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異世界武闘譚~英雄の雛の格闘冒険録~  作者: 瀧原リュウ
第二章 エボルブ・ブルード
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#47 戦後と報告

「ふわぁっ・・おはよう・・・」

「おはようタク。随分眠ってたね?」


 あの後、こと切れたかのようにその場で眠ってしまったのだが、どうやらかなりの時間が経っていたらしい。

 肉体的に疲労はないものの、やはり精神的疲労と睡魔には勝てないようで、四六時中行動可能というわけではなさそうだ。

 もしもスキルが更に進化することがあったのならば、そういったことも無くなるのだろうか、まぁ、そんなことになったらもはや人間ではなさそうだが、あとやっぱり睡眠はとりたい。


「あぁ。昨日・・いや今日か?とにかく、思ったより疲れてたのかもな。」

「急に寝ちゃうもんだから、少しびっくりしちゃったわよ。で、タク。これからの事なんだけど・・・」

「そうだな。本当ならもう出発しててもおかしくなかったもんな・・・」


 当初の予定であれば、今日行われる予定であったモラウス首相のお孫さん、マリウス・アリンテルドの誕生式典の後、続けてちょっとした式のようなものを行い、そこからアリンテルドを発つという流れであったが、例の『ケラウノス』の襲撃のせいで城も街も大混乱。首相も戦闘後に昏睡状態に陥り、それどころではなくなってしまった。

 当然、マリウスの式も、俺たちのそれも執り行える状況ではなくなってしまった。

 街の各所では、すでに復旧工事が執り行われており、怪我人もヴォルト城で、次々に治療を受けている。

 治療しているのは、城の魔法師団だけではなく、回復魔法の使える魔法士、冒険者たちがアリンテルド中から応援に駆け付け、それぞれ交代制で治療を行っている。その中にはダリフ率いるギルド『アシュラ』のメンバーの姿も見え、イザべリアたちも必死に事に当たっている。


「・・こんだけの被害が出るとはな・・・」


 俺は城の壁の破壊された場所からライルブームを見下ろす。

 昨日は焦っていたのと、ここまでくる間『神の第六感』を使用していたせいで、街がどれほどやられていたのかを細かく見る時間が無かった。

 起きてしまったものはどうすることもできないが、もし俺がこの数日間、限界まで自分を追い込んでトレーニングをしていれば、この結果は変わっていたのかもしれない。

 そんな部活動の大会決勝で敗北したかのような気分と共に、奴らに対する怒りがこみあげてくる。

 自分が弱かったから負けたというのが事実であり、この気持ちは単なる八つ当たりに過ぎないが、それでも奴らを、クルーシュスを許すことは到底ない。


「・・・・・明日の朝一番にここを発つ。それまでに、アリンテルド(ここ)でやっておきたいことは全部やっておいてくれ。もしもの時は俺は疲れを無視して『身体強化』フル活用の全力ダッシュで戻ってこれるけど、二人はそうはいかないだろ?」

「そうね・・・でもいいわ。伝えたい人には、言いたいことを全部言ったし。」

「うん。僕も、アリンテルドに心残りが無いと言えば嘘になるけど、いつ出発しても大丈夫だよ。」

「・・・分かった。明日になって後悔しても知らねーぞ?」


 この二人は戦闘力の面だけでなく、心も強い。一体どのような思いを今までしてきたのかは、俺には到底計り知れる者ではないだろうが、同い年、年下ながら、本当に尊敬する。


「最後だし、今日はいろんなとこで手伝えることでも探すか。」

「そうね。次に話せるのは、当分先になるだろうし。」

「アールズさんやデイモンドさんも来てるみたいだし、最後に戦い方をレクチャーしてもらおうかな。」

「・・・あ、そういえばお前ら、アシュラの人とか、そのアールズさんとデイモンドさん達に、魔神討伐についていくこと言ってんの?」

「「・・・・・あ。」」

「おいこら。」


 と、いうわけで、手伝いよりも先に各方面に報告することから始まった。別に言わなくても問題はないだろうが、こういうことは後で騒ぎになるよりも先に言っておいた方がいい。

 よそ者の俺はともかく、アリンテルドでも若くして名が知られているらしい二人が今突然姿を消したら、流石に大問題になるだろう。

 もしかしたら、『ケラウノス』に寝返ったのでは・・と言われてもおかしくない。勿論ダリフがいるのである程度は大丈夫・・・とは思ってはいけない。こういったことに関して、あの人を信用してはいけないのだ。

 そんなわけで、俺たちは城を出て、街の警備に当たっていたアールズさんとデイモンドさんを見つけ、二人には事情を説明しておく。

 この二人は、獣人との戦いの際も顔を合わせており、それぞれが『アシュラ』の傘下の両翼。そのリーダーたちであり、プストルムでも、ダリフに次ぐ実力者たちである。

 この二人にさえ報告しておけば、大きな問題には発展しないだろうというレルの考えである。


「・・・というわけなんです。アールズさん。デイモンドさん。」

「マジ?え?マジで言ってんの?」

「・・・お前達、それは、今後の人生、異端の者として周囲から認知されながら生きるということだ。その覚悟はあるのか?」

「「はい・・!」」

「・・・・・ならいい。だが、聞けば英雄の雛だというタクはさておき、今のお前達の力では到底無理だろう。装備を新調したようだが、装備の能力にも限界がある。それら頼りには決してならず。命を削る思いで修練に励むことだ。魔神はおそらく、俺達なんかよりも遥かに強い。相手は神なのだ。Sランク以上の強さを持っていたとしても勝てるかどうかわからないだろう。それでも行くというのであれば、俺達には背中を押すことしかできない。お前たちはこれからもっと強くなれる。期待しているぞ。」

「お、デイモンド君からめったに聞けない激励のお言葉!これはありがたく受け取らねば!」

「黙れアールズ。そんなことを言っていたら今にもこいつらに追い抜かれ・・いやすまん。()()()もう抜かれていたな。失礼。」

「んだとおぅ!?」


 二人が突如として何やら言い合いを始めてしまった。仲がいいのだか悪いのだか。


「・・・んまぁ、僕としても魔神の存在は気がかりだった。神の意志に反するのは分かってるけど、それでもまだ死にたくないしね。とは言っても、僕らが行っても正直勝てる気しないし、絶賛急成長中の君たちに託すのが正解なのかもね。頑張んなよ二人とも。あと・・タク、だっけ?」

「え?はい。」

「・・もしもの時は、二人を頼んだよ。」

「・・・はい!勿論!」

「おぉ、アールズが素直に応援するとは珍しいな。あと、「僕ら」の所を、「僕」に変更しろ。俺をお前と一緒に一纏めにするな。」

「さっきから調子乗ってんじゃないぞデイモンドォ!?」


 結局、一言二言報告に来ただけだったのだが、なぜか二人の喧嘩を三人がかりで仲裁する羽目になってしまった・・・

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