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異世界武闘譚~英雄の雛の格闘冒険録~  作者: 瀧原リュウ
第三章 ビギニング・ジャーニー
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#50 裏切者

タクたちを見送り、彼らの姿も見えなくなった頃。ダリフとフレイリアは、ただ黙って立ち尽くす。その表情は、少なくとも穏やかではない。


「・・・おい。そろそろ出てきてもいいんじゃねぇのか?」

「姿を消したとて意味などない。時間の無駄だ。とっととかかってくるがいい。」


 フレイリアも騎士団長モードに入ったところで、姿を隠していた武装集団が一斉に現れる。数としては約五十人ほど。表情は全員がニヤついており、自分たちが負けることなど微塵も思っていないというような様子であった。


「首謀者はあんたか?ドゼム大臣殿?」


 ダリフが誰もいないかのように思われた方向に声をかけると、そこから一人の男。スーツを着た老人が、さながらカメレオンが擬態を解くかのようにゆっくりと姿を現す。

 この男の名はドゼム・ラベック。アリンテルドの国務大臣であり、人格者として有名だが、裏では悪い噂が絶えることがない。以前ダリフに魔神暴走が近づいていることを口外すれば打ち首だと言った人物こそ、まさしく彼なのである。


「ひっへっへ・・・まぁ、流石にばれるわな。」

「ドゼム殿。なぜこのような無意味なことを?」


 フレイリアが問うと、ドゼムは突如しわがくっきりと見える顔を険しくして叫ぶ。


「貴様ら・・よくも何の悪びれもなく異端の者達に加担しおって!我らがアルデン様の御意思に背く愚か者どもが!」

「いやいや大臣殿。あんたアルデン様が直々に鉄槌を下すとか前に言ったがな、そのアルデン様がそのためにこの世界に呼び出した英雄の雛があのタクなんだよ。そりゃつまり、アルデン様の意思には何も反していないじゃねぇか。ちょっと話がずれてんじゃねぇのか?」

「それもあるが・・儂が今言っているのはまた違うこと・・・このアリンテルドから、二人も異端の者を輩出したことだ・・・!!!」

「何を言うのですドゼム殿・・?二人は英雄の雛の眷属として・・・」

「あの話の中に、英雄の眷属などおらぬわ!・・・この世界がどのような結末を迎えたとしても、それはまごうことなき我らがアルデン様の御意思であるということがなぜわからんのか!!?ダリフの弟子とやらも、フレイリアの妹も、そして貴様らも!揃いも揃って大馬鹿者じゃ!!貴様らッ!!この恥さらしどもを始末しろ!金に糸目は着けん!くれてやった()()もいくらでも使って構わん!我らがアルデン様のために、なんとしてでも八つ裂きにするのじゃぁぁぁぁ!!!」


 そうドゼムが叫ぶと、周りの連中が血気迫る顔で襲い掛かってくる。


「この過激派ジジイが・・・てか、俺らの事舐めすぎなんじゃねぇの?」

「全くもってその通りですね・・・アリンテルド近衛騎士団長フレイリア・ノバルファーマ。捕縛、連行のため、これより一時的に、貴様らを戦闘不能にさせる。覚悟しろ。」


 フレイリアはそのように宣言すると、腰に携える己の剣を抜き放つ、それに対してダリフは、自身の眼前で拳を握り構えるのみ。


「・・?小父様?剣を抜かないのですか?」

「タクの真似事だよ。拳のみで戦うってのがどんなもんか、気になってたんだよな。」

「・・・どうやら、私の出番は無さそうですね。」


 剣を抜いた直後だったフレイリアだが、ダリフの表情を見るや否や、諦めたような笑顔で鞘に剣を収める。このようにワクワクしているときのダリフは、だれにも止めることは出来ない。相手は()()()()五十人。フレイリアが手を出す暇もないだろう。

 だがこうしている間にも、集団はこちらの命を刈り取るべく確実に近づいてきている。


「・・・『身体能力強化』。」

「グッ・・ぐあああっ!!」


 ダリフがスキルを発動すると、その覇気()()で目の前まで迫っていた者は次々と後ろへと吹き飛ばされる。

 

