#37 神殺しの糧その四
「ホルンフェルス・・アーガル鉱石・・チボール石・・クロサイト堅岩・・・」
レリルドは、本の中で調べ上げた石で片っ端から石壁を生成する。
始めに石壁を作ってからすでに五時間が経過しており、生成できる石のレパートリーは増えてきたが、それでも数秒間経過したのちにどれも崩れてしまうのだった。
「ふぅ・・・中々大変だな・・・」
昨日購入したコートを装備しているので、魔力切れの心配はしなくてもよくなったものの、肝心の力量が追いついておらず、このままではこのコートの真価を発揮させてやることができない。
「イメージは出来ているはずなのに・・・一体何が原因なのだろう・・・?」
「・・・・・レル、ちょっといいか?」
ここまでの時間、ずっとレリルドに助言を入れていたダリフが訪ねる。
「は、はい!」
「ちょっと思ったんだが・・・石の種類は何でもいい。剣の形で生成してみろ。」
「え・・・?」
レリルドは頭に疑問を浮かべながらも即座に実行する。出来上がったのは、刃の先端から柄まで全て石の剣。自分で生成したそれをしばらく眺めていると、レリルドはあることに気づく。
「あ、あれ!?崩れない!?」
「やっぱりか・・・」
ダリフはそのままその現象についてレリルドに説明する。
「お前、いつも剣を使うし、眺めてるだろ?お前が毎回瞬時に剣を作るとき、結構それを集中してみてるんだがな、どれも寸分の狂いもないんだよ。それだけお前が剣を愛しているっていうのは嫌って程伝わってくる。だがそのせいで、戦闘で使ってる銃?だっけ?あれと盾とか以外のイメージが意識的に難しくなってるんだ。只の壁を作るだけでも、頭のどこかでいつもの剣が浮かんでくる。違うか?」
「・・はい、その通りです・・・」
レリルドは、自他ともに認める武器マニアであり、ラザール通りを普段歩く際に、よさげな武器を見つけた途端に立ち止まるような人種なのだ。愛用しているベレッタも毎日のように眺めているし、剣もこれまで何万回生成してきたか分からない程である。
たかが壁。されど壁。どこにでもあるそれにおいて深く考えたことなどなかったのだ。
「てなわけでレル。とりあえず。そこの壁でもしばらく眺めてみろ。そしたら壁なんぞ余裕で作れる。あんなんより、お前がいつも作ってる剣の方がよっぽど複雑だぜ?」
そうしてダリフが指をさすのは、訓練場の端にある城の壁。白く美しいその壁を、レリルドは眺めながら考える。
(壁・・・この壁の一部を切り取って、そのまま取り出すイメージ・・・そしてそれを・・・石で・・さっきまでの物とは違う・・・もっと硬い石・・・金剛石、いやだめだ。衝撃に弱い。それよりも更に固いもの・・・)
「・・ハアッ・・・!『夜空之宝石』!!!」
次の瞬間レリルドが生み出したのは、黒と青を融合させた配色、星のように点々と輝く粒の混じり、まるで夜空を感じさせるような見た目の美しい石の壁。見ているこちらが吸い込まれそうだ。
そしてその壁は、しばらく経過しても消えることはなかった。
「ほぉ・・やれば出来んじゃねぇか・・・!」
突然の圧巻の出来に驚愕したダリフは、それを見て思わず息をのむ。そして、己の衝動に駆られるようにその壁に自身の大剣を叩きつける。
カァァァァァァン!!!
「うわぁ!!」
急に攻撃されるとは思っていなかったレリルドは驚いて尻もちをつく。そして、肝心の石壁はというと・・・
「すげぇ・・・軽めだったとはいえ、無傷とはな・・・」
レリルドが生成した壁、『夜空之宝石』は、ダリフの大剣による軽めの一撃を食らっても傷一つついておらず、その美しさも健在だった。だがしかし、流石にまだ持続させられる時間は短いようで、生成して五分で消失した。
「やるじゃねぇか!!まだまだ改善の余地はあるだろうが、お前の新技の完成だ!」
「ハアッ・・・ハアッ・・・・・!」
レリルドの新たなる防御魔法、『夜空之宝石』発動の負担はかなりの物のようで、体力に相当自信のあるレリルドも、一度使用しただけでかなり息を荒げている。
(レルもアリヤも・・そしてタクも。ちょっとしたきっかけでどんどん強くなりやがる。まだ魔神には程遠いだろうが、このままいけば・・・世界全部をひっくり返すような番狂わせが起きるかもな・・・!)
そう考えながら、ダリフはいつものニヤリとした笑みを浮かべる。
「急に攻撃して悪かったな。ほら、立てるか?」
「ハアァッ・・ハッ・・師匠の・・攻撃は・・・強すぎて・・心臓に悪いんですから・・・」
「いやーすまんすまん!」
「まったくもう・・・でも、ありがとうございます、師匠。今日だけでも、いろんな気づきを得ることができました。」
「おっと、その言葉を言うのはまだ早いぞ?明日まで時間はたっぷりある。できるだけ慣れておいといた方がいいし、もしかしたら他にも新技が作れるかもしんねぇぜ?」
「師匠・・・はいっ!」
レリルドはこの技という名の石を磨き、玉へと昇華させることを決める。目指すは絶対なる守護の壁。破壊不能の絶対防御。師、ダリフ・ドマスレットの全力にも耐えることのできる硬度。
道のりは遥か遠く、険しいものだろうが、これから相手取ろうとしているのは、この世界を滅ぼすほどの力を持つ魔神。その力に、運命に抗うことのできる力が、これからの自分たちには必要なのだ。
そう考えたレリルドは、更なる力を求め、再び大書庫へと向かう。
「魔法に関して僕は、生成。一時的に物を生み出すことしか取り柄がない。だから、その力を一点集中で極めることができたとしたら・・・」
タクのような身体能力も、アリヤのような剣の腕もない。勿論それらも追いつけるように努力はするが、おそらくそれらを、自分の得手を磨き続ける者達にその分野では勝てない。
「それでも、僕だってやれる・・・僕にしかできないこともある・・・!」
今はただ、自分にできることを。自分にしかできないことをやる。口にするのは簡単なありふれた言葉。しかし時として、それが一番困難な事だったりもする。
「生成できる武器の種類を増やす・・?剣の刃の材質を変えてみてもいいかもしれない・・・自分を固定砲台にしてみるのも・・・もし城壁クラスの大きさの壁を作ることができるのなら・・・!」
レリルドが使う魔法は他の魔法士と比べてかなり自由度が高い。一般的には不可能のように思えることも、彼ならば実現が可能なものはたくさんあるのだ。
そのアドバンテージを最大限生かすことができたのなら、きっとどんな相手にも負けることのない魔法士になれる。世界を救うという正直言って絵空事のようなこれから課せられる使命を果たすことだってできるはずだ。
「やってみせる。タクとアリヤをサポートし、みんなを守れるような魔法士に、僕はなってみせる・・・!」
改めて誓いを立てたレリルドは、大書庫で使えそうな本を求め再び歩き出す。




