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異世界武闘譚~英雄の雛の格闘冒険録~  作者: 瀧原リュウ
第二章 エボルブ・ブルード
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#48 旅立ち

「あの人達俺らと話すより自分たちが言い合う時間の方が長かったんじゃねぇの・・・?」

「あはは・・戦ってる時の連携はアリンテルドでも随一って言われるくらいなんだけどね・・・」


 あれか?仕事とプライベートは別的な?まぁ何はともあれ、あれだけ言い合っているのだから、仲は悪くないのだろう。

 一応ちゃんと報告もしたし、最初に言っていた目的は達成した。


「他に言っといた方がいい人とかっているか?」

「うーん・・・冒険者協会の人には言っておいた方がいいかも。他の国の協会とも繋がってるし、他の国で騒ぎにならないためにも、報告はしておいた方がいいかもしれないわね。」


 各方面に魔神討伐へ向かうことを説明する本来の目的はあいさつ回りではなく、俺たちが急に消えたことによって騒ぎを起こさないようにするためである。

 昨日のクルーシュス達の件もあるので尚更である。そして何度でも心の中で声を大にして言うが・・・これに関してダリフは一切信用しない!!!


「でぇぁぁぁっくしゅッ!!!!!」

「む?風邪かねダリフ君?君がくしゃみなど珍しい。」

「誰かに噂されてるのかもしれませんね。ダリフ殿が風邪など到底考えられませんし・・・」

「ふむ、それもそうだな。」

「いやいや・・いくら俺でも風邪くらい・・・いや・・そもそも病気に(かか)ったことねぇな?」

「ははは・・・そんな感じがしますよ。」


 俺たちはしばらく歩き、先日も訪れたアリンテルド冒険者協会に再びやって来た。

 昨日の爆発の嵐を何とか乗り切ったようで、建物には奇跡的に壁に穴が開いたりなどの被害も全く受けていなかった。

 

「おっす、オラタクウ・・・っと。」


 建物の中には、大勢の避難民が集まっていた。家を破壊された者も、恐怖が抜けきっていない者もいるようで、ヴォルト城ほどではないが、ここにもかなりの人数がいる。

 辺りを見回していると、後ろに一纏めにした髪を揺らしながら、一人の女性がこちらへと走ってやってくる。どうやら先日受付にいた人のようだ。


「皆さん!ちょうどいい所に!・・・コホン。アリヤ・ノバルファーマさん。レリルド・シーバレードさん。そして・・タク・アイザワさん。会長のフラストの方からお話があるとのことですので、よろしければ奥の会長室へとご案内いたしますが、よろしいでしょうか?」

「冒険者協会の会長?」


 俺何か悪いことしたっけ・・・と思ったが、どうやらここ最近の戦いの件で聞きたいことがあるようで、俺たちが丁度協会にやって来たので呼び止められたそうだ。


「はい。俺たちは構いませんが?」

「ありがとうございます。それではこちらに。」


 特に隠していることも無いし、こちらも割と上の役職の人にでも報告しておこうと思っていたので、会長と話せるのならばむしろ好都合である。

 案内されやって来た会長室は、建物の部屋の中でもかなり広く、白を基調とした豪華でありながら目に優しく、清潔感の溢れる内装だった。

 そんな部屋の中央にある客人用であろう椅子に座っているのは、高齢ではあろうがかなり若々しさが目立つ白髪の男。穏やかな顔つきをしており、その身はスーツを纏う。流石は一組織のトップというべきか。そのオーラは中々のものだ。


「おぉ。よく来たな若者たちよ。さぁさぁ、そこにでも座りなさい。」

「し、失礼します・・」

「「失礼します・・・!」」


 俺に続いて、二人も会長の正面にある長椅子に腰かける。


「わざわざありがとう。私はアリンテルド冒険者協会の会長、フラスト・ホーネットだ。君たちの活躍は最近よく耳に入っているよ。」

「はぁ・・ありがとうございます。それで・・どういったご用件で?」

「うむ。単刀直入に言おう。タク・アイザワ。私を含む冒険者協会は今、君を重要危険人物に認定している。」

「・・・え?」

「タクが危険人物・・ですか?」

「出身、経歴、能力、すべてが不明。おそらく全世界初であろう魔力炉の持たぬ人間。Sランク冒険者、ダリフ・ドマスレットとやりあえるほどの力。おまけに英雄の雛の証である『進化之石板(アドバン・スレート)』を持っているとの情報も入ってきている。タク。表向きでは君のランクはBとしているが・・裏ではそうではない。世界でも類を見ない『特別指定Sランク』・・・その気になれば、国一つなどすぐにでも滅ぼせる力を持っていることを示すもの。それが、現時点での君の評価だ。」

「タクがSランク・・!?でも・・・実際ありえない話じゃないわ・・・!」

「そりゃあまぁ随分と話が飛躍してるこって・・・」


 ダリフと戦えていたのはあくまでもスキル『神の第六感』のおかげであり、実際に戦えば瞬殺だろう。

 だがまぁ、『自己再生』も有しているので、死ぬことはない。その点で言えば、ゾンビ戦法でもやれば国を滅ぼすこともおそらくできないことはないだろうが・・・正直、他の国にもSランクの実力者はいるだろうし、こちらとしてはできる気は全くしない。というか、そんなことをするやる気など毛頭ないのだ。