「うっしゃあああああっ!!!」


 ダリフは事実に楽しそうな顔で集団を次々と叩きのめしていく。やられていく全員がダリフの攻撃を視認することすらできず、訳の分からぬままその場で倒れることとなった。ダリフが全員倒す間に経過した時間は、僅か一秒未満であった。


「ふぅむ・・・中々楽しいじゃねぇか!」

「それは何よりです。小父様。」


 フレイリアはそれはもうおしとやかに微笑む。


「貴様ら・・!もう勝ち誇っておるのか?まだ早いわ!!」


 ドゼムは両腕を上げ、詠唱を始める。


「あぁ我が偉大なる神よ!この願いを聞き届けたまえ!ほんの僅かな天の恵みを、その万物を癒すその光を、愚かなる我らに、慈悲の御力を!『完全回復(フルヒール)』ッ!!!」

 

 地に倒れる者達に、優しさの溢れる緑の光が降り注ぐ、その光はみるみると傷を癒し、骨を修復し、再び彼らを立ち上がらせる。


「そういや、こいつ回復系の上位魔法士だったな・・・」

「えぇ。だが何度回復しようと実力差がありすぎる。大人しく捕まれば、更に痛い目に合わずに済んだものを。」

「・・・甘い。実に甘い・・・貴様らァ!あれを使えぇぇい!!!」


 ドゼムの掛け声に合わせ全員が取り出したのは、一粒のカプセル剤。半分が黒色、もう半分が紫色のそれは、明らかに通常見る薬とは違うものだった。

 それの存在にいち早く気付いたダリフは、焦りを見せその場の者全員に聞こえるような大声で叫ぶ。


「やめろ馬鹿共!!ソレの副作用を知らねぇのか!?」


 だがダリフの叫びは時すでに遅く、言い終わるころにはすでに敵の全員が服用を終えていた。すると突如、全員からオレンジ色のオーラが・・と思いきや、その色はすぐさま黒へと変貌し、それらの喉は自我を無くしたかのように唸り声を上げ始める。


「・・小父様、あれは・・・?」

「・・・アンロックブースター・・最近裏で浸透し始めてる危険薬物だ。『アシュラ(うち)』でもかなりの数取り締まったが、いまだに絶えることはねぇ。使えば服用者本来の実力の十倍以上の力を出せるが、効果が切れるとそいつらは・・・例外なく全員が廃人になる・・・」

「なっ・・・なぜそのようなものをドゼム殿・・いや、ドゼムが持っているというのだ!?答えろ!!」


 フレイリアは再びドゼムの方を向くと、更に事を問い詰める。向いた先で目が合った奴の顔は、不敵な笑みを浮かべていた。


「ヒェヒェヒェ・・・貴様らを確実に殺すために、あの方たちから特別に頂いたのだよ・・・これで儂は、邪魔者を排除し、アリンテルドの裏の世界を牛耳る・・・そして徐々に規模を拡大し、理想郷と化したこの世界を、我が崇拝するアルデン様に見ていただくのだ・・・!」

「ふざけんなよジジイ・・テメェの気色(わり)ぃ思想如きのために、大勢を捨て駒にしやがって・・・こいつらもどうせ、テメェが鎌掛けて後戻りできなくなった奴らだろうが・・・!」

 

 ダリフはドゼムを鬼の形相で睨みつけ、静かに怒る。


「テメェに、大臣として国の未来を見据える資格なんて到底無ェッ!!・・・フレイリア。()()の間雑魚を頼む。安心しろ。殺しはしねぇ・・・」


 そのこと言葉の意味を理解したフレイリアは、迷うことなくダリフの指示に従う。


「分かりました。()()・・・ですね?」


 フレイリアはドゼムを心底哀れに思う。このアリンテルドでどんな策を練り、どんな実力者を何百人引き連れても、ダリフ・ドマスレットという男に勝てる人間など一人もいないのだから。

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