#46 国際会議と考え
―――襲撃事件から半日が経った頃。
アリンテルドは襲撃主犯、クルーシュス・エルラーグ率いる組織『ケラウノス』の危険性を考慮し、即座に国際会議を開いた。参加国は、世界地図の下側に位置する国々。セラム共和国、ルクシア王国、小国アマテラスであるが、アマテラスは鎖国を行っており、交信魔法の使える魔法士も存在しないため、今回は三つの国での会議となった。
モラウスは参加できる状態ではないため、代理としてその場に居合わせ、クルーシュスとも戦ったダリフが代表として参加し、その際の状況、敵の強さ、今回の被害の大きさなどを順を追って説明していく。
「なんと・・!?ダリフ殿から見ても・・そのクルーシュスという男は強いと思うレベルの相手なのですか!?」
各国の代表の中ではまだ若いルクシア王国の国王が、嫌味を含むことなく、ただ純粋に驚愕しながらダリフに聞き返す。
「えぇ。アイツに対抗できるのは、俺と同じくSランク程度の実力の奴だけでしょう。Aランク以下の奴らじゃあ話にならない。」
「ほぅ・・だが・・・君がそこまで言う相手がまだこの世界にいたとはね。ダリフ君。こっちのゼローグにも伝えておかねばなるまい。」
「お願いします、ゼラニオ殿。クラッド王も、リエールの方に。」
「分かりました。彼女には僕から伝えておきます。」
ダリフは他の国のSランクの者にも警戒と用心を怠ることのないように促す。
「あと、お二人も薄々感づいているでしょうが・・・おそらく、あいつも俺達と同じような装備を有してます。」
「ッ・・!?」
「やはり・・・・・世界に七つしか存在しないと言われる神の名を冠する武器・・・そのうちの一つを、そのクルーシュスが持っておると・・!?」
「はい・・しかも、あれはおそらく、『神玉ゼウス』・・・七つの中でも最上位にあたるものです。現在この世界で発見されている武器は六つ・・・もしも最後の一つも、奴らが持っていたら・・・」
「壊滅は困難でしょうね・・・もし勝てたとしても、その被害は計り知れません・・・」
流石にないであろうが、こういった話し合いでは、常に最悪のケースを想定して進めていかなければならない。
「アマテラスはあの感じですし、デトゥルースの奴らは話になりません。情報が入り次第、各々それを速やかに共有していただければと思います。」
「分かりました。我が国も警戒網を一層強くします。」
「うむ。」
「あ、あともう一つありましてね。」
ダリフが思い出したかのようにそう言う。
「む?どうした?まだ他にも問題があるのか?」
「あ、はい。数日前アリンテルドで英雄の雛が現れました。」
「ふむふむ英雄の雛・・・・・ってえええええええええええっ!!!?えっ・・え、え英雄の雛ぁ!?」
「何!?それは本当なのか!?」
最近暖かくなってきましたのようなノリで突然そう告げられた二人は驚く顔を隠せず、その勢いでダリフに問う。
「え、あ、はい。本物の『進化之石板』をこの目で確認しましたし、実力もこの数日だけでどんどん伸びています実際先ほど言ってたクルーシュスとも互角に戦っていました。」
「ダリフ殿・・・私としては、そのクルーシュスよりそちらの方が事が大きいと思うのですが・・・」
「全くもってその通りよ・・・して、その者は、おとぎ話の英雄と同じく、昨今話題に上がる魔神の討伐を?」
「えぇ。その英雄の雛、タク・アイザワも、アルデン様からの命を受けこの世界へとやって来たそうです。我がアリンテルドの近衛騎士団長、フレイリア・ノバルファーマの実妹、アリヤ・ノバルファーマ。そして俺の弟子、レリルド・シーバレード。以上の二人をタクと共に魔神討伐へ送り出す予定です。」
「英雄の雛はともかく、他の二人をアルデン様の教えに背かせる気か!?」
「・・・・・正直、世界滅亡が近づいているこの時に、そんなことを言っている場合ではないということを、ゼラニオ殿も内心どこかで考えているのではないですか?」
「ぬうッ・・・・・!」
ダリフがゼラニオに真剣な眼差しでそういうと、ゼラニオは言い返すことなく黙り込んだ。実際にゼラニオもそういう考えが消えることはなかった。たとえそれが教えに反することでも。
今こうして会議を行っている最大の目的は、民に及ぶであろう危険をできる限り排除するためである。そして、魔神が近い将来その牙をむくのならば、それは『ケラウノス』の脅威を優に超える者となるだろう。
民の中には、神の意志に従い、死を受け入れる者もいるだろう。だがしかし、それは全員ではない。
なんの心残りもなく死ねる者などごくわずかである。やりたいこと、成し遂げたいことがある者。守りたい者や家族がいる者もいるだろう。
「教えに準じ、何もせず死を待つくらいならば、異端者となってでも、教えに背いてでも、生きるために抗い、死ぬまで全力で生きたい。それが俺の考えです。」
その言葉に、ゼラニオは自身の顎に手を当てしばらく熟考する。
「・・・・・・そうか。そこまで言うのならば私は止めはせん。私としても命は惜しい。そして民もそれ以上に大切に思っているつもりだ。その二人の魔神討伐の参加を、英雄の雛の眷属として同行させることに関しては、私は今後一切の反対意見を出すつもりはない。」
「私もかまいません。その者らの武運を祈っております。討伐に向かう途中、我々の国を訪れることもあるでしょう。何かあれば、こちらも協力いたします。」
「お二方、感謝します。」
話合いも上手く纏まり、タク達の件も悪い方向へは行かず、当分の間は、短いスパンで定期的にこの三国で会議を行うという方針も決め、無事に今回の会議は終わりを迎えた。