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異世界武闘譚~英雄の雛の格闘冒険録~  作者: 瀧原リュウ
第二章 エボルブ・ブルード
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#43 神殺しの糧その十

「・・・って首相!?腕・・・!?」

「あ・・あぁ・・・問題ない・・・」

(・・・!そういえば、タクはあの状態の時の記憶が無いんだったか・・・)


 ダリフはタクのその反応に一瞬疑問が浮かんだが、思い返せば、そういえばそうだったと納得した。

 タクの『神の第六感』は、戦いに秀でた神の勘のようなものを一時的に会得し、行使することが可能なスキル。その効果は、戦闘経験の圧倒的に少ないタクが、スキル発動中、ダリフとほぼ互角に渡り合えるほどの効果がある。

 その力を使うにあたり、発動中はほとんど全ての感覚器官が機能しなくなる、そして、一度発動するとしばらく使えないというデメリットもあるが、あらゆる場面で最善の行動を取らせてくれるのだ。


「タク・・・聞かぬ名だな。それに・・我が雷玉を生身で食らい無傷だと・・・!?」

「誰か知らねぇけど、悪いな。俺に雷は効かないんだ。」

「タク!!そいつが襲撃犯のボスだ!!主に雷属性の魔法を使ってくる!!モラウス首相もその通り・・フレイリアも命に別状はねぇが・・そいつにやられた!!」

「な!?・・あのフレイリアさんまで!?」


 タクも一度、それも騎士団の訓練でしか彼女の剣捌きを見ていないが、それでも他を軽々圧倒するような力を見せつけていた。この国でもかなり上の方の実力者であることは明白であったのに。そうタクは考えたが、思考するだけでは起きた事実は揺るがない。

 ならばせめて、目の前のこの男だけは叩きのめさなければならない。二人がやられた分を、万倍にして返してやるのだ。


「こんなところで油を売るわけにもいかん。さっさと撤退を・・・」

「行かせるわけねぇだろうが。」


 男が方向転換して逃走を図ろうとしたが、タクはそれをさせまいと男の前に立ちはだかる。


「速えぇ・・!?なんだあのガキ!?」


 その一瞬の出来事を見たフローガは、驚愕の声を上げる。始めはこんな子供に何ができるのかと内心ほくそ笑んでいたフローガだったが、その認識を改めざるを得なくなってしまった。

 そして、それは他の四人も同じであった。

 襲撃の前、ダリフ以外大したことないであろうと思っていたフローガ含め五人。実際その予想は当たっており、モラウスが思っていたより少しやるくらいで、そのほかの人間は五人にとっては大したことなかったのだ。

 だが目の前で、脅威になりかねない男が、突如として現れたのだ。名前も、経歴も、能力も分からない男が。


「・・・どうやら放置する方が面倒なようだ。貴様はここで始末しておく。」

「あぁ・・・できるもんならな!」


 そこから二人が激しく衝突する。

 タクは先手必勝のストレート、クルーシュスはそれを右手で瞬時に生成した物理障壁を前に構える。


「んなもんで止まるかっ!」


 だが、タクの拳によって、障壁は粉々に崩れ去ってしまう。

 只者ではないということを改めてかんじたクルーシュスは、再び雷霆を生成し、タクへ攻撃を仕掛ける。

 だがそれも束の間、タクはその雷霆を右手で、まるで公園の鉄棒を握りしめるかの如く掴み、そのまま左拳でクルーシュスの脇腹を抉る。

 

「グッ・・ならば・・・『雷速(らいそく)』!!」


 クルーシュスは、そこから凄まじい超加速を見せる。一瞬でタクの背後を取ったクルーシュスは、ゼロ距離で最大威力の雷撃を放つ。

 相手の骨すらも残さない超火力の攻撃は一瞬にも満たないスピードでタクの体を包み込み、バチバチと弾ける。


「・・・馬鹿な・・・・・!」

「芸がないな。ま、俺も人の事言えないんだけどさ。」


 タクは後ろに回し蹴りを繰り出す。

 それはクルーシュスの側頭部にクリーンヒットし、その巨体を激しく吹き飛ばす。

 だが、この程度でクルーシュスが倒れるはずもなく、こちらへ更に速度を上げ迫ってくる。


「どうやら本当に雷が効かんようだ!しかし、相手の害にならぬというならば、こちらの利となるように用いればよいだけよ!『雷廻(らいかい)』ッ!!!」


 クルーシュスは、攻撃に使っていた自身の雷を体内で循環させ、自身の身体能力を底上げする。いわば、雷属性版の『身体能力強化』である。

 そして、左手に持っていたナイフも腰のホルダーにしまい、素手でタクへ挑みにかかる。


「貴様には小賢しい真似を試すのはもうやめだ。力で捻じ伏せる!!」

「・・やってみろよッ!」


 そして、二人は再び真正面から衝突する。そこから繰り広げられるのは、両者拳による攻防。

 『神の第六感』を使わずとも、タクはクルーシュスの攻撃に反応し、対処することができている。

 タクも戦い続きのこの数日の中で、確実に戦闘能力が上がっていた。

 動体視力、反射神経、反応速度など、以前とは比べ物にならない程飛躍的に能力が上昇しているのだ。

 そんなタクとクルーシュスはは戦いの中でお互いに探り合い、正気をつかみ取ろうとしている。

 どちらかが裏をかこうとスピードを上げ、その場から移動すると、もう片方も即座に追従し、片方がフェイントをかけるともう片方はそれを捌き、こちらもフェイントを入れる。またそれをもう片方が捌くなど、両者一歩も引かない戦いを見せていた。


「『雷壁(らいへき)』!!」

「クッソ・・・!」


 今度はタクが放った前蹴りを、クルーシュスの魔力の壁が防ぐ。こちらは先ほどの魔力障壁とは比べ物にならない程の強度で、蹴り破れると思ったタクの油断を突く防御だった。

 そこからタクは右側から回り込み、クルーシュスに強烈な肘打ち、右フックを食らわせる。だがクルーシュスの肉体強度もなかなかのもので、痛みをもろともせず、タクに掌底打ちとボディブローを返す。

 こちらも『身体強化』のおかげで肉体も強化されており、打たれ強さも増していた。

 だが、二人にはなかなかの体格差があり、タクは攻撃には耐えられるものの、攻撃を直で食らった際には毎度のごとく大きく吹き飛ばされる。

 しかしタクは、吹き飛ばされた後の復帰時間が以上に早く、周りで戦いを傍観している人間には、敵味方関係なく、二人の連撃の嵐に巻き込まれることはなかった。


「・・・まさか・・クルーシュス様とここまでやりあえる人間がダリフ以外にもいたなんて・・・!」

「この後隙を見て・・殺されるかも・・・あぁぁ・・死にたくないなぁ・・・」

「・・・・・タク・・出会ってからまだ数日だってのに、どんどん強くなってやがる・・・!」


 そう。ダリフがタクと出会った数日前、タクは戦闘に関して全くの初心者であり、アリヤと模擬戦をしようという話が出た際も、自分の能力を把握しきれていないという無知さであった。

 だが、先の獣人との戦い、ダリフとの模擬戦、スキルの進化、レリルドやアリヤと共に得た経験などが、彼を信じられないスピードで進化させている。

 これがタク自身の戦闘の才能なのか、はたまた彼の持つ『進化之石板(アドバン・スレート)』の効果なのか。それはダリフにも分からないが。

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