「簡潔に問おう。タク・アイザワ。君の生い立ちを、そして、その力で何を成すのかを。」

「・・・・・」


 最近、こんな質問多いなぁ。

 それが俺の率直な感想である。勿論向こうからすれば聞かない方がおかしいのであろうが、俺はこの数日間だけで何回同じことを聞かれ、同じように答えねばならんのだ。正直そう思う。よーし・・・

 

「我は地球ッ!日本よりこの地に舞い降りッ!この世界を滅ぼさんとする大いなる魔をッ!我が断罪の拳でグハァッ・・・」

「会長が真剣に聞いてるんだから真面目に答えなさい!」

「す・・すいません・・・」


 流石にふざけ過ぎたのか、隣からアリヤの拳骨が容赦なく振り下ろされる。流石にもう一度同じことをやる度胸は持ち合わせていないので、俺は素直に、アルデンに転移させられた経緯と、魔神討伐へ二人と向かうことをかなり細かく説明した。


「・・・という感じです。ですので、俺たち三人は、明日の明け方、この国を出ます。」

「ふむ・・・なるほど。大体わかったが、明日とは随分と急だな・・・」

「まぁ、当初の予定だともっと早かったですからね。ここ最近いろいろありましたし、装備等も新たに 調達していたものですから。」


 流石に俺とて拙くはあるが丁寧語くらい使える。俺はその言葉遣いをなんとか崩すことなくほとんどの質問に答えることができた。


「・・・・・クルーシュス達に関しても、俺が分かるのはそれくらいまでですかね。次は絶対負けませんけどね!」

「なるほど・・・貴重な情報をありがとう。君にも敵意は感じられなかったし、これからも友好的な関係を築けたのならばこちらとしても嬉しい。魔神討伐・・この世界の誰もが一度は考え、そしてすぐに諦める。普通に考えれば、神に挑むなどあまりにも無謀だからだ。だが・・・君たちのその覚悟は、私にも十二分に伝わっているよ。この先、何がどう転ぶのかは私には分からないが・・・どうか頑張ってくれたまえ。」

「「「はい!!!」」」


 こうして、一悶着あったものの、無事に冒険者協会への報告も完了した。

 気が付けば時間はどんどん過ぎていき、今日という日はあっという間に過ぎ去ってゆく。それが一生記憶に残る日だろうと、今すぐに記憶から消し去りたい日だろうと、時間は平等に流れ、そして世界は変化を続ける。

 旅立ちの朝。これは、これから大きく変わる世界の第一歩。なびく風は、背中を押す順風となるか、はたまた行く手を阻む逆風となるか。


「お前らは今から真の意味での冒険に足を踏み入れようとしている。それは決して甘い道じゃねぇ。苦しみ、挫け、全部を投げ出したくなる時もあるだろう。だが、それはもう許されない。ならばどうするか・・・・・全力で楽しめ!冒険ってのは楽しむもんだ。それがたとえ、相手が魔神だとしてもな!楽しんで強くなれ!魔神をぶっ倒した後、俺の最強に引導を渡せる位にな!」

「みんな・・・頑張ってね・・・!!」

「はい。俺はたまに状況を伝えるために戻ってくると思うんで、よろしくお願いします。」

「もっと強くなって、師匠を驚かせてやります!」

「お姉ちゃん、小父様、どうか元気で!」


 見送りに駆け付けてくれたダリフとフレイリアは、笑顔で俺たちを見送る。


「お、そうだタク。お前に言っておきたいことがあるんだ。」

「言っておきたいこと?」

「例の英雄の話だ。この間ふと思い出したんだがな。その英雄は話の中でこんなことを言うんだ・・・」


 拳は矛。どのような相手であろうと貫き、戦いを制す、絶対なる武器。

 拳は盾。あらゆる攻撃を弾き、いなす、絶対なる防具。

 拳は力。どんな思いも感情も乗せて放つことができる、絶対なる思いの力。

 拳を握り戦い、拳をふるい悪を討ち、拳をもって平和を築く。

 我、最強の武闘王【拳豪(けんごう)】なり。


「・・・拳豪?・・剣豪じゃなくて?」

「その英雄は武器を持たずに戦ってたみたいだな。まぁ、ガントレットを着けているっていう説もあったみてぇだが。もしかしたら、お前もそんな英雄みたいになるのかもな。」

「・・・さぁ、どうだかな。」

 

 自分を世界を救う英雄なんかだとは、正直これっぽっちも思っていない。英雄というのは、なろうと思ってなれるものではないのだ。

 ただ俺は、強くなって、魔神を倒して、アルデンをぶん殴る。今はただ、それだけでもいい気がする。


「よし、それじゃあ・・・」

「「「行ってきます!!!」」」


 そして、俺たちはこの日、初めてアリンテルド共和国を出る。この先に広がるのは、この国の誰も知らない、未知なる世界。

 この先にどんなものが待ち受けているのか、この物語がどのように進むのかは、まだ誰にも分からない。

 俺は、それが良い方向へと行くように、二人と共にその日その瞬間を、ただ全力で進むだけだ。

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