#41 神殺しの糧その八
「お姉ちゃんたち、大丈夫かしら・・・」
「大丈夫だよ。師匠もいるし、フレイリアさんだってAランク越えの実力者なんだから。」
「・・・そうね。なら、私たちは私たちにできることをしましょ!」
レリルドとアリヤは、ライルブームを襲撃中の集団を止めるべく全速力で地を駆ける。
一度ヴォルト城で足止めを食らったが、ダリフのおかげで何とか城の外へと出ることができた。
「・・・それにしても、爆発の頻度がどんどん減っていってない?心なしか街で戦っているような感じもしなくなってきたし・・・」
「まさか・・・でも確かに、叫び声や武器同士がぶつかる音も、魔法を使ってるような音が鳴ってる場所もどんどん減ってきてる。街にもAランクを超える人がいただろうし、その人たちかな・・・?だとしても・・・」
あまりにも早すぎる。二人はそう感じていた。
突然襲撃が始まってから、まだそれほど時間は経っていない。ライルブームが相当広いと言っても、まだ走り始めてまだ十分ほど、足止めもそれと同じ時間位だ。その約二十分間の間に、この大事がここまで収まるはずがない。
二人はそれができそうな人間を知ってはいる。二人の脳裏に浮かぶのは、もちろん自他ともに認める最強の男、ダリフ・ドマスレットである。
だが、その肝心のダリフは、現在もヴォルト城で戦っているはずであり、いくら彼でも戦闘中に離れた町の沈静化は難しいだろう。
「こいつらが襲撃犯かしら?」
「おそらくは・・でも全員伸びちゃってるね・・・」
街道で二人が見たのは、その場で倒れている決して少なくない人数の者達。全員同じマークが背中にあり、そのマークはヴォルト城に襲撃してきた者達の物と酷似していた。
「このマークが入っている奴ら以外の人は全く見当たらない。あれだけ爆発が起きてるのに、逆に不自然だ。もしかして、この人たちは街の人を襲うことが目的じゃない・・・?」
「あり得るのかしら・・・?それに、ここまで派手にやっておいて、こいつらの目的は一体なんだっていうの?」
「それは・・分からないけど、とにかく他の場所も行ってみよう。」
そこから更に進んでいると、遠くから微かに叫び声が聞こえてくる。
「ぐあぁぁ・・・」
「ガハァッ!?」
次々に倒れていく襲撃犯たち。そしてそれを次々と叩きのめしているのは、二人が良く知っている顔。今頃洞窟に籠っているはずのタクであった。
だが、いつもの彼とは雰囲気が違う。表情は能面のように少しも変わらず、目からは光が消えている。物静かな様子で次々と敵をなぎ倒すその姿は、まるで敵を排除するために存在しているかのようだった。
「タクのあの感じ・・・」
「うん・・『神の第六感』・・・!」
二人はタクのあの姿を以前にも二度見ている。一回目は森での同種合成獣戦で、二回目は先日のダリフとの模擬戦で。
『神の第六感』は、世界最強クラスのダリフとも互角に渡り合うことのできる、タクがこの世界を創りし神アルデンから授かったスキル。現在使用可能な時間は一分間で、本人曰く、連続発動は難しく、ある程度時間を空けなければ使えないのだとか。
「・・・・・アリヤ、レリルド。」
「タク、今の状況は!?」
「街に蔓延ってたこいつらはある程度潰してきた。いろんな場所で爆発を起こしていた魔法士もほとんどは戦闘不能にして、一般人は他の冒険者に頼んで避難させてる。俺は今から城へ向かう。二人は残党処理を頼む。向こうがやばそうだ。」
「でも・・城にはフレイリアさんや師匠がいるんだよ?何かあるとは思えないけど・・・」
「・・・勘だよ。」
そう短く答えると、タクは目では負えない程のスピードで城へと向かっていく。二人が一瞬目を瞑った瞬間には、彼はもうそこにはいなかった。
「あれ!?タクは!?」
「全く見えなかった・・・あれが進化したタクの本来の力・・・!アリヤ、僕たちも急ごう。タクの言ってた通りなら、まだ敵は残っているはずだ。」
正解と言うかのように、遠くの場所ではまだ爆発音が鳴り響いている。今もなお被害が拡大しているかもしれない。そう思ったレリルドは、タクの言い分を信じ、即座に行動することにした。
「えぇ。急ぎましょう。」
同じく納得したアリヤは、レリルドと共に再びライルブームを駆ける。
途中で二手に分かれ、それぞれが街に残っている敵を排除していく。しかし、それはあくまで戦闘不能にするという意味であり、命までは奪っていない。
武器を握り戦う者、その覚悟をする日がいつか訪れるかもしれない。
だが、二人はまだそんな覚悟など持ち合わせていない。それを持つには、あまりにも若すぎるのだ。
そういう理由もあるが、もう一つ理由があり、それはここまでの探索で一度も死体を確認していないという事だ。
街道に転がっているのは、タクが倒していったその場で悶えていたり、気絶させられている敵の身であり、一般人が倒れている姿は見受けられなかった。
レリルドの言う通り、もしも敵に人を襲うという目的がなかった場合、そいつらを殺すまで至る理由が見つからない。だが、それでも彼らは重罪人として罰せられることになるだろうが。
そして、アリヤは爆発を起こしていた張本人とエンカウントする。
「また冒険者かぁ・・しかも女の子・・・殺さない程度に火薬で化粧してあげるっ。」
現れたのはオネェ口調の男。どうやら手持ちの火薬をばらまいて爆発を起こしていたようだ。
「宙にまんべんなく火薬を散らして・・・『火薬調節』。『発火開始』ッ!!」
ばらまいた火薬をまんべんなく拡散させたのちに、それを炎系の魔法で点火させた。辺りに響く轟音。渦巻く熱風。十分に人の命を奪うことのできる技。
「どうかしら?私のお化粧は?実にパワフルでエキセントリックでしょう?でも私ったら。火力を間違えちゃった。これじゃあ普通に死んじゃって・・・え!?嘘!?」
そう。一般的な人の命ならば。
「まぁ素敵ね。私も火薬は大好きなの。まぁ、私の火薬はこんなちっぽけな威力の代物じゃないけどね。」
爆風の中から、アリヤは平然と姿を現す。本当に何もなかったかのように。
「今度はこっちの番ね。『火焔武装』!!『勇者の双炎剣』!!!」
アリヤは右手で愛剣マリア、左手で『火焔武装』により生み出した炎の剣をそれぞれ握りしめ構える。
「な!?なんなのアナタ!?や、やめ・・・」
「今更遅いわよ!!」
アリヤは即座に男の両腕を切り落とす。
「ぐぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああ!!!!!」
「・・・街を好き放題に荒らした罰よ。斬った部分は炎で止血してあるから、死ぬことは無いわ。せいぜい、大好きな火薬を二度と握ることなく、そこでずっと反省しておくのね。」
男は痛みで気絶したようで、アリヤはそんなことを気にせずに残党狩りに励む。