして、それはアリヤもでしょう。あの子たちなら・・きっと大丈夫です。帰ってくるって約束したんですもの。」

「・・・あぁ。そうだな。」


 正直なところ、軽いノリで話していたダリフにも、心配していた部分はあった。世界の恐怖の権化とも呼べるその存在に、彼らは立ち向かうことができるのかどうか。

 だが、子供の成長というものは、自分たちが思っているよりも、圧倒的に速いものだ。何も心配することなどない。ただ信じて待つことしか、()()ダリフには出来ないのだから。

 とはいっても、待つのはダリフの性分では毛頭ない。アリンテルドには、まだ多くの問題が山積みになっている。久しぶりに、本気で戦うときは、もう間近にまで迫っているのかもしれない。


「・・・フレイリア。ヴォルト城地下の、使用禁止になっている拷問部屋を解禁しろ。こいつには洗いざらいはいてもらわなきゃならねぇ・・・!」

「!?・・わ・・・分かりました。」

「ヒィィィッ・・・・・!あ・・あぁ・・・!!」

 

 ダリフはギロリとドゼムの眼を睨みつける。もうドゼムに救いの手が差し伸べられることはない。

 

「これから本格的に世界の闇を暴く。タクたちが魔神を倒してくれたのならば・・・()()()()()。ついてくるか?」

「・・・えぇ。どこへでも。」


 ダリフたちは、タクを見送った後、自分たちも新たなる決意を胸に、ヴォルト城へと戻る。

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