#44 神殺しの糧その十一
「ふぅぅ・・・埒が明かないな・・・!」
「こっちが言いてぇよッ・・・!」
その後も、状況の変わらぬ戦いが続く。
タクとクルーシュスの戦いは、終わる気配というが全くと言っていいほど感じられなかった。
お互いに凄まじい数攻撃回数を相手に叩きこんでいるものの、タクは『自己再生』で、クルーシュスは原理は分からないものの、損傷部分を雷で修復する。お互いに肉体面で戦闘不能になることはなく、一瞬が長く感じられるよな戦いを始めてからすでに十分が経過していた。
「・・・てかお前、今更だけど、なんで襲撃なんか起こしたんだ?なんかあんだろ理由が。」
タクのその質問に、クルーシュスは一瞬黙り込んだが、すぐに口を開く。
「・・・・・人々の恨みを、憎しみを、神を殺す糧とするためだ。」
「は?」
「この世界は神々によって生まれた。神が大気を作り、神が大地を作り、神が生命を作った。この世界は、神々の正のエネルギーによって生み出され、俺達もそのエネルギーによって生まれたのだ。故に、人々の嬉しい、楽しいなどといった感情は、この世界に反映され、神々の力を高める要因となるのだ。」
「な、何言ってんだお前・・?」
タクには、クルーシュスのスケールの飛躍しすぎた話を、その場ですぐさま理解することなどできなかった。
そして、そんなこともお構いなしに、クルーシュスの話は続く。
「逆に言えば、人間の負の感情は、神にとっての毒。その感情によるエネルギーは、神々を弱体化させ、力を奪ってゆくのだ。そして、全世界の負の感情が俺に向けられたのならば、俺は全生物が到達することのできない、神と同じ領域で戦える力を手に入れることができるのだ。」
「だから・・その負の感情とやらをお前に向けられるために、この街を襲ったのか・・・?」
「そうだ。そして、人望あるモラウス・アリンテルドを殺せば、俺への憎しみの感情は更なるものに・・・」
「バッッッカじゃねぇの!?」
クルーシュスの話に耐え切れなくなったタクは、発言に割り込んで思った通りの感想を述べる。
「なぁにが負の感情で神を殺すだ!全世界の人間に助けてもらわねぇと神に挑む自身もねぇのか!?」
その言葉にクルーシュスは激昂し、今日初めて声を荒げ即座に反論する。
「貴様に何が分かるというのだ!!!神というものは、自分たちよりも遥かに格下の生物しか作らない!!ドラゴンに水の礫を食らわせたところで何の意味もないだろう!それと同じだ!!!人間が単体で勝てるような甘い存在ではないんだよ!!その言い草、お前は一人でも神に勝てると思っているのか?蛮勇もほどほどにしろ!!!」
「・・ッ!!」
クルーシュスの考えも一理ある。タクはそう思ってしまった。
確かに自分は神の強さがどれ程か検討すらついていない。具体的な作戦も無ければそもそもどこに行けば魔神がいるのかすらも分かっていない。正直、旅は想像以上に行き当たりばったりなものになるだろう。
「それでも何とかして勝たなきゃ、俺は帰れねぇんだよ!!それに俺は一人じゃない。俺にだって仲間がいる。皆で魔神倒して、俺はその後にアルデンをぶん殴るッ!!!」
「帰るだと・・・?お前の故郷は、このアリンテルドではないのか?」
「俺はアルデンに無理矢理異世界転移させられたんだよ!お前の神殺しが何なのかは知らねぇが、そんなの関係なく、俺は俺のやりたいようにこの世界を攻略してやる!!!」
「・・・ッ!?・・そうか・・・お前が神の使者・・・英雄の雛かッ!!!」
クルーシュスは更に怒りをあらわにし、ある魔法を発動させる。
「お前の魔法は俺には効かな・・っ!?やべっ・・・!」
タクをドーム状に囲うのは、雷で作られた、人一人分のサイズの頑強な檻。触れてもタクには効果はないが、まるで鋼鉄かのようにびくともせず、その上檻に攻撃しても歪むことすらない。
そしていつの間にかモラウスやダリフまでそれぞれその牢屋に囚われており、当然雷属性を無効化できるほどの耐性など持ち合わせていない二人は、もはやその中でなすすべがなかった。
「俺の作れる最高硬度の『雷牢』・・・一時間後辺りには解いてやろう。それまでそこで大人しくしておくがいい。」
そう言い放ったクルーシュスは、五人の部下と共に歩いて外へと向かう。
「クソッ・・待ちやがれ!!!」
「・・・タク・・自己紹介がまだだったな。俺の名はクルーシュス・エルラーグ。世界のマイナスを背負いて神を恨み、憎しみ、そして殺すために蘇りし亡霊。そして、その神殺しという悲願をを成すべく集う、我ら『ケラウノス』。その長である。」
そして再び外へと歩き始めたかと思うと、クルーシュスだけがもう一度立ち止まり、タクの方を振り向いて鋭い眼光で睨みつける。
「・・・・・英雄の雛タク・・・貴様は近い将来に殺す・・・!」
そう言うと、クルーシュスと他の五人はその姿を闇へと消した。
「ひ・・酷い・・・ッ!フレイリアさん!!!」
クルーシュス達ケラウノスが去った後ヴォルト城へとたどり着いたレリルドが見たのは、予想だにしていなかった凄惨な光景。多くの近衛騎士、魔法士たち、そして襲撃犯もそこそこが地面に倒れている。どうやら全員死んではいないみたいだが、一人、ピクリとも動いていなかった騎士をレリルドは見つけてしまった。
それがフレイリアである。急いで近づいたレリルドは、すぐさま彼女の安否を確認する。
「よかった・・無事みたいだ・・・フレイリアさん!大丈夫ですか!?」
「ん・・うぅ・・・れ、レル・・君?・・・・・ッ!!あいつらはどうなったの!?首相は!?小父様は!?」
「落ち着いてください・・!僕もつい先ほど戻って来たばかりで・・戦闘は終わっているようですけど・・どうにも状況が・・・」
「そう・・・アリヤは?」
「まだ街で残党狩りをしています。言伝は頼んでおいたので、じきにこっちに来ると思います。」
「分かったわ・・レル君、悪いけど・・肩を貸してくれない?まだ思うように動かなくて・・・」
「は、はい!」
レリルドはフレイリアと共に、ヴォルト城の内部へと向かう。その後、二人が見たは、想像以上に酷い光景だった。
「小父様!!首相!!!」
「タクッ!!」
そこにいたのは、苦虫を嚙み潰したような顔をしたダリフ。その周りを、雷のような、檻のような何かが覆っている。
その奥には同じく檻の中にいるモラウス。右腕と左耳が無くなっており、顔色もかなり悪い。かなり危険な状態であることが見るだけでわかる。そして、
「チキショウ!!!舐めやがってェェェ!!!!!」
雷の檻にも関わらず、その拳でガンガンと檻を殴りつけているタク。怒りと悔しさが入り混じったような顔で、拳の痛みなど気にもせず、その後檻が解けるまでの約一時間、タクはただ全力でひたすら檻を殴り続けた。