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異世界武闘譚~英雄の雛の格闘冒険録~  作者: 瀧原リュウ
第三章 ビギニング・ジャーニー
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#49 エンゲージフィールド

 かなり予定から遅れてしまったが、俺たちは無事にアリンテルドを出発した。

 以前ダリフ聞いた情報によれば、魔神は、森にいた獣人の本来の生息地ニンドのさらに奥、世界の果てのような場所におり、そこへ行くためにはいくつか国を超える必要があるようで、道のりはかなり長そうだ。

 俺たちは出発してから数時間歩き続けており、それだけ歩くと自然と周りの景色も変わってくる。

 辺り一面に広がるのは、青々とした美しい平原。照り輝く太陽は、その鮮やかな色を更に引き立たせる。いたるところにいる動物たちは、この大自然の中気ままに駆け回っている。ここ地位小鳥のさえずりが心を落ち着かせ、驚くほど綺麗な水の流れる川は、見ているこちらの心が浄化されるようだ・・・・・


「とかだったらよかったのにな・・・」


 ちなみに今までのは、単なる俺の妄想である。実際の現在地の様子を説明していこう。

 緑などという心を落ち着かせるものなどは一切なく、周りを見渡す限りゴツゴツとした岩の山がいくつも存在する。

 太陽なんてものは俺の視界にはない。真っ暗なわけではなく、空一面が曇っており、温かみの『あ』の字もない。

 そして動物・・・バケモンと言った方が正しそうだ。見るからに異形の猛獣がいたるところで居座っており、中には縄張り争いのような乱闘を繰り広げている奴もいる。

 空を飛び交うのは、えーと・・怪鳥?プテラノドン?羽が四から六つある全体的に細長い形状をした何か。兎にも角にも、ここには俺の知っている動物というものはいなかった。

 綺麗な川?そんなものはないよ?川どころか水の一滴もこの辺りには存在していない。強いて言うなれば、猛獣が乱闘によって負った傷から流れ出て形成された血だまりくらい・・・・・


「なぁ・・ここって国なの・・・?」

「・・いいえ。ここは国じゃないわ。ここはエンゲージフィールド。訪れたら二度と帰れないと言われている場所よ。」

「アリンテルドでは、言わずと知れた危険地帯だよ。腕試しに行った人たちは、全員消息不明になってるんだ。」


 この場所は、名目上は中立地帯ということなのだそうだが、そんなことどうでもいいほどにはやばい危険なエリアなのだそうな。

 同じような景色が辺り一面に広がり、方向感覚を狂わせられ、最終的には二度と出られなくなる。そして一帯にうじゃうじゃいる異形の魔物。これがなかなかに強いそうで、上級冒険者でも下手をすれば命を失うこともあるのだとか。更には地下に、エンゲージフィールド全域に広がるであろう入り組みに入り組んだ洞窟もあるというおまけつき。

 一度来たのならば二度と戻れない。つまり、ずっとここから離れられない。だからエンゲージという名が付いたのだろうか?


 今更だが、アリンテルド共和国は、世界地図の左下の角に存在する国で、上には謎の障壁などのせいで絶対に越えることのできない山脈。左と下は海なので、あの以前は強い魔物もおらずとても平和だったそうなアリンテルドの中で、アルデン教とやらの教えを破らずに実力試しをやるには、必然的にここに来るというわけだ。しかし、今から数十年前ほど前に、行方不明者があまりにも多く出たため、訪れる事自体が法律で禁止されたそうな。


「次の目的地は確か・・・ルクシア王国・・だったか?そこまで行くのにどのくらいかかるんだ?」

「そうだね・・・一日千キロ進むとして・・・二週間くらいかな。」

「せっ・・・」


 一日千キロ。そんなことを言われれば流石の俺でも絶句する。

 いきなり千キロと言われてもピンとこない者もいるかもしれないので分かりやすく例えると、大阪と札幌を繋いだ直線距離位である。マジすかレリルドさん。

 正直舐めていた・・よくよく考えてみれば、国を自分たちの足で渡ろうとしているのだ。当然この世界に自動車や飛行機なんてものは存在しないし、アリンテルドもあまりいろんな場所へは行っていないものの、他にも多くの街や村、魔物の出る場所があるそうだし、このアリンテルドとルクシアの間に位置するこの場所も、地図だけ見れば面積はアリンテルドよりもたった一回り小さいだけのようだし・・・


「てことはざっと一万四千キロぐらいの長距離移動ってわけか・・・」

「そうね、それに、途中魔物が襲ってくるだろうし、いくつも山を越えなければいけないだろうし、道も開拓されていないから結構迷うこともあるだろうし・・・ま、頑張りましょ。」

「・・・そうだな。初っ端で心折れてても仕方ねーし。とにかく進むか!」


 ダリフは言っていた。冒険を楽しめと。ならば、この一般常識的に過酷すぎるこの状況も楽しんでやろうではないか。

 

「おらぁ!!」

「やあぁっ!」

「・・・ッ!」


 それからというものの、近くにいた魔物達が、俺たちを餌と判断しやがったようで、一斉に襲い掛かって来たのだが、先の戦いと、それぞれの優秀な新装備の力でそのことごとくを返り討ちにしている。

 装備を揃えた後に知ったのだが、二人の装備には例のスキル付与(エンチャント)が付いているらしく、その装備自体にスキルが備わっており、装備に魔力を流すことによってそのスキルを使用することができるそうだ。

 そんなものがあったとは!と思ったが、詳しく話を聞いてみると、どうやら使用するためには装備に自身の魔力を通す必要があるらしく、それすなわち、俺が持っていても完全なる宝の持ち腐れとなってしまうことになる、ということだ。

 というわけで、今となっては全く羨ましくなど思っていない。どちらかと言えば、魔力がある方がこちらとしてはものすごく羨ましい。

 アルデンもスキルの前に魔力くれればよかったのに・・・いや、奴はこの世界には魔法が無いって自分で言っていたな・・?さては無能か?アイツ?


「てかレル・・また一段とえげつなくなりおって・・・」

「このコートのおかげだよ!これがあれば、戦略の幅がグッと広がるよ!」


 今レルは両方の前腕に、獣人戦でも使っていたガトリングガンを取り付けており、弾数は以前の倍。魔法で作っているからなのかリロードも必要とせず、かれこれ五分以上ずっと撃ち続けている。

 文字通りの弾丸の雨を食らい、その場の魔物にとってはひとたまりもなく、次々と倒れていった。


「ふぅ・・・流石にこの状態で動くのはまだ無理だけど、すぐに慣れてみせるよ!」

「私も負けてられないわね!」

「それ絶対街中で使うなよ!?」


 アリヤさん、俺の時はかなりツッコんでくる印象だったのに、レルの場合は何というか・・・切磋琢磨してる感が凄い。

 いや、実際にこれまでも切磋琢磨してきたのだろうが、そうじゃなくて、普通驚くとこなんすよ?それ?


「あ、タク、よかったらでいいんだけど、雷属性の魔石まだ持ってたらくれない?新しい技を考えたの。」

「え?あ、あぁ。」


 心の中でアリヤ話しかけていると、彼女が突然そんなことを言ってきた。

 言われるがままに余っていた雷属性の魔石をアリヤに渡すと、レルに負けじと魔物の集団の中に飛び込んだ。


「ふんっ!」


 アリヤは魔石をその場で上に放り投げ、腰の剣を武器放つ。空中で魔石を剣で砕いた直後、アリヤの剣の刀身が雷を纏う。


「あぁ。あれが本来の使い方か。」

「え?あれ以外に使い道ってあるの?」

「あの洞窟の魔石片っ端から食いまくったら雷効かなくなるぞ。」

「食っ・・!?・・・そんなことするのはタクだけだと思うよ・・・」

「何話してるのよ?ちゃんと見ててよ・・ねッ!!」


 アリヤは自身の剣を地面に突き刺す。そこから刀身に纏わりついていたエネルギーが解放され周囲に拡散されていく。周りの魔物が例外なく感電するのも束の間、放電された死人可能な雷の色が黄色から赤に変わり、その後炎が雷と共に弾ける。


「『火焔煌雷(フレイムスパーク)』ッ!!!」


 炎と雷によるえげつのない範囲攻撃は、容赦なく魔物を飲み込み、その全てはあっという間に黒焦げになってしまった。


「やった!大成功!」


 大量の炭と化した魔物の残骸の中心で無邪気な少女のようにはしゃぐアリヤ、その絵面は、なかなかに狂気じみていた。


「いやぁ・・・二人とも、俺なんかよりよっぽどやばいんじゃ・・・」

「「それはない。」」

「なぜ即答!?」


 そんなこんなで、魔神討伐を目指す旅は、中々好調な滑り出しであった。

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